第五章 『新たな隊員』 その②
依李姫の神宮に着くなり、ミョルグレスはミョルエルの腕により強く抱き着き、フェイルノートは戦闘態勢へと身構えるが「大丈夫よ」とメレルエルに優しく肩を叩かれいくらか警戒レベルを下げる。
先導するミョルエルと共に、ミョルグレスは意を決してから鳥居をくぐると、本殿の前では魔神の気配を纏う梟―ストラスを優しく撫でる依李姫の姿を改め、知らず知らずの内に片膝を地に付ける。
「あ、その子…もしかしてミョルちゃんが言ってたグレスちゃん?」
「えぇそうですよ、それと後ろにいる見慣れない子はフェイルノートです。この二人は現八の隊員になったので、この二人共々お世話になります」
ミョルグレスの頭を優しく撫でてから、軽く頭を下げたミョルエル。
「あらあら」と口元を綻ばせながら、今し方まで撫でていたストラスを放しミョルグレスまで駆け寄ってから目線を合わせるために依李姫はしゃがみ込む。
「始めましてグレスちゃん、私はここの土地神・依李姫っていうの。よろしくね」
そういいながらミョルグレスの頬に触れ、優しい手つきで顔を上げさせてから依李姫は「うん」と一度頷きミョルグレスを抱きしめた。
はわわと慌てふためくミョルグレスだったが、程なくして小さな声で「よろしくお願いします」と呟きその身を依李姫へと委ねた。
「ふむ、ここに増員できるとは天界にはかなりの戦力が残っているということか。全く素晴らしいな」
バサバサと翼を羽ばたかせながらミョルエルの頭の上に乗ったストラスだったが、平然と近づいてきたストラスに警戒してかフェイルノートは一歩退いてから、マナの矢を顕現させ携える。
「え、どういうこと…何故魔神がここに?」
「色々あったのよ、まあ無害だから安心しなさい。それと言いたかないけど本殿にはあれ以上の御方が居られるわよ」
矢を携えたフェイルノートの手を押し留めそう告げると、本殿の扉が勢いよく開け放たれ、そこにはアスタロトが我が物顔で佇んでいた。
「ただいま帰りましたイシュタル様。留守の間、何かあられましたか?」
平然とアスタロトへと声をかけるメレルエルの様子に目を見開いたフェイルノートを余所に、アスタロトはすたすたとメレルエルへと足を進める。
「退屈なくらい何もなかったわ!それとお腹空いたわ、アラドヴァルご飯お願いできる?」
「かしこまりましたイシュタル様。できるだけ迅速にご用意しますね」
そう言い残しアラドヴァルは本堂へと姿を消しと、メレルエルの腕に抱き着いたアスタロトは見慣れないフェイルノートへと視線を合わせた。
「で、この子とあそこにいる子が新しいミョルエルの部下?」
「は、はい私めは名をフェイルノートと申します。まずは神・イシュタル様が御存命であることにお喜び申し上げます」
ばっと地に片足を付け頭を下げたフェイルノートの模範的な態度に、アスタロトは口元を綻ばせながらその薄い胸を張る。
「あらあらいい心がけじゃないこの子。ミョルエルとは大違いね!」
「何をいうのですか、私もそれなりの反応してたじゃないですか。それに反応云々でいうのなら、今貴方が掴んでいる者にこそ咎めの一言を告げるべきでは?」
「この子はいいのよ私の子なんだから」
そんな謎理論を言ってから眼前に跪いているフェイルノートの頭を上機嫌に撫でるアスタロトだったが、フェイルノートの心情は何ともいえない物で埋め尽くされ、どう行動すればいいのかわからず思考がショートしかけていた。
「さて、それじゃあみんな中にどうぞ。最近改築したから窮屈ではないと思いますよ」
撫でまわしていたミョルグレスから手を放し、立ち上がってから手を叩いた依李姫は先導するように本堂の中へと入っていく。
それに続くようにミョルエルと、その頭に乗ったストラスが本堂に入り、その後をミョルグレスが追う。
「さて、それじゃあ私たちも行きましょうか」
そういってからメレルエルの手を引きながら本堂へと足を進めたアスタロトだったが、ふと足を止めてから、ようやっと立ち上がったフェイルノートへと笑顔を向けた。
「ああそうそう、私とストラスはここで事は起こす気は更々ないけど、もしあなたが今の均衡を壊すような事をしようものなら容赦しないからそのつもりでね」
「ははっまさか、そんな思いなど…つい先ほど霧散しましたよ」
「あらそう、なら仲良くやっていきましょう。できれば私は貴方に危害を加えたくはないのだし」
そう小悪魔の様な笑みを浮かべてから本堂へと入っていったアスタロトとメレルエルを目で追って
から、フェイルノートは一人空を見上げる。
「もう何にも考えたくないなぁー」
そう呟いてから受け持った任務を放棄することを決め、フェイルノートは本殿へと足を踏み入れた。
短いねぇ
でもまあ5章からはこういうのが増えると思います
がんばります