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天使のパラノイア  作者: おきつね
第一章
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第一章 『生涯忘れられない日』 その③

 学校から咲の家までは特に会話もなく、別れる際も咲は「じゃあね」と明るく別れを告げてから玄関の鍵を空け中へと姿を消した。


 それを見送ってから、急ぎ足で学校へと向かった有希の表情は険しく咲を迎えに来た時の事を思い出す。


(やっぱりいくら思い返しても間違ってない。咲はあの時玄関に鍵なんてかけてなかった!)


 それもその筈、咲は玄関から飛び出した後有希の腕へとしがみつき、そのままの状態で学校へと足を向かわせた。


 であれば、咲の家の玄関の鍵が閉まっているわけがない。


 ―つい先日自分以外の家族を亡くしたのだから。


 有希は学校へと着いた後、一限目が終わるまで教師に見つからない様トイレに身を隠し、チャイムがなったと同時に自分の教室へと走り出し、教師が出たのを見計らってから教室の中へと入ると大半が戸惑いの声を上げる中、夢莉と倉原は落ち着いており、倉原に至っては優しい笑みを浮かべていた。


「咲の事で話があるんだけどちょっといい?」


 そう二人へと問いかけ、二限目が始まる前に教室から屋上へと場所を移した有希は昨日と今朝の出来事を話始めると二人は真剣に聞き入る。


 やがて話し終えた有希は「たぶんだけど」と小さく告げてから、確信を以てこう言った。


「あれは咲じゃない」


 有希の力強い言葉に倉原は頷きを返してから語り始める。


「聞く限り、どう考えても不思議な事が起こってる様だし現実的な事はこの際無視して考えたほうがいいだろうな。といってもそういった事に精通してるわけじゃないし、実際体験したこともない。だけど―」


 そう一旦区切ってから倉原は携帯を取り出し何かを検索してから、画面を二人へと見せる。


「そういう不思議な話だったらここで見たことある」


「これは?」


「あるサイトの考察をしてるスレッド。で、そのサイトってのが『天使のお悩み投函所』って呼ばれるもので、このスレッドでは天使に助けられたっていうのがたまに出てくるんだけど、実際にそのサイトに行きつけた人はいないんだ」


 そういいながら『天使のお悩み投函所』と検索をかけた倉原だったが、その関連のスレッドだけが表示されるだけで目当てのサイトのページは出てこない。


「しかもサイトを表示させた状態でスクショしても写っているのは真っ白なページだけ。もはや都市伝説だ」


 そういって倉原はシャッシャッと指を動かし、表示されていたスレッドの内一つを開き二人へと見せる


「そしてこの中で一番信憑性が高いって言われてるのがこれだ。内容としては悪魔と遭遇したスレ主が天使に助けられたっていう至ってありきたりな話なんだけど、問題はスレ主が貼った一枚の写真なんだ」


 スレッドの中間あたりに貼られた一枚の写真には、造形と思えるほど綺麗な白い羽が写っており、目を惹かれたのは大きさの比較として横に置かれた五百円玉が、五枚並んでようやっと同じ長さになっていた事だろう。


「大きすぎないこれ?」


「だから当時も作り物だって言ってる人がいた。だけど、もしこれが本当に天使の羽だとすれば

、その存在を裏付ける事のできる物だからな」


「だとしても何で()()()消されてないんだ?」


 これまで話だけを聞いていた夢莉は、ふと思いついたかのように問うと倉原は「多分だけど」と前置きしてから口元に手を当て自身の考察を語り始めた。


「消すよりかは自然に収まるのを待ってたんだと思う。下手に消せばそれが存在の正銘になってしまうし」


「まあそれもそうか…で肝心のサイトにはどういくんだよ」


「それについては考えてないけど…これでいけるんじゃないかっていうのは一つある」


 倉原がそう答えると有希と夢莉はほぼ同時に首を傾げてから目線だけで続きを促し、倉原はそれに頷いてから口を開いた。


「まず検索するのはPCじゃないとダメだろうな、スマホだといくらやってもでてこない。そしてこのサイトに行きつくための鍵があるんじゃないだろうかって思うんだ」


「鍵?」


 そう怪訝そうに聞き返した夢莉に対し、倉原は「憶測だ、真に受けるなよ」と自信なさげにいってから言葉を続ける。


「多分悪魔に関する何かを所持している人間だけがサイトにたどり着けるようになってるんじゃないかって。そうでなきゃこのサイトがあるっていうこと自体がただの嘘になるし」


