第六章 『悪魔の軍勢の目的と現一の戦い』その④
その後ラニアスが目星を付けた場所には軒並み悪魔の死体や、少数ではあったが魔神の死体もいくつか見受けられた。
だがそれでもなおルミエヌの姿は無く、残す所一か所となった頃には日が傾き東の空は夕焼け色に染まっていた。
移動の最中も絶えずメレルエルは交信を試みていたが、一度としても応答することなく不安は募る一方で、早いところ最後の場所へと白翼を広げたメレルエルだったが、その背にアラドヴァルから制止の声がかかった。
「どうしたのよ?もしかしてルミエヌの反応あった?」
「いえルミエヌの反応は相変わらず感じないけど、どうやらまた新しいのが来たみたい」
そういってからアラドヴァルは近くにあった廃屋へと視線を向けると、その奥から扉を開いて一体の魔神が姿を現した。
長く伸びた赤毛の髪はあまり手入れされていないのか所々から毛先がはね、その表情はどこか気だるげなものを浮かべている。
背には大きな弓を背負い、左手には背負っている弓に比べると二回り程小さい弓が握られ、腰に携えた矢筒には十数本の矢が互いにぶつかりカチャカチャと音を鳴らしていた。
「ん~?あれおっかしいなぁー。確かここに私の部下たちがいたはずなんだけど、どおして天使なんかがいるのかなぁ?」
中途半端にボタンで閉じていた服が左側にはだけるのを直しながら、魔神はくあっとあくびをする。
「なんかこっちで下級たちが次々に死んでるってんで無理やり来させられたけど、眠いしめんどいしで私帰ってもいいかなぁ」
そう気だるげに呟いた魔神だったが、刹那向かってきた槍先を避けその持ち主であるメレルエルへと焦点を合わせた。
「いいわけないでしょ、あなたもしかしてバカ?」
「あはは血の気が多いなぁ。なんかかわいい」
魔神はそういうや否や右太腿に付けたレッグシースからナイフを抜き、距離を詰めてからメレルエルの首筋へ向けその刃を向かわせるが、紙一重で避けたメレルエルは後方へと跳び槍を構える。
「うんうんいい動きだねぇ。君少なくとも雑兵ではないでしょ、名前おせーてよお姉さんに」
ナイフをレッグシースに収め、弓の弦の張り具合を確かめながら尋ねてきた魔神に対し、メレルエルは一度深呼吸をしてから言葉を返した。
「魔神になんて名前を教えたくないわよ。ていうか名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀って知らないの?」
「知らなくはないけどそれって人間が勝手に決めたことじゃん…まあいいか、私は『レラジュ』一応階級は『大侯爵』だよぉ~ってことで、はい名前教えて―」
そう魔神―レラジュが言い終わる前に、上空から降り注いだ光の雨によって言葉は遮られ瞬く間にレラジュの身体は光の雨に包まれる。
アラドヴァルによって放たれた、天界術攻衛ノ肆『閃浄の慈雨』は十数秒間レラジュへと降り続けやがて光の雨が降り終えるが、その中でレラジュは平然と立っておりいまいち効き目はない様子だった。
「いやーびっくりしたなぁーもう。やるならやるって前もっていっといてよね。あーあぁーもう服がボロボロじゃん」
そんな悪態をつきながら至ってマイペースに服を脱ぎ捨て、どこからともなく取り出したお気に入りの一張羅へと着替え始めた。
「よーし準備万端。それに決めたよ私は」
和服に似た服を着終え、レラジュはメレルエルへと向け指を指す。
「君は私の物にする。それと―」
そう言葉を残しその場から姿を消したレラジュは、再度死角から攻撃を試みていたアラドヴァルを捕える。
「君も私の物にするってね!」
先程の気だるげな様子とは打って変わり、やる気に満ちた表情のレラジュは慣れた手つきでアラドヴァルの両手を後ろ手に縛り付け拘束する。
「さて、どうする?このままじゃこの子死んじゃうよ?」
まるで試すかのように問いかけたレラジュだったが、以外にもメレルエルは冷静であり構えている槍を下ろそうとはしなかった。
「ありゃりゃこの状況でまだ反抗する意思があるなんて、なかなか場数踏んでるのかな?ふむふむ…だったらこういうのはどうかな!」
そういうや否や、レラジュはアラドヴァルの左足にナイフを突き立て、迸る痛みにアラドヴァルは悲鳴を上げた。
「いやーこんなことあんまりしたくないんだけどねぇ、君たち強情だからさー」
レラジュは突き立てたナイフを抜き、再度別の個所へとナイフを突き立てる。
