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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十一章
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第十一章 『雷神の面影』 その⑧

「まずは、此度の魔界からの襲撃。相手側の戦力は少なかれど、よく凌いだ。真神様に変わり謝礼の言葉を皆に送ろう、よくやったありがとう」


 そのルシフェルの言葉に感激しながらも決して表情には出さずに頭を下げる天界守衛及び現界守衛の天使たち。


 もはや見慣れたはずの会議室を埋め尽くすほどの天使たちに囲まれ、回復のマナ結晶の中で深い眠りについているミョルエルは今だ自身の置かれている現状を知らない。


 いや、恐らくある程度は眠りにつきながらも察しているのだろう。


 自身が望んで行った事でなくとも、結果的に数多くの天使たちに知られてしまった『神雷の力を扱える』という事実を追及される事は火を見るよりも明らかなのだから。


「さて今回の集会だが、皆が抱いている疑問について先に話させてもらおう。そのことは他でもない、現界守衛第八隊隊長であるミョルエルが神雷の力を扱った事は既に皆知っていると思うが、それは私―ひいては真神様からの直々の勅命であった事は知っていてほしい」


 その言葉が指す意味を予想は出来ていたが、いざ堂々と宣言されたことに場が騒然とするが、人差し指をそっと自身の唇に重ねたルシフェルの姿を見て場は静まり返る。


「事の始まりは真神様の思い付きだ。当時、神雷を含め四大元素の力を持つに値するのは熾天使の中でも特に、同属性に秀でた者にしか扱えなかった事は周知の事実であり、四大元素の力を持った者は例外なく最高位の神々を守護する役を担う事となる」


 その為、ウリエルを除く四大熾天使は基本的に今回のような襲撃以外で天界から離れることはできず、ミカエルがここ数千年内で現界に降りた回数は南極での一回と此度のベレト戦での一回、計二回のみであり、ジャックとベリアルが通ったと思われる瘴気の穴を調べに行ったガブリエルは終焉戦争後から初の現界降下であり、自身が知っている現界とは変わっている事に少し寂し気持ちを募らせていた。


 ラファエルに至っては終焉戦争後から現界に降りたことはない。


「ウリエルは真神様の勅命の元、秘境探索を主だっている為常に天界にいることはないが、それはウリエルにしか出来ない事であり、神雷の特性上瞬時に天界へと帰還できる点も考慮しての役を担っている」


 確認するように、天界では知らぬ者などいない事を口にするルシフェル。


 それが事実であることを改めて認識すればするほど、天使たちには何故真神がミョルエルに神雷の力を扱う権限を与えたのかという疑問が大きく膨らみ始める。


 だが、決してそれらを口にすることなくルシフェルの言葉に集中しているのは、ルシフェルが持つカリスマ性が成せるものであり、もし仮に真神が表立って言葉にしてところで反発の声が上がっていただろう。


「ではなぜ、ミョルエルが神雷の力を扱い、尚且つ現界の守衛を担っているのか―皆が皆、抱く疑問に多少違いはあれど根本の的なものはこれだと思っている」


 天使の中でも特に秀でた者であれば、四大元素の核を所持していないはずのミョルエルが扱える―否、同属性の四大元素の力を扱える者が二人いる?という疑問に行きついている。


 そしてその疑問は次にルシフェルが発した言葉によって納得は出来ずとも理解することが出来た。


「簡潔に言おう、ミョルエルが神雷の力を扱えるのは、真神様がミョルエルを実験体として行った実験の過程であり、その実験の目的は四大元素を扱える者を増やすこと、それだけに重点を置いている」


 ルシフェルを除くその場にいる全員が、知っている上での沈黙、もしくは絶句していることでルシフェルの声のみが静かに木霊する。


「そして何故ミョルエルなのかだが、察しがいい者は気付いている通りミョルエルはトール神の元で育った天使であり、常に神雷の力に中てられていた事で身体が多少神雷に慣れている。その上、下位属性である雷属性の扱いにも長けている為適任だと判断された」


 実際にはミョルエルは他の四大元素も扱えるが、そのことが知られている様子はない。


 ミョルエルが神雷を扱えると知られた主だった要因は神雷の落雷であり、その落雷が落ちた地点、ベレトとの戦いの場に駆け付けた天界守衛の天使が遠目に見た神雷を纏っているミョルエルの姿からなるものだ。


 故にミョルエルが他の四大元素の力を扱っている事を目撃していない事を知ったルシフェルはそのことを隠し通すことに決め、以前から知っている者もまた、天界の秩序を保つため協力を申し出た。


「他の四大属性、神炎、神水、神風については、その境地に至っている者が少なく、かつリスクを考えた上で見送っている」


「リスクが…あるのですか?」


 そう言葉を発したのは四大熾天使達と同じ段位に座るメタトロンだった。


 メタトロンは神水の力を持つガブリエルに次いで天界内最高峰の補助天使であり、神水の力を扱えるだけの力を持つ一人だ。


 まるで始めて聞いたと言わんばかりの表情を浮かべるメタトロンだが、これはメタトロン本人の発案の元で行われている云わば仕込みであり、他の天使をより納得させるために必要だと判断して行うことに決定した。