 そういってから倉原はもう見せるものがないと云わんばかりに携帯をしまう。


「でもそれって―」


「―そう、多分咲には悪魔が取り憑いてる…確信はないけど」


 不安げな有希の言葉の先を汲み取るようにして続く言葉を口にした倉原だったが、言葉の最後の方は余程自信がないのか視線を逸らしながら呟き、有希と倉原は口を閉ざす。


 だが、そんな二人を余所に夢莉は一人頭を抱え何やら悩んでいる様子で、「どうしたんだ」と倉原が問いかけると、一度ため息をついてから何かを決意したのかの様な表情を夢莉は浮かべた。


「本当は話すなって言われてることなんだけどな、一応例外として『悪魔が関わっている』ったわかった時はその関係者だけに話してもいいって言われてる事がある」


 そう告げた夢莉へと倉原はそれを意味する事に気が付いたのか驚いた表情を浮かべる。


「ただ今回の件については多分有希だけだ。…倉原は直接関係してないように思うし」


 申し訳なさそうな表情を浮べ倉原へと視線を向けた夢莉だったが、倉原の反応は夢莉が思っていたものとは違いどこか納得したような表情をしていた。


「そうかわかった。残念ではあるけど俺は席を外すよ」


 そういって立ち上がった倉原に、夢莉は申し訳ないといった表情をしてから頭を下げる。


「…ごめん倉原」


「それ、夢莉が謝ることじゃないだろ」


 清々しく笑った倉原だったが、やりきれない気持ちを多少ながら含ませた表情へと切り替えてから二人に向き直る。


「何かやるって決まったわけでもないけど、無茶なことはするなよ」


 そう真剣な声色で告げてから二人の返事を待つことなく倉原は屋上を後にする。


「…たりめーだバカ。カッコつけやがって」


 既にそこにはいない倉原へと毒気付いてから夢莉は一度息を吐き出し有希へと真剣な表情を向けた。


「一応言っとくけど、一度聞いたら後には引けないぞ。それでもいいか?」


 重々しい口調で告げた夢莉だったが、有希の表情には迷いはないようで一度大きく頷いてから力強く答えを出す。


「大丈夫、それで咲を元の先に戻せるのなら」


 有希の決意は確かなものだったが、その答えを聞いた夢莉の心中には後悔と小さな罪悪感が芽生えていた。




 夢莉からの話を聞いた後、学校を後にした有希は本来の帰り道とは別の道を歩きわざと遠回りして家へと帰宅する。


 その道中、無自覚に考える時間を欲したのか、夢莉から聞いた嘘のような話が頭の中を何度も反復し上手く考えがまとまらず、ふと顔を上げるとどこかの神社の前で足を止めていた。


「どうせなら神様に頼んでみようかな」


 有希は誰に聞かせるわけでもなくそう呟いてからこじんまりとした神社の中へと足を踏み入れ、本殿前に設置されている賽銭箱へと五円玉を入れスッと静かに手を合わせてからゆっくりと頭を下げる。