抵抗することも出来ず、アラドヴァルがただ悲鳴を上げるしかない様子にメレルエルは槍先を下げ少なくとも反抗の意思を失くした様に振る舞いを見せる。
「…メルよ」
「ん?なんて?ごめんちょっと聞こえなかった」
「メレルエル…私の名前よ。それとその子はアラドヴァル…これでいいでしょ」
悲痛な表情を浮かべて、そう告げたメレルエル。
そんなメレルエルの様子に幾分満足いったのか、レラジュは笑みを浮かべ二人の名前を小さく復唱し記憶する。
「うん、いい名前だね。それにアラドヴァルってことはこの子神器の天使ってこと?あぁーなおさら欲しいなぁ」
レラジュはアラドヴァルが動けない事をいいことに頬ずりしながらそんな事を口にする。
だが、アラドヴァルも好き放題される気はなく、後ろ手のまま術式を指先で編み終えレラジュへとそれを放つ。
突如ゼロ距離から放たれた天界術攻衛ノ参『全能神の雷』はレラジュの身体を突き抜け、レラジュが出てきた廃屋を勢いよく爆ぜさせた。
詠唱もなく発動させた天界術は総じてその性能を大きく劣らせる為、レラジュに膝を付かす程度の威力しか出せなかった。
だがそれにより拘束が緩まった事を見逃すことなく、駆け出したアラドヴァルはメレルエルへと目配せし意思を伝える。
メレルエルは自身へと駆け出してきたアラドヴァルを受け止めてから拘束を解き、手を握ってからマナを込める。
すると繋いだアラドヴァルの手から次第に文様が浮かび上がり、やがて全身へと巡るとアラドヴァルの全身が淡い光を放ち始める。
「くぅ~いいのもらっちゃったなぁ…あれ、なんか面白いことしてる?」
性能が大きく劣っているとはいえ、廃屋を爆ぜさせた全能神の雷を諸に喰らってなお平然としてるレラジュだったが、程なくして二人の身体が重なり始めるのを見て、その胸に期待で膨らませていた。
「神器換装―アラドヴァル―」
メレルエルの言葉に応えるように、アラドヴァルの身体は変じ始め武具へと姿を変えメレルエルの各部位へとその身を移し、頭、目、胴、手先、脚にはそれぞれ武具が装着され、手には太陽神・ルーが所持していた神器『アラドヴァル』が握られており、その穂先は眩い光を放たんばかりに輝いていた。
「あははすごいね、それがアラドヴァルの本当の姿?!」
レラジュは無邪気に喜びの声をあげるが、メレルエルのもつ神器の性能を本能的に察知し自身の魔器である大きな弓を手に取り臨戦態勢に入った。
「先に聞いておきたいんだけどさ。どうして私たちを『殺す』じゃなく『欲しい』っていうのか教えてくれる?」
レラジュが臨戦態勢に入ったのを見てから、同じく神器を構え態勢を整えたメレルエルは問いかける。
それに対しレラジュはそんなこと?、と言いたげ表情を浮かべ、ややあってから顔を綻ばせた。
「理由なんて大層なものはない。ただ、欲しいと思ったからそういっただけ。君たちみたいな部下がいてくれたら退屈しなさそうだと、そう思った。だからもう一度聞くね、私のもとに来る気はない?」
とてもやさし声色で、魔神らしからぬ様にメレルエルとアラドヴァルは少し面を喰らったが、やがて同じく表情を綻ばせたメレルエルはハッキリと拒絶する。
「私には勿体ないほどの御方が私を望んでくれている以上、私はその御方から離れる気なんてないわ。そんでもってアラドヴァルも拒否してる。残念だけど諦めて」
「そりゃ残念だ…だったら抵抗できないようにしてから連れていくとするよ。覚悟しなよメレルエル、それにアラドヴァル」
レラジュはそう告げたと同時に、構えていた弓で矢を引き寸分違わずメレルエルの右目へと放たれる。
だが、睨み合った状態から真っすぐに飛んでくる矢を避けられないほどメレルエルは遅いはずもなく、悠々と避けたメレルエルは力強く地面を蹴りレラジュへと駆け出すも、レラジュの弓には既に矢が引かれており、その照準はメレルエルへとぴったり合わせられ放たれる。
今度はそれをタイミングよく神器で弾いてから続けざまに神器の穂先をレラジュの胴へと振るうが、レラジュはあろうことか距離を詰め穂よりも少し奥の柄の部分を弓幹で受け止める。
そして、矢筒から取り出した矢は恐らく弓で引くには不向きに思える鏃の形をしており、その異様な鏃の矢を持ってメレルエルへと切りかかった。
しかし、その鏃は届くことなくメレルエルの手に装着された籠手によって弾かれ、刹那メレルエルの背に現れた術式から放たれた『時間神の天槍』を紙一重に避けレラジュは大きく後方へと引いた。