「元々は神々が扱っていた至高の力だからな。構造上劣っている天使の身には余る力、故に上手く抑えきれなければその身は内から湧き出る力によって崩壊する。実際ミョルエルは実験当初その場にガブがいなければ既にこの世にいない。それほどまでに強大で、天使の身体には不安定すぎる力なんだ」


 ルシフェルのその言葉に俯いたメタトロンの姿は思っていた以上に天使たちに効いている様で、中にはミョルエルに対する評価を改める者もいる。


「だがどうやら悠長な事をいっている状況でもないようだ」


 そのルシフェルの言葉にその場にいた全員が視線を注ぐ。


 そしてルシフェルはミカエルへと視線を向けると、ミカエルは心の中でため息をついてから立ち上がる。


「皆も既に知っている通り、今回の襲撃は階級王の魔神であるベレトが率いる軍であり、短いながらも直接交戦した時にベレト本人から得た情報だが、『三年後、魔界の軍勢が本格的に侵攻する』とのことだ」


 より一層騒然とする場を気にすることなく、ミカエルは言葉を続ける。


「もちろん私自身眉唾ではあるが警戒するに越したことはない。ルシフェルが言いたいことは大体わかる。だが、それを承知した上で私は反対だということを、今この場で表明する」


 明らかな敵意が籠った眼差しでルシフェルへと顔を向けたミカエルの様子に、再び場は静寂に包まれる。


「…一応、何に対してなのかは聞いておこうか」


 予想だにしていなかった事からか、若干の間を空けてその言葉を口にしたルシフェルもまた、ミカエルが向けている眼差しと同じものを向けたことで、一触即発な雰囲気が一瞬にしてその場を包み込んだ。


「四大元素の力を分け当たること、そしてミョルエルを今まで通り現界に降ろすこと、だ」


 絶対に退きはしない―そう決意が込められたミカエルの言葉に、先に視線を外したのはルシフェルであり、その場にいる天使達にとってそのことが以外だったのか、一同は同じ様な表情を浮かべていた。


「理由を聞こう」


「まず前者から。適任だとされたミョルエルですら現状満足に扱うことができていない、かつそのレベルに至るのに数百年という月日を要した。対象が熾天使のみならいざ知らず、それより階級が下の者では身が持たず死散するのが目に見えている」


 ルシフェルが視線を外したことで、ミカエルもまた視線を外しては腰を下ろしてそう告げる。


 続いて「後者は?」と問い掛けられ、一度バツが悪そうな表情を浮かべて、一人の熾天使としての意見だ、とミカエルは自身に言い聞かせてから口を開いた。


「今回の襲撃、聞くところによるとミョルエルを目的としたものだという。階級王ともなれば現界に来ること自体、確実な勝算がなければ魔界側に取ってリスクにしか成り得ない。だが、今回事を起こしたということは、そのリスクを拭えるほどの価値がミョルエルにあるということだ。そしてそれは神雷の力を使えると知られた事で殊更に高まっているだろう。であれば、今回の様な襲撃を避けるためにも、その要因となるミョルエルを天界で匿うことがより堅実な行いだ。故に、ミョルエルを現界に降ろすことを私は反対する」


 そう矢継ぎ早に告げるミカエルの姿は一体どのように見えていたのだろう。


 ミカエルとミョルエルの関係性は説明するまでもなく天界内で周知されており、深くは知らない者からすれば妹と溺愛するミョルエルを庇っているようにも見え、その中でも、こう思う者の数は僅かだろうが天界の事を重んじている様にも見えていただろう。


 だが逆に、深く知る者からすれば、現界に降りることはミョルエルの明確な目的からなるものであるため、ミョルエルの行いを否定しているようにも取れるミカエルの意見はひどく不審に思え、その姿は歪に見えていただろう。


 本当にそう思っているのであれば、天界のことなどかなぐり捨ててミョルエルに付き添うと言い出すのがこれまでのミカエルだからだ(もちろんそんなことあってはならないが)。


「もし仮に、そうしたとして、ミカエル―お前はミョルエルが大人しくそれに従うと思うのか?」


「従わないのであれば力づくにでも―」


「―そうなれば私がミョルエルにつく、といってもか?」


 ミカエルの言葉を遮りながら姿を現したのは、天界内でその姿を見かけた者がほぼいないと言われるウリエルであり、その傍にはウリエルと同じく、もしくはそれ以上に名しか知られていない熾天使の一人、サリエルの姿があった。

あいもかわらずミョルエルがいないところ(意識はないがその場にはいる)で話が進むなぁ

まあそんなこといったって進むもんは進むししょうがないね


てことで次回の投稿は5/21(土)になります

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