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天使のパラノイア  作者: おきつね
第九章
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第九章 『大陸からの使者』その①

お待たせしました

第九章のはじまりはじまり

 辺りを見渡せばどこもかしこも銀世界に染め上げられた現界。


 日ノ本の土地神『依李姫』を祀る依李姫神社を拠点とし、日夜悪魔や魔神といったこの世に害を成す者を討伐する現界守衛第八隊隊長・ミョルエルは、自身の膝上で気持ちよさそうな寝息を立てている同じ部隊の部下であるミョルグレスの頭を優しく撫でながら物思いに耽る。


 如何にして自身の主神である北欧神トールを長い眠りから覚めさせるか、遥か過去の出来事となった天界の住人と魔界の住人による大規模な戦争『終焉戦争』にて眠りについた神は数知れず、今もなお深い眠りから覚めることはない。


 長い時の末、神々を慕いながらもその忠誠心を薄めていく数多くの天使達の中、今現在でも変わらず想い続けているは者の数は両の指で数えるよりも少なく、その中にはミョルエルも例外なく含まれており、恐らくその物達の中でも人一倍想いが強く『自らが助けなくては』と脅迫的概念に囚われている。


 ミョルエルをよく知るルシフェルやミカエル、ウリエルといった四大熾天使の面々を始め、友でありライバルであるメレルエルとアラドヴァル、そして依李姫やイシュタル―現在のアスタロトと呼ばれる元神でありながら魔神である彼女でさえ、ミョルエルが抱く脅迫的概念を責めることはなく些細ながら支え続けている。


 叶ってほしいと願う者、無駄な足掻きと笑う者、ミョルエルを知る誰もが彼もが彼女に賛同するはずもなく、それを良し悪しと思い至るのは見方の違いであり、ミョルエル本人でさえ、それは重々に承知の上であり決して誰に強いることなく、ただ我が道を歩き続けてきた。


 そしてその旅路の果てに答えを得た―はずだった。


「ミョル姉?」


 ふと目が覚めたミョルグレスは当人の膝上から顔を見上げる。


「どうしましたグレス?」


 愛しい妹の甘えるような声の問いかけに答えるべく、今しがたまでの思考を頭の隅に追いやっていつもと変わらぬ調子で声を返すと、ミョルグレスは身体を起こしては涙ぐみながらミョルエルの胸に顔を埋める。


 その姿は不安を拭おうと母親に縋りつく子供の様で、ミョルグレスの容姿相応なその行動にミョルエルは穏やかな笑みを浮かべて優しくも力強く抱きしめる。


「怖い夢でも見たのですか?」


「うん…」


「そうですか、であれば払拭しなければなりませんね…一体どんな夢を見たのですか?」


 優しく諭すミョルエルの胸から顔を離し、ミョルグレスはぼろぼろと涙を零しそれを拭ってから言葉を吐き出した。


「ミョル姉が…どこか遠くに行っちゃう夢。そこに『グレスはついてきちゃダメ』って、夢の中でミョル姉が言うの。『グレスはあっちだよ』ってみんながいる明るい場所を指さして、でもミョル姉が向かう先は暗い所で」


 その場で聞いてた現界守衛第八隊のフェイルノートや依李姫は顔を見合わせ、程なくしてその視線をミョルエルへと向ける。


 いくら考えても今の自分がその様な行動にでる理由が見つからないミョルエルだったが、ミョルグレスは見た夢の続きを話始めた。


「それでね、ミョル姉はそこに一人でいっちゃったの…グレスがどれだけ追いかけても追い付けなくて、『ミョル姉!ミョル姉!』って呼んでも振り向かないでね…それでね―」


 夢を必至に思い出しながら話すミョルグレスの顔を見るに耐え切れず、無理やりに話を遮ったミョルエルは、そんなありえない夢を忘れさせようと、何とか安心させようと力強く抱きしめる。


「そんな事絶対にありえません。絶対です…絶対に…です」


「うん…うん…」


 程なくして泣きつかれて眠りに落ちたミョルグレスを依李姫に預け、ミョルエルとフェイルノートは雪が降りしきる屋外へと出ると、天界が位置する方角を見つめていたフェイルノートが口を開た。


「で、実際はどうなんです隊長。グレスが見たっていう夢について」


「どうもこうも…ただ、私はグレスやフェル―貴方を置いてどこかへ行こうとは思っていませんよ」


 そう微笑みかけたミョルエルの表情に、少し熱くなった気がしてふいっと視線を逸らし「そうですか」と呟いたのを、からかう様に回り込んできたミョルエルをあしらったフェイルノートは、視界の先からこちらへと向かってくる三つの影に気が付いた。


 だが、それが知人であるとわかるや否や迎撃態勢を止め、初対面時から若干の苦手意識を抱いているアスタロトとその傍に控えているメレルエルとアラドヴァルへと出迎えの言葉をかけた。


「おかえりなさいお三方―と梟も。どうでした、魔素は十二分に補充できましたか?」


 フェイルノートが軽く頭を下げながらそう問いかけると、腕の中でカイロ代わりに抱きしめていた魔神ストラスを手放したアスタロトは、「出迎えご苦労様」と短く告げてから今宵の収穫について話始めた。


「まあまあってところね。そもそも大体的にできないから、一気に補充何てできっこないしね」


 ようやっと解放されたと言わんばかりの表情をするストラスを抱きしめたミョルエルとフェイルノートの間を抜け、アスタロトは早々に暖房のよく効いた部屋の中へと足を運ぶ。


 天使であるミョルエルやフェイルノート、メレルエルとアラドヴァル達からすれば、この程度の寒さは凌ぐに値しなかったが、部屋へと入ったアスタロトに呼ばれたメレルエルは部屋へと向け足を進め、アラドヴァルもそれに続く。


「まあこの話はまたいつかどこかでやりましょう。アラドヴァルが帰ってきたってことは程なくして鍋ぱーてぃーですよ鍋ぱーてぃー」


「どれだけ楽しみだったんですか…まあいいや」


 うきうきとした表情で自身へと顔を向けたミョルエルに対し、若干呆れた様子でフェイルノートは言葉を返し、二人と一羽も騒がしくなった部屋へと戻っていく。


 ミョルグレスが見た夢の話は、いつかまた、いなかった者も含めて話すことだろう。

予約投稿事態、前日の23時というね

ウマ娘…恐ろしいぞぉ


てなわけで次回の投稿は3/11(金)です

今回少し短めなのは単に区切りです

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