「そっかそっか、見た目に惑わされてついついメレルエル一人だと思っちゃってたけど、アラドヴァルもちゃんとそこにいるんだもんね。危ない危ない」
そう軽率に笑いながらレラジュは異様な鏃の矢を矢筒にしまい、代わりとなる矢を取り出し弓へと軽く当てる。
幾分か余裕があるのはレラジュだけの様で、メレルエルの表情は甚く真剣なものだった。
実力差こそそこまで大きな差がない両者ではあるが、レラジュの本領は矢を当てた後にこそ発揮するものであり、今のメレルエルの様に部位を防具に包んだ相手へ矢を当てることはかなり難易度が高い芸当といえる。
だが、レラジュは先程の発言とは裏腹にある程度力を抑えてメレルエルとアラドヴァルとの戦いを楽しんでいる様だった。
『どうするメレちゃん。あいつ相当強いよ』
「わかってる、だけど勝てない相手じゃない」
「なになに作戦会議?うんうんいいねぇそういうの、少し妬けちゃうなぁ。―だからさせてあげない」
レラジュは弓を構え一本の矢を引くと、その周りには同じような矢が出現し引かれているものと同期しているかのような動きをしていた。
やがて、放たれた矢と同じく実際には弓にはかけられていなかった矢が次々と放たれ、それぞれが別々の弧を描きながらメレルエルへと襲い掛かる。
「さてどう躱す?」
「そりゃもちろん」
試すかのような笑みを浮かべたレラジュに対し、メレルエルは余裕の笑みを浮かべて―
「こう躱す」
―と声が聞こえた時には既にその場から姿を消しており、背後から迫る神器の穂先を即座に取り出したナイフで受けるも、灼熱を帯びる穂先を受け止めきれるわけもなく瞬時に溶解される。
(決まった!)
そう確信したメレルエルだったが、受けきることはできなかったとしてもほんの少しでも神器の動きを止めたという事実から生れた一瞬ともいえる間に、レラジュは瞬時に左足で神器の柄の部分を蹴り上げた。
「当たれば即死っていうのは緊張感が段違いだね、全く」
そして、レラジュは弓を地面へと刺し両の手を開け、蹴り上げていた足でもって力強く地面を踏みしめると、右手の五指の第一、第二関節を曲げ攻撃力を掌に集中させた形でメレルエルの腹部へと放つ。
その攻撃は、握り拳よりも大きな面積で外部ではなく内部に衝撃が伝わり破壊する力、日常的にマナで外部の守りを固めている天使達にとって、内部へ至る攻撃は確実なダメージをより効果的に与えた。
数十m程飛ばされた後、地面へと叩きつけられたメレルエルは込み上がってきた多量の血を吐き出す。
「ふぅ…ちょっと本気で打っちゃったけど生きてるよね?」
「あ、あたりまえでしょうが…こんなもので死ぬたまじゃないのよ」
ゆっくりとした足取りで近づくレラジュに対し、激痛でのたうち回りたいのを堪えながら立ち上がったメレルエル。
アラドヴァルが回復の術を使ったとしても、一度に回復することはなく受けたダメージが大きすぎるために時間がかかりすぎてしまう。
そしてその間、レラジュが大人しく待ってくれるわけもない。
「うん、やっぱり欲しいな君。だからそろそろ大人しくしてくれるととっても助かるのだけど」
「あはは、冗談にしては最高ねそれ。でも私は折れない、折れてなんかやらない」
アラドヴァルが回復に専念しなければ、メレルエルは即座に倒れてしまうおそれがある為、この戦闘ではアラドヴァルの補助をもう望めない。
立ち上がることさえ困難なはずなのに、今だ闘志の炎を絶えさせることなく神器を構えるメレルエルに対し、レラジュはより一層想いの募らせ欲求する。
「あはぁ…いい、すごくいいねメレルエル。絶対に私の物にしてあげるね」
そうレラジュが距離を詰めた刹那、戦闘を行っていたすぐ近くの高層マンションの上階で、突如多量の魔素が噴出され爆発を起こし、メレルエルとレラジュはそれに視線を引き寄せられた。
うわぁあああああああ
投稿日めたくそミスってました!
申し訳ねぇ!
予約投稿だったんで19:30頃まで気づきませんでした!
二度と内容は気をつけるので許してください!!
ほんとごめんなさい!
以上20日の19:30頃のおきつねより
この時点でキャラの容姿がわりと固まってるのはミョルグレスとフェイルノートのみです
絵がうまくなりたいです
その⑤は1月23日です
第六章はそれで一旦おしまいです