「どうか、咲が無事で過せますように」


 有希自信それが正しい行為なのかは良く知らなかったが、身勝手なお願いをする以上何かをしないわけにはいかない。


 立ち去る際、もう一度本殿へと向き直し頭を下げた有希だったが、その時ふと透き通るような鈴の音が聞こえた気がした。



 予想以上に遠回りしていたおかげか、有希が家に着いた頃には日が傾き始めており空は鮮やかな朱色へと染まり始めていた。


 鍵を空け玄関扉を開けると飼い猫がちょこんと座り、有希の顔を見るなり鳴き声を上げる。


「どうしたのるー、もしかしてお腹空いてる?」


 そういいながら靴を脱ぎ飼い猫の『るー』を抱き上げた有希。


 るーは抱き上げられたことで近づいた有希の顔へと自身の顔をすりすりと押し付け甘えるようにもう一度鳴き声を上げる。


 るーを抱きながらリビングの扉を開き台所へと視線を向けると、有希の母親は夕食の準備をしており「ただいまー」と有希が声をかけると、有希の母親は一度手を止めて「あらおかえりなさい」と笑顔を有希へと向けてから夕食の準備を再会する。


 どうやら早退したことは学校から連絡が来ていないようで、有希はそれに安堵の息を吐いてからるーをソファへと下ろし二階にある自室へと向かった。


 着替えを済ませてからベッドへと倒れこむように寝転がり有希は天井を見上げる。


 咲の事、夢莉の事、昨日から様々な事を考え続けていたせいか、身体を起こしてノートパソコンで調べなければいけないとわかっていながら瞼が閉じていく。


 意識が途切れる刹那、窓の外では何かがひらひらと落ちていくのが見えたが、それを確認することも出来ず有希は静かに寝息を立て始め、夢をみる。


 それはどこかの丘の上で寂しそうな顔で遠くを見ながら笑っていた知らない少女の夢だった。


 その少女の姿はまるで蜃気楼の様で儚く朧げで、ついっと視線を向けられた有希は鼓動が早まった気がした。


「――――」


 少女は何度か口をパクパクとさせ、有希に対して何かを言ってるようだったが、何をいっているのかはわからない。


「聞こえないよ、何て言ってるの?」


「――――」


 有希の問いかけに、またパクパクと口を動かしたがやはりその声は聞き取れず、少女は少し物悲しい表情を浮かべてからその朧げな姿は霧散するように消えてしまい、少女が消えたと同時に有希は瞼を開き目を覚ました。


 いつの間に部屋に入ってきたのか、有希のお腹の上ではるーが身体を丸くさせて寝息を立てていた。


「有希ーそろそろ降りてきなさい、ご飯できるわよー」


 そう一階から母親の声が聞こえ、有希は返事をしてからるーを抱き上げ自室を後にした。



 ご飯を食べ終えてからお風呂へ入り、さっぱりした気分で自室へと戻ってきた有希は一度息をすってからゆっくりと吐き、勉強机の上に置いてあるノートパソコンを起動させる。


 ややあって起動したノートパソコンのキーボードをカタカタと叩き、倉原が言っていた『天使のお悩み投函所』のサイトを探すために入力し検索をかけるが、ディスプレイにはおかしな表記と共に検索エラーと表示されていた。


「なにこれ」


 倉原が自身の携帯で検索をかけた時には、いつくかのスレッドが表示されていたがディスプレイにはその影も形もなく、そして検索エラーの下に躍り出たおかしな表記がいやに目を引いた。


「”あなたが所持している()を手に持って再度検索をかけて下さい”…これって」


 屋上で倉原が言っていた『悪魔に関する何かを所持している人間だけがサイトにたどり着けるようになってるんじゃないか』という予想はどうやら当たっているのか、ややあって有希はハッとしてから咲から鍵を受け取ったことを思い出し、制服のポケットから引っ張り出す。


 その鍵をじっと見つめてから強く握りしめ、再度ノートパソコンへと向き合い息を吐いてから意を決して有希は再度検索をかけると、ディスプレイには一件のサイトの名前が躍り出る。


「嘘…でてきた」


 そのサイトの名前は、有希が探し求めていた『天使のお悩み投函所』に他ならなかった。

3話の修正が終わり余裕が出てきたので投稿

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