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「アルフォンス、僕の許可なく勝手な真似をしないでくれるかな」


部屋の中に入るとアルフォンスはベッドの脇に座り、眠っているリゼットの手を握っていた。その光景を見て、クロヴィスは思わず顔を顰める。


「そんなに目くじら立てないで下さいよ。自分の()を見舞うのに、どうして叔父上の許可が必要なんですか?」


ワザとらしく妻を強調するアルフォンスに苛々が抑えられない。クロヴィスは、ツカツカと彼へと歩いて行くと彼の手をリゼットから引き離した。


「彼女はまだ僕の、妻だ。君の妻ではない」


アルフォンスは一瞬、顔を顰めるが直ぐに笑みに変わる。


「あぁ、そうでした。まだ、そうでしたね。でも、それも後僅かの話ですが。リゼットが回復し次第、彼女は叔父上とは離縁して正式に僕の妻だ。でもそれまでは、叔父上に彼女を預けておいてあげます」


そう言い捨て彼は帰って行った。





クロヴィスは静かになった部屋で立ち尽くす。ベッドで眠るリゼットを見下ろした。頬を染め、額に汗が滲んでいる。浅い呼吸を繰り返し、苦しそうだ。


『風邪ではなさそうですね……。精神に何かしら負荷が掛かり、心労が出たのかも知れません』


リゼットを診察した医師から言われた言葉を思い出した。


『リゼット嬢は必死に、笑っていた。あれが幸せに見えるなら、お前の目は腐っているな』


きっと今は慣れ親しんだ場所を離れる事が寂しく少し不安に感じている、ただそれだけだ……。何時か、彼女もこれで良かったと思える日が来る筈だ……。


僕は、間違っていない……これで、リゼットは幸せになれるんだ、だからー。


「…………さま、クロ、ヴィス……さ、ま……クロヴィ、ス、さ……ま」


暫く呆然としていたが、リゼットの声に我に返った。何時かの彼女が「おにいさま」とうわ言を繰り返していた日の様に、彼女は自分の名を繰り返し繰り返し、呼んでいる。


右手が何かを探る様にして、ベッドの上を彷徨っている。無意識だった。気が付けばその手を握っていた。

すると彼女は薄めを開けて、こちらを見る。瞬間心臓が跳ね、手を離そうとしたが彼女が握り返してきた。


「クロヴィス、さま……?」


「あ、いやこれは……」


何と言い訳をすればいいのか言葉に詰まる。


「やっぱり…………ゆめ……か、なんだ」


「……」


意識が混濁しているか、どうやら夢だと勘違いしている様だ。


「ふふ……クロヴィス、さまがいる」


苦しい筈なのに、リゼットは笑った。


「クロヴィス、さまだ……」


握っている手とは逆の手を、彼女はクロヴィスへと伸ばしてくる。その手をクロヴィスは掴んだ。


「リゼット……」


「夢、だけど……クロヴィスさま、がまた逢いに、来てくれた…………」


そう言った次の瞬間、リゼットの瞳から涙が溢れた。


「クロヴィス、さま……ぎゅっして、くださ……」


クロヴィスは唇をキツく結ぶと、リゼットを抱き締めた。


「ふふ……しあわせな、夢です…………っう……っうぅ」


彼女は嗚咽を洩らしながら、クロヴィスに縋り付いてきた。


「やだぁっ……いや、やだっ、クロヴィスさま、やだっ……」


「リゼッ、ト……?」


まるで幼な子の様に泣きじゃくる彼女に、クロヴィスは戸惑い目を見張る。


「クロヴィスさま……捨てないでっ……」


「っ……‼︎」


「他に、好きな方が、いてもいい……から、わがままだって、思われても、いい……だから、だからっ……わたしを、捨てない、で……わたし、クロヴィスさまを……ずっと、……」


体力の限界がきたのか、リゼットは意識を手放した。意識がない彼女の身体を、クロヴィスは掻き抱いた。久しぶりに抱き締めた彼女は、力加減を間違えたら折れてしまいそうな程細くて小さかった……。


「リゼット……僕は……」
















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