桜の木の呪縛
桜の木。
そこには死体が埋まっているという噂がある。
本当か否か。それは私には分からない。それが本当かもしれないし、嘘かもしれない。
今までそんなこと気にしたことがなかった。
ただの噂話。その程度で捉えていた。
けれど、今だけは思う。
嘘であってほしいと。
これはそんな噂話を嘘であってほしいと願う私と、その噂話を本当にしてしまった友人である倉式愛里の小さな話を綴ったものである。
* * *
私たちが中学校を卒業した次の日、突然事件が起きた。その日はまだ3月下旬で、まだ高校生にはなっていなかった。中高一貫の私立の学校に通っていた私たちは、高校生になるその間までに出された宿題をやっておかなければならなかった。
けれど、そんなことに手をつけられないほどの事件が、卒業した次の日に起きた。
私が中学時代に1番仲良くしていた友人、倉式愛里が行方不明になったと、彼女の両親から連絡が来たからだ。私を含め、クラスメイトたちは彼女の行方を探した。
けれど、何の情報も得られず、気付けば4月になっていた。私はあらゆる所を探した。
けれど見つけることが出来ず、私はため息を吐いた。
ぱらぱらと何かが落ちてくる。上を見ると、綺麗な桜の木があった。花弁を拾い上げる。
「もう4月か……今年は葉桜になるのが遅い気がするな」
4月の頭でまだ綺麗に咲き続ける桜を見て、そんなことを呟く。
桜の木。それを見た時、ふと誰かの小説を思い出した。
【桜の樹の下には屍体が埋まっている】
ぞっとした。
そんなはずないと言い聞かせて、だけれどそこにいるような気がして、私は中学校へ向かった。スコップで1番綺麗に咲いている桜の木の下を掘っていく。いないことを願って、勢いよく。
そんなはずがない。
彼女がそんな噂話を実現させるはずが--
そう思った。
けれど、深く掘ったそこには、にこりと笑っている倉式愛里がいた。思わず息を飲んだ私に、何故か生きていた彼女は口を開いた。
「ねぇ、桜……綺麗に咲いているでしょ? 私のお陰だよ。ねぇ、〇〇、四月になって、桜が咲く度に……私のことを思い出してね」
その言葉を最後に彼女は息を引き取った。
私は警察に連絡し、その後のことを任せた。
あれから何年か経つが、4月になると思い出す。
彼女のことを。
俺はずっと忘れない。