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天使のパラノイア  作者: おきつね
第十章
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第十章『七大魔神・憤怒の魔神襲来』その⑥

 神器・暴熱神槍から放たれた神熱の一閃を、幾度となく土と水を重ね創り出した盾で防ぎながら、絶え間なく同じ性質の土槍をメレルエルの足元から突き出すザガンは、進展性のない現状に刺激を求め新たに雷を宿した魔界植物の種を足元に落とし土槍に雷を纏わせる。


 これまで紙一重に避けては攻撃のタイミングを作りだしていたメレルエルだったが、雷を纏いながら突き出る土槍から感じる不穏な気配に攻撃の手を止め、確実に避けることに注力する。


「あらあらどうも勘はいい様ね。そう、それに触れれば貴方、触れた所から灰になっちゃうわよ」


 笑いを口の中で転がしながら土槍を放つ手を殊更に速めるザガンへと狙いを定め、土槍の背後に回っては視界が途切れる瞬間に転移を使い、瞬時に距離を詰めたメレルエルは無防備なザガンの背中へと神器の穂先を向かわせるが、穂先はザガンに触れることなく盾に弾かれ体制を崩した所に土槍が四方から迫る。


 だが、メレルエルにはアラドヴァルが付いており神器となって尚、メレルエルを守る為に天界守衛の術式を編み四枚の戦乙女の盾を出現させては土槍を受け止める。


 その間に体制を整えたメレルエルは僅かな間をすり抜けるように駆け、再度ザガンへと距離を詰めては神器を振るい、突き出した。


「いい加減当たりなさいよこのオカマ!余裕の顔してて腹立つわ!」


「それは私のセリフでもあるのよおバカさん。流石現界最強の名は伊達じゃないわね」


 理解していながら皮肉を口にするザガンは、土槍から雷が切れた事を確認すると次は風を宿した魔界植物の種を落とし、雷と同じく土槍に風の刃を纏わせる。


「あぁぁぁもううざったい!ちょくちょく属性変えてんじゃないわよ!」


 土槍がその身に当たらずとも纏った風の刃はメレルエルの肌を掠めて薄い切り傷を作りだす。


 その程度であればアラドヴァルの治癒術式で一秒と経たずに完治するが、無尽蔵にマナがあるわけでも無いため持久戦に持ち込もうとしているザガンに怒りが募り始めたメレルエルは、神器の穂先にマナを集中させ眩い光を放つ。


「神熱の閃光!」


 放たれた光で目が焼け反射的に瞼を閉じたザガンは、次いで迫りくる神器の気配を読み取り後方へと跳び退くも、それを見越して伸ばされた間合いを読み違え左足を切断される。


「やるじゃない」


 そう賛美を口にしてから、再度迫りくる神器から逃れるために自身へと土槍を繰り出し飛躍的に後方へと飛んだザガンは、懐から取り出した魔素でできた水を焼けた目にかけては神熱を打消し視力を取り戻す。


「フフッ…あの人みたいなこと言っちゃうけど、久々の死闘は楽しいわね」


「まだそんな事を言う余裕があるとか普通に嫌になるわ」


 目の治療を終え、切り落とされた左足の治療に取りかかろうとするザガン。


 勿論メレルエルがそれを許すわけもなく、神器の穂先にマナを集中させ構えを取る。


「あら、またさっきの奴?それとも―」


 口元をニヤつかせ自身の前に盾を出したザガンは、神熱の一閃であろうと神熱の閃光であろうと対処できるように身構える。


 だが、よく見るとメレルエルの構えが先程の二つの技の構えとは異なっている事に気づき、咄嗟に身を屈めると刹那頭上に神熱の刃が通り過ぎる。


「神熱の輪舞―ブレイジング・ロンド―」


 それは切断することに重きを置いた攻撃であり、神熱の一閃が持続する貫通だとすれば神熱の輪舞は瞬間的な切断という、互いに攻撃力に重きを置きつつもその性質は全くの別物だった。


 直線に繰り出す神熱の一閃は力を逸らす能力に弱く、ミョルエルとの模擬戦闘においても僅かに傾けた戦乙女の盾でもって軌道を逸らすことで防がれており、その対抗策として偶然生まれたこの技は詠唱をして顕現させた戦乙女の盾を両断したことから、ミョルエルからは非常に高く評価されている。


