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招待客等が集まり、広間は賑わう。クロヴィスは一旦その場を離れ、リゼットを迎えに行った。


彼女の自室の前で立ち止まり、息を吐く。彼女が起きている時に顔を合わせるのは数日前のあの夜以来だ、酷く緊張する。正直、彼女がどんな反応をするのかが怖い……。

クロヴィスは、意を決して扉を軽くノックするが返事はない。仕方なく許可なく扉を開け中へと入った。


「リゼット」


支度を終えた彼女は窓辺に佇み、外を眺めていた。クロヴィスは反応のないリゼットを後ろからそっと肩に触れ顔を覗き込む。


「時間だよ」


「……はい」


どこかボンヤリとしたリゼットは、笑っていた。その事に思わず目を見張る。


「どうかなさいましたか、クロヴィス様」


「……いや、何でもないよ。じゃあ、行こうか」


少し躊躇うがリゼットの手を引いたクロヴィスは、広間へと向かった。



広間へと入ると令息等の視線がリゼットへと集まる。その目は正しく獲物を狙う目だ。ギラついていやらしさを含んでいる。内心、複雑な思いに駆られた。


クロヴィスはリゼットを改めて見る。今日は一段と愛らしい……いや、美しい。ドレス自体が大人の女を感じさせる形ではあるが、彼女そのものから色香が漂う。長い髪は綺麗に纏め上げられ、頸が見える。化粧も普段とは異なり、真っ赤な口紅が塗られた唇から目が離せない。確かにリゼットなのに、彼女じゃないみたいだった。分かっていた筈なのに……もう、幼い頃の彼女じゃないのだと嫌でも思い知らされた。



「リゼット嬢、今宵は一段とお美しい」


リゼットを連れ夫候補等と順番に話をして回る。男達は誰もが彼女の前に跪き、リゼットへの熱く甘い想いを語った。正直、聞いていて反吐が出る。

横目でリゼットを盗み見ると、彼女は満更でも無いのか頬を染め、終始笑顔でそれに応えていた。彼女が自分ではない男へと笑顔を向けている……その事実に勝手だと思いながらも、酷く嫉妬した。



「レンブラント様」


良く知った顔にリゼットの表情が綻んだのが良く分かった。


「リゼット、見違えた。今日は随分と粧し込んでいるな。良く似合っている」


学友とあり二人は話が弾んでいた。レンブラントは叔父の立場を除いても、真面目で誠実な人柄だ。彼は特に武術に秀でており、勉学の方は平均的だが特に問題はない。クロヴィスは彼ならリゼットを任せても良いかも知れないと思っている。近過ぎず遠過ぎない良い関係の夫婦になれるだろう。


「リゼット、綺麗だよ」


二人が暫し話しているとアルフォンスが強引に間に割って入って来た。レンブラントは明らかに嫌そうな顔をする。


「兄上、まだ俺がリゼットと話しているんです。順番を守って下さい」


「他の者達より話が長い。平等じゃないだろう」


難癖をつけ騒ぐアルフォンスにクロヴィスはげんなりした。これでは何方が兄で弟なのかが分からない。


「さぁ、リゼット。次は僕の番だからね。向こうで二人きりで話をしよう」


アルフォンスは半ば強引に戸惑うリゼットの肩に手を回し、彼女の返事を待たずに連れて行こうとする。クロヴィスは反射的にリゼットの腕を掴み引き止めようとしたが……リゼットが手を引っ込めた。瞬間、頭が真っ白になる。


彼女に拒絶されたー。


伸ばした手を引っ込める事も忘れて、クロヴィスは呆然とそのまま立ち尽くした。




「叔父上、追わなくて宜しいんですか」


暫くしてレンブラントの声に我に返った。


「構わない……」


ようやく声を絞り出す。


「叔父上も大概ですね。いい加減素直にならないと、後悔しますよ」


「……」


情けないが、彼の言葉に何も言う事が出来なかった。




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