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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十二章
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第十二章『終焉戦争後の世界』その㉒

 修復作業を終え、合流したエリミエルと共に城崎やグレモリーが待つ場所へと戻ると、城崎とグレモリーがあーだこーだと小言を言い合いながらも食事の準備をしており、そのことに私とエリミエルは僅かに頬を緩めた。


「あ、ミョルちゃんおかえり!ていうか聞いてよ、崎ってばこのカエルを入れるの嫌だっていうんだよ?!あり得なくない?」


「普通に嫌だろそれを食べるとか!ミョルエルからも何とか言ってやってくれよ。じゃないと今晩の飯はゲテモノになるぞ」


 何をもめているのかと思えば、変に女々しい事をいう城崎は大きめの鍋をかき混ぜ現代でいうシチューに近い物を作っているようだが、鍋の中を覗けば肉の類が見当たら無かったためグレモリーへサインを送ると、手にしていたカエルを瞬時に捌き出来上がった肉塊をグレモリーが容赦なく鍋へとぶち込むことによって、城崎は声にならない悲鳴を僅かに上げていた。


「仲睦まじいな」


 穏やかに、だけど少しだけ妬いているような声色で私の傍にきたエリミエルは、どこからともなく調達してきた木で即席の椅子を幾つか作ると、それに腰かけるよう勧めてきた。


 特にそれに断る理由も無いため軽く頭を下げてから腰かけると、エリミエルは私の隣に自身の椅子を置きそれに腰かけた。


「そういえば長い付き合いではあったが私はお前の名前を知らなかったよ。天界ではとても親しい間柄だったと思っていたのだが、それは私だけだったようだな」


 表情には出してこそいなかったが、エリミエルの声は僅かに震え目には少し涙を溜めていた。


「何を勘違いしてるのかは知りませんが、私が名を授かったのはトール様が眠りにつかれる際です。その後すぐに天界を後にしたので知らなくて当然ですよ。唯一知っているウリエルお兄様もそういった雑談をする御方ではないですからね」


「そうか…そうだったのか!いやーまあ正直そうなんじゃなかと思いはしていたのだがな、万に一つでもそうだったのであれば私は立ち直れないところだったぞ!」


 心底嬉しそうに私を抱き寄せながら感極まった様子のエリミエル。


 当時も今と同じ疑問を抱いたのだが、この時しばらく顔を合わせていなかったとはいえ、ここまでスキンシップが激しい部類ではなかったはずだ。


 会っていない間、彼女の身に何が起こったのだろう?


「あぁ出来ちまった…いや、完成したっていっていのかこれは?…いっそのことこれは俺の料理じゃないって、そう思うことにしよう」


 そう悲嘆に満ちた声で自身の料理を見つめる城崎とは対照的に、何やら上機嫌で器によそっているグレモリーは自身と私、それにエリミエルの分を器用に運んでは、私たちにそれぞれの器を手渡した。


「ありがとうございます。これがあのカエルですね、中々に美味しそうですね」


「でしょ?なのに崎ってば今だに渋ってるんだよね。内容物はちゃんと処理したんだから問題ないはずなのに」


 グレモリーのいう通り何か問題があるとは思えないが、一体城崎は何を躊躇っていたのだろうか。


 そしてグレモリーはあたかも当たり前の様に私の隣、エリミエルとは反対側の位置で椅子を置き、それに腰かけ「いただきまーす」と笑顔で言ってから料理を口にする。


 現状グレモリーの身体は人間に近いため食事を取る必要があり、魔神の身体では味わえない事柄に嬉しそうな声を漏らす。


 村にいた頃はさして料理などしていなかったらしい城崎だが、村を後にし今に至るまでの間に私が叩き込んだ料理の腕前は格段に上がっており現代でもたまに城崎の料理を口にするが、この頃よりも数段腕前を上げているため美味しく頂いているのを思い出す。


「確かに、これは美味しいな」


 エリミエルにもどうやら好評らしく、そのことを耳にした城崎は若干照れくさそうに顔を背けながら、まだ少し衰弱しているアメルラに器を手渡していた。


 ベイヤはというと、私たちが修復作業を行っている最中に果てたようで、その身には過ぎた魔術の代償からか果てるまでに身体は老衰しては髪は白く朽ち、命を絶って尚身体は干からび続けていたそうだ。


 その様子に流石に同情した城崎がグレモリーの手を借り火葬した後に土の中に埋めたそうで、その際ついでだからと他の山賊たちの遺体も同様に火葬し土に埋めたと聞いた時は城崎の心意気に感心したほどだ。


 現代で神父をしている主だった起因は既にこの時から持っていたのだろうと、改めて私は思い至った。


 食事を終え、日中の疲れからか城崎とアメルラはすぐに眠りに落ち、グレモリーもまた人間の身体でいるため睡魔に抗えず、静かな寝息を立てながら私に身体を預け眠っていた。


 グレモリーと行動を共にしてからそこそこ経つが、天使である私と同じく魔神であるグレモリーには睡眠といった行為は基本必要なく静かに眠っている様子はとても新鮮なもので、気が付けばグレモリーの頬をつつくなどのちょっかいを出していると、グレモリーと反対側にいるエリミエルが小さく笑い声を溢した。