 その上、前動作は穂先にマナを集中させるという他の二つと同じ動作であるが故に、メレルエルの技量次第では放たれるまでどれが飛んでくるかわからないという強みがあり、その模擬戦闘ではミョルエルをかなり苦しませていた。


「初見なのによく避けたわね―でも、次もそう上手く行くかしら?」


 間を空けることなく神器の穂先にマナを集中させたメレエルエルは、神熱を以てして自身とザガンとの間にある空間に陽炎を作りだし複雑に光を屈折させる。


「バカね、それだと貴方も狙いを定められないんじゃないの?」


「まさか、そんな愚行をするわけないでしょ。私は天使、魔素の感知能力でどうとでも補えるわよ」


 そう、ザガンが身に纏う魔素から正確に位置を捉えメレルエルは技を放つ。


 ザガンからすればマナから生み出されている神熱によって発せいする陽炎は、マナ感知を狂わさるには十二分の効果を発揮しており、正確にメレルエルの挙動を把握することができない。


(どっち?一閃でくるかさっきの薙ぎ払いか―選択を誤れば確実にやられる)


 やがて放たれた攻撃を対処するため数十枚の盾を創り出し自身の前へ並べるが、メレルエルが使った技は神熱の閃光であり辺りは眩い光に包まれる。


 そのことに気が付いたザガンはすぐさま背後へと盾を移動させようとするも一度割いた思考をすぐには補えることなく、神器の穂先がザガンの心臓を貫いては一瞬にしてザガンの上半身を勢いよく爆ぜさせた。


 ザガンの頭はその勢いで上空へと舞い、下半身はバランスを失い倒れこみ、やがてボロボロとその形は崩れ塵となる。


「…終わった?」


 それは安堵の息のようでありながら、余りにも呆気なく技が決まったことへと不信感から地に落ちたザガンの頭へと油断することなく神器を構えるメレルエルは、まるで確認するかのようにアラドヴァルへと問いかける。


『多分…だけど。少なくとも落ちてる頭からは徐々に魔素が消えていってる』


「そうだよね、私の見間違いじゃないよね…でも―」


「階級王の魔神がそう易々やられるとは思えない―よね?」


 そう気配もなくすぐ背後から聞こえた声に、恐怖で強張らせた表情を浮かべてから逃げるように駆け出したメレルエルは、すぐさまそちらへと振り返り神器の穂先にマナを集中させるが、ザガンは口元をニヤつかせながら指を鳴らすと、地に落ち消えかかっていたザガンの頭から樹木でできた槍が創り出されメレルエルを背後から防具ごと貫いた。


『メレちゃん!!』


 アラドヴァルの悲痛な声が頭に響き、倒れそうになるのを辛うじて堪えたメレルエルは樹木でできた槍を神熱で焼いて、貫かれ機能しなくなった右肩に左手を添えマナを流し込む。


「あらあらこれまた随分上手く決まったわね。まあこれでイーブンっていったところかしら。さ、続きをやりましょうか?」


 落ちていた自身の杖を拾い姿勢を改めたザガンは再度魔素を纏い始め、その姿に歯を食いしばってから、ほどほどに済ませた治療を止めメレルエルは神器を構える。


『待ってメレちゃん!今は退いて、時間を稼いで右肩を治さないと勝ち目はないよ!』


「それじゃダメよ…そもそも向こうは逃がす気なんてないみたいだし、戦いながら治すしかない」


 そうメレルエルはキッとした視線を向けると、その先ではザガンが火、水、雷、風の四つの魔球を創り出し自身の周りに浮かせる。


 今だ闘志を燃やすメレルエルの姿を見て、ザガンは火の魔球と風の魔球から細々とした小さな魔球をいくつか分離させ、それらを別の属性の魔球と組み合わせてはメレルエルへと打ち放つ。


 自身に向かってくる小さな魔球に対し、直前になるまでは神器で撃ち落とすつもりでいたメレルエルだったが、自身を魔界一の錬金術師といったザガンがその程度の攻撃をするものか?―と訝しみ咄嗟に左へと跳ぶと、その際舞い上がった土煙が魔球に触れる。


