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天使のパラノイア  作者: おきつね
第六章
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第六章 『悪魔の軍勢の目的と現一の戦い』その①

 ミョルエル達が依李姫の神社を後にし教会へと着いたのとほぼ同時刻、メレルエルとアラドヴァルの二人は依李姫の神社へと帰宅した。


「全く嫌になるわねここ最近は。ほんと倒しても倒してもキリがないじゃない」


「うん、確かに最近はずっとこんな感じだね。ミョルちゃんも珍しく忙しそうにしてるし」


 部屋に入るなりどかっと腰を無骨に下ろし、そう悪態をついたメレルエルの意見に賛同しながら静かな動作で腰を下ろしたアラドヴァル。いつもならお茶を淹れに台所へと足を向かわせていたが、その表情には珍しく疲労が見え一度下ろした腰を上げる気にはなれない様子だった。


 そんな二人が帰ってくるタイミングを知っていたかのように、淹れたてのお茶を持って依李姫が部屋の扉を開けた。


「お疲れ様二人とも。その様子だと一度休憩に来たって感じかしら?」


 そう笑い掛けながら依李姫がお茶を手渡すと、二人は小さく感謝の言葉を述べてから労いの言葉に続いた問いかけへと返答した。


「はい、消費したマナを少しでも早く回復させるために…そういえばイシュタル様はどちらに?」


「奥の部屋でストラスと一緒に寝てるわよ。一応あれでもあっちの住人だから魔素の温存といった所かしら」


 メレルエルが『イシュタル様』と呼ぶ元豊穣神・イシュタルの成れの果てである魔神・アスタロトと、ジャックが取り込んでいた梟の魔神・ストラスの両名が活動するには魔素が必須であり、現界ではその魔素を補充する手段が限られている。


 そのため無駄使いすることができず、温存するために眠りにつくことは珍しくなかった。


 そしてそれは現界へ来て鳴りを潜めている悪魔や魔神にも同じことが云える。


 元来、睡眠といった行為を必要としない存在ではあるが、魔素で満ち溢れている魔界と違い現界では魔素が極端に少なく、睡眠といった行為を行うことでその消費を抑えなければ現界に居続けることができない。


 だが、つい先ほどメレルエルとアラドヴァルが言った通り、ここ最近―丁度ジャックが霧の都ロンドンで起こした事件をきっかけに、これまで目立った行動を取らなかった悪魔や魔神達が世界全土で活発に行動を起こし始めており、現界守衛隊と一部の天界守衛隊を現界に配置することでその活動を抑制及び鎮圧を日夜行っていた。


 その甲斐あってか先のロンドン以上の被害は出ておらず、今現在天界ではより早期に解決するべきだと意見が出始めていた。


「それにしても、どうして今になって活発になったのかがわからないね…あまり考えたくはないけど、向こうは既にこちらを制圧できるだけの備えが終えているってことなのかな」


「だとしたら些か稚拙な気がするけどね。現に私たちは抑え込めてるんだし」


 指を口元に当てそう言葉を発したアラドヴァルに対し、メレルエルはいくらか悠々と告げてから依李姫が出したお茶請けを一つ、また一つと口へと頬り始める。


 メレルエルの言った様に、悪魔や魔神達は活発に行動を起こすもののそれらには全くと言っていいほど一貫性が見られず、各々が好きなタイミングで暴れだすといった暴虐無人っぷりにはミョルエルでさえ引くほどだ。


 だが、アラドヴァルはそれすらも魔界側の意図的なものであると見ている様だ。


「もしも、既に備えが終わっていて現界で活動していた悪魔や魔神の還り待っている状態だとしたら

―あまり良くない状況っていえるんじゃないかな」


「待ってそれは仮定の話でしょ?あーちゃんが言うように備えが終わってるならわざわざ帰還を待つことなく攻めたほうが早いじゃない。そうでしょ?」


 神妙な表情で告げたアラドヴァルへと食い気味に返答するメレルエルだったが、依李姫はアラドヴァルと同じく神妙な表情を浮かべ、ややあってから立ち上がり部屋を後にした。


 アラドヴァルはその背を見送ってから、今だ自分の言いたいことを察していないメレルエルを内心で微笑ましく思いながら、重々しく語り始めた。


「多分、それに関してはただの嫌がらせだと思う。私たちは向こうについてよくは知らない。だけど、もし一度還った方が都合がいい場合―メレちゃんならどうする?」


 そう問いかけられ、少しばかり悩んでからアラドヴァルが言いたいことを察したメレルエルの表情は次第に強張り始め、その表情を見てアラドヴァルはゆっくりと頷いてから言葉を続ける。


「私ならできるだけ暴れてから還る。上手くいけばその爪痕を残せるし、もしだめだったとしても次に繋げることができる。情報は大きなアドバンテージ、少しでも相手の事を知れるなら多少対価を払ったっておつりがくる」


「なによそれ…こっちが一方的に不利な状況になってるってこと?」


「元よりこちらの手札はある程度向こうに知られてる。だけど、こっちだって常に進み続けいるし、情報に関していえば同じだけこっちも得られてる。メレちゃんが思ってるほど一方的なものではないとは思うけど」


 そう微笑みながら告げたアラドヴァルだったが、自身が放った言葉は頭で考えていた時よりも尚重く自分自身に覆い被さり、程なくして浮かべた微笑みは瓦解する。


「残念だけど、貴方の考えは正しいわよアラドヴァル」


 そう部屋の中に響いた声の主は、開け放たれた扉の前で立っておりその傍では依李姫と、その手に

すっぽりと収まっている一羽の小さな梟―ストラスがいた。


「イシュタル様…」


 少し声を震わせながらゆっくりと振り返ったメレルエルの表情を見て、イシュタルと呼ばれた魔神―アスタロトは真剣な表情を崩し朗らかな笑みを浮かべる。


「何情けない顔してるのよメレル。安心しなさい、貴方は十二分に強い。それはこの私が保証してあげるから」


 すっとメレルエルの顔へと手を伸ばし、自身の胸へと寄せてから優しく抱きしめ頭を撫で始めたアスタロトは、もう片方の手をアラドヴァルの頭へと伸ばしメレルエルと同様に優しく撫でる。


 ややあってそれを少し惜しんでから、手を引いたアスタロトは勝気に満ち溢れた表情を浮かべ両手を腰に当ててから薄い胸を張った。


「さて、それじゃあ少しづつ煮詰めていきましょうか。ストラス、あなたの知識今ここで絞り出しなさいな」


「全く、魔神使いが荒い女神だな。だがまあここは我にとっても居心地の良い場所だ。そう易々と手放す気など更々ありはしない」


 小さくため息をついてから依李姫の手から飛び立ったストラスは、アスタロトの頭へと降りたちふんすと息を吐く。


 そんな二人の魔神に対し、何とも言えない感情を抱きながら依李姫は部屋の扉を閉じ椅子に腰かけてから、小さな会議を始める言葉を切り出した。

何度か意識を飛ばしながら投稿

その②の投稿は1月14日です

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