第十二章『終焉戦争後の世界』その⑭
「そういえば、一応この周辺には俺が住んでいた村と同じくらいの規模の村がいくつかあったはずだけど、なんでそこには行かないんだ?」
ふと思い出したかのように城崎は前を行く私とグレモリーの隣に並んでから問いかけてきたのを、私は「それはですね」と小さく前置きしてから城崎へと視線を向けた。
「簡単な話ですよ。もし仮に貴方がその村に滞在することとなり、その後貴方の村を襲った出来事と同じことが起こった場合、攻められるのはよそ者である貴方です。ですが、大きな街となれば貴方と同じ境遇の人も多いことでしょうし、さほど問題視されないでしょう」
「な、なるほど…」
「でもそれって崎の立ち回りとかによるくない?どうしてこの街に来たんだぁーって聞かれたとき、素直に答えちゃうのはあんまりよくないよねー」
「はい、なので城崎は村が襲われた以外の理由を考えておいてくださいね。面倒ごとを避けるために私たちは同行しませんので」
「お、おう…って付いてきてくれないのか?」
そう心底驚いた様子でいう城崎に対し、しらけ切った目をしてから私は呆れたように言葉を吐き出した。
「そこまでしなくてはならない年齢でもないでしょうに…道中は魔獣やらなんやらの危険があるので同行しているだけですよ」
「それにグレモリーとミョルちゃんの見た目だと、いいとこグレモリー達のお兄さん、じゃなければ身売り人にしかみえないから仕方ないよね。その場合グレモリーがミョルちゃんのお姉さんってことでいい?」
甘えるように身体を揺らしながら問いかけてくるのは、やはりどうにもミョルグレスの姿に重なりついつい甘やかしたくなるが、当時の私にはミョルグレスがいなかった為にどうにもう冷たい反応を返していた。
「はい、どうでもいいですし、そもそも同行しないので関係ない話ですね」
「えー…グレモリー、ちょっとだけお買い物したいなぁ」
どこで覚えたのか、目をうるわせながら上目づかいで見つめてくるグレモリーの姿は、当時の私ですら多少たじろぐ程の破壊力を持っていたことから、なし崩し的に街の中までは同行する流れになり、三人のうち私だけが疲れた表情を浮かべていた。
「へっへっへ…残念ながらここは通さねぇぞ」
そこへ身なりの汚い男が突然出てきたかと思えば、辺りにはその汚い男と遜色ない身なりの男たちが私たちを取り囲んでいた。
「なんだお前らは」
「見ての通り山賊さ。まあ見る限り高価なもんを持ってるようには見えないが、そのお嬢ちゃんたちは見てくれがいいから高値で売れるだろうよ」
そう私とグレモリーへと下卑た笑みを向けては、気持ちの悪い声を漏らす汚い男がナイフのような物を取り出すと、その刀身を舌で撫でる。
「まあその前に俺らがしっかりと味見するわけだが、へへへ…その段階で壊れちまわないか心配だぜ。壊れちまったら値が大きく下がっちまうからなぁ、また壊れちまわない様気を付けねぇと」
「一番張り切ってたのよく言うぜお頭」
「お頭ぁ!右の子は俺が一番最初にやらせてくれぇ!!」
「なら俺は左の子だ!」
意気揚々と声を上げ始める山賊達は、すでに略奪し終えたかのような勝気な雰囲気に飲まれており、お頭と呼ばれた汚い男もより一層顔を歪めていた。
「なぁミョルエル」
「どうしました?まさか怖気ついたのですか?」
「いやなんだ…俺から見た二人の姿は正しく天使と悪魔って感じなんだけど、あいつらから見た二人はそう見えないのか?」
顔を寄せ、山賊達に聞かれないよう小さな声で聞いてきた城崎の表情は意外なことに落ち着いていた。
「貴方みたいに深く信仰している方から見れば、私とグレモリーの姿はそのままに見えているはずです。ですがその逆、信仰していない者からすれば私たちは比較的人間に近い姿で見えているそうです」
「…それってどういう姿なんだ?」
何故か食い下がってきた城崎の様子に訝し気ながらも、私は天界で聞いたことがある話を思い出しながら答えを返した。
