第十章『七大魔神・憤怒の魔神襲来』その⑤
『緊急事態!緊急事態!各位、戦闘準備を整え天界を守護せよ!繰り返す、各位戦闘準備を整え天界を守護せよ!』
けたたましく鳴り響く警報に、天界に席を置く天使たちは慌ただしく戦闘準備を整え天界外へと飛び出し、おびただしい数のベレト直属の魔獣や悪魔、魔神達との戦闘を開始していた。
それらはベレトとザガン両名の加護を得ており、天界守衛隊といえど多対一になってしまえば呆気なく打ち取られ、一人また一人と現界へと向け力なくその身を落としていく。
「全隊員に告ぐ!必ず一人では挑むな、周りと者と連携し確実に討伐せよ!」
現場の指揮として、四大熾天使であるミカエルはそう怒号するも、咄嗟の事に今だ落ち着きを取り戻せていない者から飲まれ、既に被害は五十を越えようとしていた。
元より現界守衛隊とは違い、日々常々悪魔や魔神と相対することの機会がない天界守衛隊であれば今回のような強襲にはてんで脆く、そのことが仇となっていることは言うまでもない。
だがその中でも、現界でいくらか経験を積んだ者が多くいることは確かであり、それらの天使たちは早々に―一瞬たりとも取り乱すこと無く冷静に行動に移っていた。
天界守衛隊の各隊長と副隊長達は、直属の部下達を助けると共に戦場となっている空中を駆け回っては数多くの敵戦力を屠っていた。
その中でも天界守衛第一隊隊長アリエルと副隊長エクスカリバーは特に貢献しており、個々の撃破数はとうに百を越えその勇士を目にした隊員達の士気を著しく向上させ、数の不利は徐々に覆り始める。
「どうにか持ち直しておるな、天界が落とされたとあっては神々に申し訳が立たぬからな」
「それにしても何故ここまでの接近を許したのだ。現界におる者たちは何をしておる?このような事態を未然に防ぐのがかれらの役割であろうに…」
「所詮は現界を守衛するために遣わされた有象無象ということであろう。駒としては使えても戦士としては使えない、故に現界守衛隊なのだ」
どっしりとした面持ちで現界守衛隊の事を何一つ知らぬまま小ばかにする老勢の天使達へ聞こえない様舌打ちをしてから、四大熾天使であるガブリエルは不測の事態に備え神水の力を用いて天界全域に強固な結界を張り続ける。
老勢の天使が言う様に、現界守衛隊の現時点における最優先事項は天界への脅威となる者等の排除、もしくはその存在を天界へと伝える事であり、情報統括隊として配置されている天使への交信は毎時行うことが取り決められている。
だがここ数時間もの間はどこの現界守衛隊からも交信がなく、それを『現界守衛隊の怠惰』だと決めつけては、老勢の天使たちの指示の元ろくに確認をすることなく、今に至ってはその原因を現界守衛隊に押し付けようとしていた。
「元より彼奴らはどこかミョルエルに情を抱いておるからのぉ、ミョルエルを毛嫌いしておる儂らが少なからず憎いのであろう」
「それが事実であれば天界の秩序が乱れかねん。天界に身を置く者の中にもミョルエルに情を抱いておる者がおるのも悩みの種だ。その筆頭がミカエルとウリエルのだと思うと頭が痛くなる」
この場にいないのをいいことに、二人への侮蔑の言葉を連ねる老勢の天使に言葉が出そうになるのを、ルシフェルの仕草で押し留められ吐き先のない怒りに身を震わせるガブリエルだったが、ようやっと入った吉報に表情を明るくさせる。
「現界にて交戦中の第一、第八を除いた現界守衛隊の各隊が敵勢力の背後を陣取り天界守衛隊との連携を開始しました!それとミカエルから総指揮をルシフェルに任せると言伝が!」
「何をバカな事を!それはミカエルの役目でルシフェル様の役目は天界内に侵入されたときの戦闘であろう!今すぐ指揮に戻れと伝えろ!」
ガブリエルの言葉に即座に反応を示した老勢の天使が立ち上がりながらに声を荒げたが、その声は上階から鳴り響いた柏手によって押し黙らされ、音を発したルシフェルは場が静まったのを確認してから口を開いた。
「ミカエルに了解したと伝えてくれ。それと必ず勝利せよと」
「かしこまりました」
頭を下げてからルシフェルの言葉をミカエルへと伝達するガブリエルを尻目に、声を荒げた老勢の天使は恐る恐るルシフェルへと問いかける。
「本当によろしいので?それでは貴方様が―」
「もし万が一にでも、敵勢力が天界内に入れば指揮を取りながら対処する。それで問題はないな?」
異を唱えることは許さぬ威圧に短く返事をしてからすごすごと席に着いた老勢の天使から視線を外し、瞼を閉じて現場にいる空間把握能力に長けた通称『瞳』と呼ばれる天使の視覚を視ながらルシフェルは指揮を取り始める。
現界守衛隊の助力もあってか、みるみると数を減らし始めるベレトの部下達だったが、このままでは役目を果たせない―と重い腰を上げた数体の上位魔神は、主力となっている天使たちへとそれぞれ対峙する。
「さて四大熾天使であれば相手に取って不足なし。あわよくばその首を落として進ぜよう」
「どうやら教養がなっていないみたいだな。それにお前程度に私がやれるわけがないだろう」
神器・絶断神剣に神炎を纏わせ、ミカエルはソロモン72柱の一柱である第63柱アンドラスとの戦闘を開始した。
ぺぺろんちーの
てことで次回の投稿は4/17(日)です