「…なんですか」


「いやなに、ミョルがそのような事をするなど思いもしなかったからつい、な」


「いいじゃないですか、すこしくらいお茶目な一面があっても」


「それもそうだな。友人の知らなかった一面を知れたことだけでも現界に来た甲斐があったというものだ」


 そうえらく上機嫌に城崎の村から拝借した酒を煽るエリミエル。


 通常天使である私たちはアルコールに対する耐性があるのだが、今はタガを外しているのかエリミエルの頬は紅潮し僅かに酔っている様子だった。


「さて、そろそろお聞きしてもよろしいですか?今、天界はどのようになっていて、何故あなたが現界にいるのかを」


 私の言葉に少しだけむっとしたエリミエルだったが、すぐにその表情を破綻させ妙に誇らしげな表情へと変える。


「なに理由などは至って簡単だ。終焉戦争が終わって以降、ルシフェル様も眠っておられた間は正しくまとまりのない状態が続いていた。だが、現界から御帰還された豊穣神・アテリウス様のお力によってルシフェル様は目覚め、それ以降天界は正常に機能し始めた」


 豊穣神・アテリウス、聞き覚えのあるその名に反応を示した私へと、空を見上げながらその時の事を思い出す様に語るエリミエルの目がスッと向けられ、私は身体を僅かに跳ねさせた。


「ミョルエル、お前のおかげだよ。お前のその行動によって天界に今があるように、私がここにいるのだ。…といっても半ば無理やりに私は現界へと来たのだがな」


「それは…そうでしょうね。エリミエル程の戦力が天界を離れれば、神々なき今天界へと攻め込まれるのは大きな痛手となります。よく許可が下りましたね」


「まあそうだな、…自惚れるわけではないが私程の天使が天界から現界へと行くことが許可された理由など、よく考えれば簡単なものなのだよミョルエル」


 そうこれまで穏やかな表情で話していたエリミエルだったが、スッと影を落としたような感情を殺した表情を私へと向ける。


「熾天使の方々やウリエル様、ミカエル様といった四大天使の方々でもこの役目は良かった。だが、私が志願したのだよ。そうすることで僅かにでも助けになればと、良かれと思って私が今ここにいる」


 エリミエルのその言葉に考えまいとしていた事が結びつき、私の顔は少しだけ強張った。


 それはきっと、仲の良いエリミエルや兄であるウリエル以外の天使が来たことを想像してしまったからだ。


「ミョルエル、天界―ひいては上位勢がお前の帰還をご希望だ。賢明なお前の事だ、もう気付いているのだろ?私に課せられた役目、それは無理やりにでもお前を天界へと連れ帰るということに」


 そう言葉を並べるエリミエルは苦虫を嚙み潰したような表情で言ってから、ふいっと視線を逸らし顔を沈ませる。


 恐らく私が現界にいる理由についてはウリエルが伝えているはずだが、それを承知した上で決断を下し、最も実力が拮抗している、尚且つ条件次第では望む結果を出してくれるであろうとエリミエルに許可が下ったのだ。 


 これはあくまで私の予想なのだが、きっとエリミエルには夜間でのみ接触せよという指令があったのではないかと思っている。


 そしてこの時私とエリミエルが話している時間帯は夜間であり、エリミエルがその気になればこの瞬間に捕えらえていただろうが、『助けになれば』という発言から私の事情は詳しく知り得ていると考えていいようだ。


「そうですか、ですが私は帰りませんよ。目的を達せず戻るなど、私の意思を尊重してくださった方々に申し訳が立たないからです」


 私のわがままに始まった旅ではあるが、今となってはウリエルやミカエル、それに一度は共に帰還することを望んだアテリウス様との約束がある以上、達成することなく終えることなどありえはしない。


 そう確固たる意思で告げた私だったが、案の定エリミエルが戻した視線には敵対の意思が微塵もなく、朗らかなものがそこにはあった。


「あぁ、わかっているさ。元より私にお前を捕える意思などありはしない」


 憑き物が落ちたようによく見た笑みを浮かべたエリミエルだったが、再度空を仰ぎ見た際にはその笑みを潜ませた。


「だがこれには期限が設けられている。天界では現在、秩序を重んじる姿勢を取り始めていてな、本来であればこのような時に離脱者を咎めることなどしないはずなのだが、時期が悪かったとしか言いようがない。後の脅威になるのなら、というのが主たる理由なのだろう」


 かつて天界に身を置いていた者達の反逆から起きた終焉戦争。


 それらが天界を離脱した際、主神達は特に気に掛けることがなかった事が故に起こった戦争だと上位勢の天使達は考えているようで、二度も同じ過ちを起こさない為の対策というのなら頷ける。


 今後もし同じように離脱する者がいれば容赦はしないと告げているようなもので、栄光な事にその第一者として私が選ばれたということだろう。


 言葉を返すことなくじっと見つめる私に対し、エリミエルが視線を戻しては心配そうな眼差しを向ける。


「信じていいんだな?お前は…ミョルエルは私たちを裏切らないと信じていいんだな?」

うん、やっぱ残り一つです

それが投稿終わったらまた一週間、もしくは二週間お休みをもらいます

ちょっと一か月で書ききれるか不安なのでちょっと長めに…ね?

なるだけ頑張ります


次回の投稿は8/10(水)です お楽しみに

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