「多分ですが、私の場合は光輪や翼が見えず、グレモリーの場合は角やら尻尾、翼が見えていない状態の姿だと思います。つまるところ、貴方から見てそう遠くない容姿で見えている、ということですかね」
「なるほどな…こんな時にいうのもなんだが、少し見てみたい気がしないでもない」
城崎はどうにもこの状況を危険視していないのか、無駄にきりっとした表情でそういうのをグレモリーもこことぞばかりに声を上げ、駄々をこね始めた。
「グレモリーも見てみたい!ねぇーミョルちゃん人間に化けられるんだよね?やってみてよー」
「…すみません二人とも、この状況理解していますか?」
あまりにも場違いなやり取りをする私たちに山賊たちはどうすればいいのか、恐らく始めて見るであろう予想外の反応に戸惑っている様子だった。
「えーグレモリーたちがこんなのに負けるわけないじゃん。ほら見逃してあげるからどっか行っててよ、邪魔だよ邪魔ー」
そう野良犬でも追い払うかのように手でしっしとするグレモリー。
流石の山賊たちもそれにはお怒りのようで、お頭と呼ばれた汚い男は額に青筋を浮かび上がらせ、周りの山賊たちも先程まで浮かべていた下卑た笑顔を失せさせていた。
「いい度胸じゃねぇかクソガキ、舐めた口聞けねぇようにしてやるよ」
「…一応忠告をしておきます。退くというのなら深追いはしませんが、無謀にも挑みかかってくるのであれば容赦はしません」
今にも飛びかかってきそうなお頭と呼ばれた汚い男を牽制するべく、剣を作り出しては差し向け言葉を放った私だったが、何もないところから剣を作り出した行為を見て尚お頭と呼ばれた汚い男は私へと飛び掛かってきた。
それを迎撃しようと私より先に動いたはずのグレモリーは、気配なく突き出された槍によって突き飛ばされ、その槍の主は私には目もくれずにグレモリーへと距離を詰めていった。
「何をよそ見してやがる」
ふっと私に影がかかり、刹那振り下ろされたナイフを剣で受け止めるとその先ではお頭と呼ばれた汚い男の姿があった。
「ミョルエル!!」
「おっと」
背後から城崎の声が上がるもその直後に響いた金属と金属の接触音から、城崎もまた山賊の毒牙を差し向けられているようだった。
「お前の相手は俺たちだ。安心しろよ、ちゃんと目の前であの子たちを嬲ってやるからよ」
「救いようのないクズだな、おい。だけど、きっと後悔することになるぜ」
「へっ面白いこと言うじゃねぇか。ならさせてみろよ、後悔ってやつをさ」
そんなやり取りが聞こえた後、城崎はその周辺にいた山賊たちを引き連れ私から距離を離していったのを心配していると、気が付けばその場に残されたのは私とお頭と呼ばれた汚い男のみだった。
「さて、んじゃ俺らも始めようか。まずはその綺麗な両脚を落とさせてもらうぜ。逃げられては叶わんからな」
「その前に二つほどいいですか?」
ナイフを構えたお頭と呼ばれた汚い男は、その問いかけに対し一瞬不思議そうな表情を浮かべてから小バカにするように短く笑っては汚く口を歪めた。
「っは、なんだよ?言っておくが『私だけは見逃して』なんて面白いこというんじゃねぇぞ?」
「まさか、そんな頭の悪いこと言うはずないじゃないですか。もし仮にそれを言ったところで見逃してくれるわけもないのですから」
「たりめーだよな。さっきまでならいざ知らず、なめた口を聞かれた後だ…それを見逃したなんて手下にでもバレた日には今後の俺の威厳に関るからな」
そう言ってから、再度目線で以て用件を問いただすお頭と呼ばれた汚い男は、私を舐め腐っているにもかかわらず一切の警戒を怠ることなく身構え続ける。
そんな姿勢に少なからず感心を抱きながら、山賊一派が纏っている不可解な魔力について問いただすことにした。
「まず一つ、貴方達が纏っているその魔力、一体どのようにして手に入れたのですか?」
次回の投稿は7/17(日)です お楽しみに