 刹那、魔球はその周囲へといくつかの細かい風の刃を走らせ、その軌道を火が覆う。


 それが同時に放たれていた他の魔球に触れ誘爆させるとその密度で以て、瞬く間に地面を抉り空間を僅かに歪ませる。


 その事に冷や汗が頬を伝うのを拭ったメレルエルが、すぐさま視線をザガンへと向けると―


「ホントいい勘してるわね。もしそこに貴方がいれば、今頃跡形もなく消え去っていたのに」


 ―その先では少し残念そうに眉を歪めてから、次いで水の魔球と雷の魔球を先程と同じ要領で組み合わせ再度自身へと打ち放つザガンが映りすぐさま回避行動を取る。


 だが、雷の魔素を得ている魔球はメレルエルの予想を大きく上回る速度で迫ると、何かに触れる前に爆ぜては辺りに水しぶきを解き放つ。


(まずい!!)


 そうメレルエルが感じた直後、水しぶきを伝っていくつもの雷撃がメレルエルへと襲い掛かる。


 雷撃によるダメージとそれによって陥った筋肉の硬直で以て動きを止めた―止めてしまったメレルエルは、突き出てきた土槍によって身が貫かれることは無かったが打ち上げられ宙へと舞う。


「それじゃあ悲しいけどフィナーレよ」


 今だ身体を満足に動かせないメレルエルへと、ザガンは再度火の魔球と風の魔球を組み合わせ、先程とは一回り程度大きな魔球を創り出し打ち放つ―


「それはこっちのセリフなのよ!」


 ―が、ザガンの読み以上に早く雷撃の痺れから回復したメレルエルは瞬時に神器の穂先にマナを集中させ、空を蹴る様に身体を回転させては神器を振るい、神熱の輪舞で以て打ち放たれたばかりの魔球を切り裂いた。


 神熱の輪舞の攻撃自体は神器の軌道を見極め躱すことができたザガンだったが、切り裂かれた魔球から放たれる風の刃を避けることは叶わず身を切り裂かれ、次いでその軌道を覆う火によって身体を炎上させる。


「がぁああぁぁあぁあぁぁぁああ!!」


 痛みに悶え叫び声を上げながらも、水の魔球を爆ぜさせその際発生する多量の水で炎を消火する。


 幸いなことに、風の刃で出来た傷は炎によって焼かれて塞がりはしていたが、受けたダメージが多大なのか、膝を地に付かせ焼かれた喉から漏れ出る声は濁り、空気が通る度に痛みを生じさせていた。


「どぉじて…ぞんなに早ぐかいふぐでぎたの?」


 スッと向けた視線の先で、落ちてくるかのように地面に着地したメレルエルへとザガンは問いかける。


 その声からは怒りの感情など微塵もなく、純粋な問い掛けの様に感じたメレルエルは僅かに足を震わせながらも何とか立ち上がり、神器を構える。


「おあいにく様、よく手合わせする相手が使う属性だったからよ。それがなきゃ今頃私がそうなっていたでしょうね」


 完全には無くなっていない痺れから若干声を震わせながらも、毅然と答えを返したメレルエルは止めを刺すためにザガンへと距離を詰め始める。


「ぞう…ぞれはざすがに、じらながったわ」


 そうザガンは答えてから立ち上がり、迫りくるメレルエルへと土槍を繰り出しながら再度四つの属性の魔球を創り出し、それらを組み合わせてはすぐに打ち放つ。


 その際隙を見ては懐から取り出した小瓶の中身を飲み、傷を癒しながらメレルエルが繰り出す技を避け、ザガンは勝利の算段を立て始める。


 だがそれはメレルエルも同様であり、アラドヴァルが治した右肩の具合を確かめてから攻撃の手を緩めることなく攻め続け、アラドヴァルの助勢もあり戦闘の激しさは更に加速する。


 メレルエルとザガンが戦うその地はもはや原型を留めてはおらず、今なお目まぐるしく変わり続ける景色に離れた所から様子を伺うラニアスは、自分が信じて着任した隊に、隊長であるメレルエルに抱いた想いは間違いでは無かった―と、改めて現界守衛最強と謳われたメレルエルの部下になれたことを、戦慄すると同時にどこか誇りめいた感情をその胸の内に噛みしめた。

ザガンは何故かオカマキャラだって速攻で決まりました

どこかで見たことあるけど

オカマキャラってすごく動かしやすいんだよね

普通に好意が抱けるわ

リアルはちょっとわからんけど


てことで次回の投稿は4/20(水)です

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