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天使のパラノイア  作者: おきつね
第二章
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第二章 『氷の大地』 その①


 天界で行われた議会は実に六時間にも及び、空は徐々に明るみを帯び始めていた。


 長時間硬い椅子に座りっぱなしだったせいか、動くたびに体のあちこちからパキパキっと軽快な音がなるのを少し心地よいと思いふけっていたミョルエルは、背後から高速で近づく人影を十分に引き付けてから回避行動を取ったが、それを読んでいたかの如く高い追尾性で抱き着いてきた人影に、ため息交じりで懐かし気に声をかけた。


「お久しぶりですミカ姉。ところでお兄様の姿が見当たりませんでしたが、今度はどこへ行かれているのですか?」


「私への想いはあいつ以下か?!もっと気にかけてくれてもいいんじゃないか?さっきは擁護してやっただろう!」


 存外な扱いを受け抗議しながらミョルエルの肩を揺さぶる『ミカ姉』と呼ばれた天使『ミカエル』だったが、思い返してみてもあれは擁護とはちょっと違うような…とミョルエルは複雑の表情をしていたが、それではこの場が収まらないと思い至りミカエルの手を取ってから笑顔を向けた。


「いやあれはどちらかというと火に油を注いだ感じがありましたが、まあ助け舟を出してもらったことは確かです…ありがとうございましたミカ姉さま」


 感謝の言葉を掛けられ、言葉にもならない声を上げながらミョルエルの胸へと顔を埋めたミカエルの頭を撫でながら、ミカエルの背後から笑いながら歩いてきた『ガブリエル』と呆れ顔の『ラファエル』に「ガブ姉とラファ兄もお久しぶりです」とミョルエルは会釈する。


「あなたの話はよく聞いてるわよ、元気そうで何よりだわミョル」


「間違いではないですがミョルは元気が過ぎます…ほら見てくださいミョルのやつ満更でもない顔してるじゃないですか」


 ガブリエルに頭を撫でられ「えへへぇ…」と緩み切った表情をするミョルエルを咎めるように、ラファエルは頬を軽く引っ張った。


「いふぁいですはなしてくふぁさい」


「おいラファ、ミョルが痛がってるじゃないかその手を放せ」


 ミョルエルの悲痛(?)の声を聞き、ラファエルの手を軽く叩き払ったミカエルは「大丈夫かミョル?」とミョルエルの頬を撫で始めた。


「全く…お二方―いえウリエル様を含めればお三方ですが、とにかくミョルに甘すぎます。それでは示しが付きませんし、何よりも老勢の方々のようにミョルをよく思わない人が増えてしまします」


「そんな奴らは捨て置け、どう騒ごうとミョルの魅力が落ちる事などない。そもそもなぜミョルの可愛さがわからないのかが理解できん!ミョルの可愛さからすればどのようなことも些細なことだろ」


「可愛いからといって何をしても許されるわけではありません!ミョルの行動事態に大きな問題があるわけではないですが、今やミョルは下位の者の模範となる存在。このままでは、天界の秩序が乱れてしまいます」


「それしきのことで乱れる秩序など、もはやあってないようなものだ」


 ミカエルはガブリエルと一緒にミョルエルを撫でまわしながら、ラファエルの抗議に耳を傾けどう言いくるめたものかと思いふけっていたが、不意に発せられた声の方へと顔を向けるとそこには天使長である『ルシフェル』が爽やかな笑みを浮かべていた。


「そうは言いますが、現にミョルエルの行動を真似た者がちらほら現れ始めています。このままでは―」


「今の時代にはそういう柔軟さも必要なのかもしれない。それにそれらの度が過ぎればその時に咎めるのも遅くはないだろう―と、考えてしまう辺り私もミョルに甘いのだろうな」


「ルシフェル様まで…」


「まあなんにせよ我々が甘いのは、昔のミョルを知っているからだろう。それを知り得ない老勢の彼らには理解できないものだ。彼らは彼らなりの考えの元動いているんだ、そう咎めるものではないぞミカエル」


 そういったルシフェルに対し「まあそれもそうか」と応え、昔のことを思い浮かべて懐かしむような表情をしたミカエルは再度ミョルエルの頭を撫でてから、思い出したかのように言葉を発した。


「そうそうウリエルの奴は今、確か南極へ行ってるんだっけか?」


「あぁそうだな。数ヵ月前に観測された魔力波を調べに行っているはずだ。『進展があれば報告する』という連絡以降、何もないことから難航しているんだろう。あそこは特に得たいが知れず未知な場所だからな。…まあウリエルに限って大事はないだろう」


「そう…ですか」


 ミカエルの質問に対し的確な答えを返したルシフェルの言葉に、小さく返事をしたミョルエルの表情は明らかに哀傷を帯びていた。


「全くあいつは…よし、ルシフェル少しの間暇をもらうぞ」


「それはいいが―まあいい、帰ってきたら私の仕事を手伝ってもらうぞ」


 聞くまでもなく事情を察したルシフェルはその申請を快諾し、ミカエルはにっと笑ってから軽く頭を下げる。


「感謝する。ということで、すまないが二人にも迷惑をかける。この埋め合わせは必ずする」


 そう申し訳なさそうにガブリエルとラファエルへと向き直ったミカエルだったが、多少表現が異なるも二人とも首を縦に振った。


「みなさん…ありがとうございます!この御恩は必ず!」


「まあ元々あいつの安否確認に出向く頃合いだからな、ついでだと思えばいい」


「そうよミョル。それに帰還はおろか連絡すら寄こさないあのバカには、そろそろ折檻をする必要があるでしょうから、ミョルからしておいてくれる?」


「お気持ちはわかりますが、万が一を考えれば…いや、あの方に限ってそれはないですね。すみませんなんでもありません」


「なんにせよ警戒は怠らずにな二人とも。定期的に連絡をすることを忘れるな」


 頭を下げながら感謝の意を表すミョルエルに、各々が言葉を返してから役割を果たすべく別れを告げてその場を後にする。


 ミョルエルは暇をもらった旨を、四季神『依李姫』と現界守衛第一隊『メレルエル』と『アラドヴァル』に伝えてから、南極へ向け旅支度を終わらせる。


「じゃあ行こうかミョル。はぐれるなよ?」


「ミカ姉こそ遅れないでくださいよ。今の私は気持ちが高ぶっていますから」


「おいおい、妬けるなぁ。こりゃウリエルには一杯おごってもらわにゃならんな」


 そんな軽口を叩きながら天界を後にした二人は、南極へと向け大きな白翼を羽ばたかせた。

投稿忘れるとこやった

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