第1話 ヒステリックな姉達と犬耳少女
「お、ベヒーモス討伐依頼かコレにするかな。」
俺は依頼書を壁から剥がし受付嬢へと提出しに行こうとすると横からヒョイと知らない冒険者に横取りされる。
「おいおいアンタ新米だろ? いきなりこんな高ランクな依頼受けても痛い目見るだけだぜ?」
(良い人なのかな? 確かにいきなり高ランクな依頼受けるのはやっぱ駄目か。)
そう思っていると依頼書を横取りした茶髪で紅い鎧を着た戦士風の男は得意げな表情になり俺をバカにする。
「ま、気持ちは解らなくはねぇがアンタ見たいに自分の力に見合わない依頼を受けておっ死んだ奴を沢山見てきたんだ。 大人しく冒険者なんて止めるか、誰にでも出来る低ランクのゴミ拾いでもして地道に稼ぐんだな! はーはっはっはっ!!」
(一理あるか、性格はアレだけど先輩からのアドバイスとして受け取るか……ん、姉さん?)
「レイ、ちょっとここで待っててね。」
「そうね、わたし達ついさっき用事が出来たから。」
「にゃはは……。」
(なんか嫌な予感が……。)
共に来ていた姉さん達は俺に眼の笑っていない笑顔を向け先程の冒険者がベヒーモス討伐の依頼を受け終えた後に俺にギルドで待つ様に支持すると戦士風の冒険者の後に着いて行く。
「ん、何だ? ははーん、分かったぞさっきのぼうずに愛想尽かせて俺に付きたいんだな! 流石の俺も三人相手じゃ骨が折れる……ぜ……。」
ギルドから出た冒険者へと近付いた姉達は戦士風の男を壁際へと囲うと何を勘違いしているのか頬を染めながら得意げになっているとローサは壁ドンをかまし、放送禁止用語を使う。
「あ? てめぇ、私の可愛い弟をバカにしてタダで済むと思ってんのか? てめぇの汚えキン○マ引き千切ってサメの餌にしてやろうか?」
「それとも私の氷魔法でア○ル氷漬けにして二度とウ○コ出来ない身体にすんぞコラ?」
「今度アタシ達の弟バカにしたら身体中の毛と言う毛を毟り取って二度と生えてこない様にしてやっぞ? おん?」
「姉さん! 何やってんだよ、その人恐怖で白髪になってるじゃないか!!」
俺は嫌な予感がし外に出ると姉達の殺気に充てられたのか、先程の冒険者は白髪になり弱々しくその場へとゲッソリした表情で力無くへなへなと座っていた。
「だ、だってレイが受ける筈の依頼を横取りしただけじゃなくバカにしたのよ!」
「そうね、それにこの程度で恐怖感じるなんてね! 最初からレイをバカにしなきゃこうはならなかったのに。」
「悪は滅びたにゃ。」
「あーもう! 何て事してくれてんだよ!!」
戦士風の男は涙目で“ゴメンナサイもうしません、調子に乗ってすみません”と小さな声で連呼している。
「はぁ……、どうすんだよこの人……んアレは人か? 少し違う気もするけど。」
そこへ馬車が通りかかるのを見ると檻が有り、その中には女の人が閉じ込められている様に見えたが頭には犬の様な耳、腰には尻尾が生えていた。
「にゃ、どしたのレイ?」
「いや、アレ何かなって。」
「あーアレね魔物よ、稀に突然変異で人型の個体が生まれるらしいわ。 そのメカニズムについては多くの研究者が調べているけど未だに解明されてはないわね。」
「それと、その珍しさからオークション等で高値で貴族や王族のペットとして買われるケースが多いわね。」
バネッサ姉が人型の魔物について噛み砕いて教えてくれたが、ローサ姉の話を聴くと俺はなんだか可哀相な気がした。
「なあ、もしかして魔物って事は姉さん達は……。」
(いや、止めておこう……聴きたくない。)
「にゃ?」
「やっぱ何でもない。」
(はっ! まさかあの魔物を欲しがってる!?)
「大丈夫よレイ、私が買って来てあげるわ。」
「は?」
(ローサ姉、何言ってんだ?)
(しまった出遅れた! 流石はローサ姉さんレイの言おうとしてる事を理解するなんて! 好感度を上げるチャンスだったのに!!)
「やられたわねメリッサ、今回ばかりはローサ姉にしてやら……メリッサ何処に?」
「すみまっせーん♪ その魔ー物、くーださいな♫ にゃははは!」
(残念でした、ローサ姉さん、バネッサ姉さん速いもん勝ちにゃ!)
「「メリッサ! 何時の間に!!」」
俺が聞こうとした事を勘違いしたのか姉さん達は先程の馬車を追いかけ商人へと買取交渉を始めていた。
「こ、困りますよ! この魔物は今日一番の目玉商品なんですから!!」
「えー、そこをなんとかお金なら幾らでも払うからさ〜。」
(メリッサ苦戦してるわね、こういう時にお金で解決しようなんて甘いわよ? それこそオークションに出れば良いだけの話だし。)
「商人さっぁ〜ん♡」
「今度は何かね?」
「その魔物ア・タ・シ・にくださらな〜い? ほら、もし譲ってくれたら見せてア・ゲ・ル♡」
「にゃ!? バネッサ姉さん色仕掛なんてズルいにゃ!!」
メリッサ姉は何時の間にか商人にお金を払って買おうとするが目玉商品の為か拒否されているところにバネッサ姉は自分の胸元を広げ見えそうで見えないくらい服を開けさせ商人を誘惑するが興味が無いのか、商人の口からとんでも発言がされる。
「幾ら身体に自信があるか知らんが私はゲイだ! 女の色気に触発される事は無い!」
その言葉を聞いたバネッサ姉はピシッと石の様に固まり、そこへローサ姉が商人に交渉する。
「全く、バネッサもメリッサも恥を掻かせないでくれるかしら? お金が払えるならオークションに参加すれば良いし、色仕掛で商品をタダで譲る商人なんて居る訳ないでしょ。」
「もう行っても良いかね?」
「さっきはごめんなさいね、その魔物と私の剣との交換でどうかしら?」
「はぁアンタもかい、いい加減にしないと憲兵を呼ぶ……ぞ……これは!!」
商人はローサ姉から手渡された剣をマジマジと観ながら鑑定を始める。
「どうかしら? この世に二つとないレア物よ、価値は同じ位だと思うけど?」
「ふむ、これならば良かろう交渉成立だな。 後は自由にするが良い。」
商人は犬耳少女の魔物とローサ姉の剣を交換すると俺の元へキョロキョロと辺りを震えながら見渡す魔物を連れて来た。