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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十二章
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第十二章『終焉戦争後の世界』その③

 手始めに、私は『神物』と呼ばれる現界を人が住める場所に整え、ありとあらゆる繁栄をもたらせるという通称『神の落とし物』を探すことにした。


 といっても、天使である私には神物を探し見つけられたとしても触れること、つまり回収することはできない為、探し出せたところであまり意味のない事だった。


 実際にそれに気付いたのは神物の一つ目を見つけた時で、喜びのあまり手を伸ばしたところ勢いよく弾かれたのをよく覚えており、今まさにその場面が視界に広がった。


「…これが神物、溢れ出るマナはどこか温かく、安らぎさえ感じてしまいますね」


 その神物を見つけた場所は、海底の底に空いていた穴の先を天使が掘り進んで作った空間、その中心に建てられた小さな石の祠の中であり、入口からその祠までの道のりに張られた数々の結界は天界に身を置くもの以外を阻む性質を持っていた為、神物のマナによる影響も合わさり祠の中は驚くほど清潔に保たれていた。


「しかしこれはトール様が御作りになられた物ではないですね。そこまでの偉大さは感じられませんし、何よりも知らないマナの気配を感じます」


 今聞くと、当時の私はとんでもないことを言い出しているが、この時は幾らか余裕がなかった為に自身の言葉を深く気に留めてはおらず、それ故にその言葉が真意であると容易にわかる。


「…次に行きましょう。ここは強固に守られているようですし、外敵からの脅威は少ないはずです。それにしても一体どなたの神物なのでしょうか?」


 答えが返ってくるはずもない私の問いかけは、ただただ祠の中を虚しく反響しては静かに消えていく。


 入口へと向け進む足音だけがその道のりの中に響き渡り、やがて見えたきた海面から差し込む光に、知らず知らずの内に安堵の息を吐き出していた。


 次に見つけた神物は、太陽の光さえ遮る程の木々に囲まれた森の中、ぽつりと空間が開けてはスポットライトの様に太陽の光を浴びている祠の中であり、海底で見つけた神物―手のひらサイズの巻貝のような物とは形が異なっているも感じられるマナの気配に大きな差はなかった。


「これもトール様の物ではないですね。であれば長く留まる理由はありません、次へ行くとしましょう」


 そう出口へと向け踵を返した私だったが、木でできた長笛のような神物から感じる気配に違和感を覚え顔だけを振り向かせると、そこには年老いた容姿をした神様が音もなく祠の上に腰かけていた。


 そのことに驚愕しつつも、すぐさま身体を振り向かせその場に膝を付けた私は、その勢いのまま頭を下げ現状に最も適した言葉を口にする。


「申し訳ありません。御身が居られると気付きもせず無礼を…何なりと処罰を」


「ほっほっほ、構わぬよ。トール神様の使いであろう、なれば儂の方こそ頭を垂れねばならん」


 そう年老いた神様は地に足を付けゆっくりとした動作で、あろうことか天使である私に頭を下げる。


 その行動に再度驚愕の表情を浮かべる私の様子が面白いのか、年老いた神様は木でできた仮面の奥で笑いを転がした。


「不可思議であろうが儂はその昔、トール神様に救われた力なき土地神じゃよ。故に名も無く、お主よりも身分のみが高いだけの価値のない存在よ」


「もし仮に、それが事実だとしても私が御身に無礼を働いた事に違いはありません。どうか、何かしらの処罰を」


「ふむ、強情じゃのう…なれば」


 そう、膝まづいている私へと近づき腰を下ろした年老いた神様の「顔を上げよ」という声に従い顔をあげると、ピシッと私の額は年老いた神様の指に弾かれた。


「うむ、これで仕置きは終いじゃ。して、お主は如何なる用でここに足を運んだのじゃ?」


 別段痛みのない額を摩りながら、問い掛けられた事に対する答えを考える。


「正直に申しますと、ここに用はございません。神物とは如何なるものなのか、私の身には余ると理解しつつ探っているだけに過ぎませんので」


 そして嘘偽りのない言葉を口にした私に、年老いた神様は心底嬉しそうな声で笑いあげる。


「実に正直じゃな、好ましい。そうか、たまたまか…それは物寂しさを感じざるを得ないが、久しい来客で喜びを感じているのもまた事実。それがトール神様の使いであるとするのなら尚の事」


 そう言ってから腰巾着へと手を伸ばし中を弄ってから物を取り出した年老いた神様は、それを私へと差し出した。


 感謝の言葉を口にしながら受け取ると、それは様々な鉱石で作られた数珠のようなもので色鮮やかな光沢を放っていた。


「ゆうなればお守りじゃ。といってもそれこそ気休めにしかならん代物であるがな」


「滅相もありません。ありがたく頂戴致します」


 受け取ったお守りを早々に左手へと通し具合を確認すると、お守りは何かしらの力が働いているのか、締め付けることなく手首付近で固定され、いくら腕を振るっても鉱石同士のこすり合わる音が鳴るだけでその位置から動くことは無かった。


「そういえば何やら急ぎであったか、呼び止めて悪かったな。短い時間であったが有意義なものだった。これに懲りず、また顔を見せてくれると嬉しく思う」


「そう…ですね。約束をすることはできませんが、また機会があれば必ずや」


「うむ、のんびりと待っておるよ」


 優しく私の頭を撫でてから姿を暗ませた年老いた神様に頭を下げてから、再度出口へと向け足を進めた私は撫でられた自身の頭へと手を置き、懐かしさに頬を緩める。


 何故だか、あの年老いた神様からはトール様に似た物を感じた気がしたから。

特にないです


次回の投稿は6/10(金)です

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