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天使のパラノイア  作者: おきつね
第五章
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第五章 『新たな隊員』 その①

 ジャックとベリアルの襲撃から数日経ち、一命を取り留めていた能天使・ウーレイが目を覚めたとの連絡が入り、メレルエルとアラドヴァル、そして二人に連行させる形でミョルエルもまた天界へと向かうこととなった。


「隊長、それに副隊長もわざわざありがとうございます」


「いいわよそんなのいちいち言わなくても。隊員を気に掛けるは隊長の務めなんだし」


 腕を組みながら強気な態度で言ったメレルエルだったが、そんなメレルエルに対しニヤっとしてからアラドヴァルはからかうようにメレルエルの頬をつっつく。


「そんなこと言いながらずっとソワソワしてたのはどこのどなたでしたっけ~?」


「ちょ、ちょっとあーちゃんそれは内緒にって!」


「隊長…」


 アラドヴァルの手を取ってから焦った様子で声を張り上げたメレルエルへ、ウーレイは若干頬を朱色に染めながら呟くと、メレルエルは気恥ずかしそうに身を捩る。


「あ、そういえばミョルエル隊長はどちらにいらしているのですか?」


 ハッとしてからウーレイは二人の後ろを覗きながら視線を彷徨わせると、「あー」とメレルエルは小さく呟きウーレイは視線をメレルエルへと戻す。


「あいつは今議会室に呼び出されてるわ。なんかミョルの部隊に新しい子を配属するとかなんとか」


「ミョルエル隊長の隊にですか?でも確かあの方の隊って…」


「そう遊撃隊よ。少し前までは特に忙しくはなかったから日ノ本に滞在してることが多かったけど、ここ数日は色んな所に行ってるからその補佐ってことでしょうね」


「うーんでもこの時期に配属って一体誰なのかな、メレちゃん心当たりある?」


 そう人差し指を下唇に当てながら問いかけたアラドヴァル。


 だが、メレルエルは大方の予想がついているのか頭をガシガシ掻きながら口を開いた。


「多分だけど、あいつって神器持ってるでしょ?まずその子は配属されると思うわ。こっちでの評価も相当高いらしいし。…あとは監視っていう意味合いで老勢の方々が一人くらい配属させるんじゃない?」


「まあ確かにその可能性は高そうだよね…それでミョルちゃんの負担が減るといいんだけど」


「どうだか。ミョルは自由に動いてこそだし、余程気が合わないとキツイものがあると思うわよ」


 そう医務室で話を盛り上げている三人を余所に、議会室ではミョルエルの現界守衛第八隊についての話が繰り広げられていた。


「さて、では現界守衛第八に所属が決まった者を紹介しよう。入ってきてくれ」


 そうルシフェルが扉へ向かって声をかけると、扉を開いて二人の天使が議会室へと足を踏み入れ、そのうちの一人がミョルエルがいる所へと駆け寄った。


「ミョル姉ぇーーーー!!」


 そう声を上げながら自身の胸へと飛び込んだ幼げな天使を、ミョルエルは撫でながら微笑みを浮かべる。


「相変わらず元気ですねグレス。そういえばこちらでいい成績を収めたそうじゃないですか、流石は私の妹ですね誇らしいです」


「そう!グレスね頑張ったんだよ!ミョル姉と一緒にお仕事できるように頑張ったんだよ!」


 褒めて褒めてと言わんばかりにきゃっきゃと笑顔を向ける幼げな天使―ミョルグレスを抱きしめてから、ミョルニルは更に頭を強くなでるとミョルグレスは小さく「キャー」と嬉しそうに声を上げる。


「あははぁ~大変仲がよろしいようで、その中に私が入る余地はあるのかなぁ?」


 そうからかうように二人の元へと歩み寄った陽気な天使だったが、ミョルエルはその天使を明るく向かえるように片手を差し出した。


「もちろんありますよ。ようこそ現八へ、歓迎しますよフェイルノート」


 優しい微笑みを浮かべるミョルエルの態度が予想していたものと違い、少し面を喰らった様にたじろいだ陽気な天使―フェイルノートだったが、顔を綻ばせミョルエルの手を取り軽く握手を交わす。


「よろしくお願いしますよ隊長」


「では、つい先日急遽行った試験において特に好成績を残したミョルグレス、並びにフェイルノートの両名を現界守衛第八隊に所属させる。引きつ続き現界守衛第八隊は新隊員と共に尽力せよ」


 その言葉にミョルエルに続き、ミョルグレスとフェイルノートが深々と頭を下げたのを「うむ」と一度頷いてから、ルシフェルはこれからの方針について話始め、ミョルエル達が議会室を後にしたのは三時間程経った後だった。




「おつかれさま。で、グレスは予想の範囲内として、まさかフェイルノートが来るとは思わなかったわ」


 ミョルエル達を待っていたのか、メレルエルは壁に身を預けながら議会室を出たミョルエル達へ声をかける。


 その横ではアラドヴァルが笑顔で「おつかれー」と気さくに小さく手を振っていた。


「先に帰ってくれててもよかったのに、わざわざ待っていたのですか?」


「ついでだしね。それに連行まがいなことしちゃったわけだし、黙って先に帰るのが憚られただけよ」


 ふいっと顔を背けながらにいったメレルエルは、「あっ」と短く声を上げ再度ミョルエルへと顔を向ける。


「ウーレイが『ありがとうございました』だってさ。それと今度会った時にでもお食事どうですかって」


「そうですか、では事が落ち着いた後にでもお願いしますか」


 そういってからミョルエルは四人を連れ現界へと降りる場所へと向け足を進めた。


 程なくして門番たちと軽く挨拶を交わしてから現界へと白翼を羽ばたかせた五人の天使は、ミョルエルが拠点としている依李姫の住まう神社へと向かう。


「それでミョルエル隊長は上に何を隠してるの?」


 突拍子もなくそう問うてきたフェイルノートは、メレルエルとアラドヴァルの些細な表情の変化を見逃すことなく、ミョルエルへと視線を向け直し答えを促すが、二人とは違いミョルエルはあっけらかんと言葉を返した。


「今は説明が面倒なので向かっている場所に着いた時に説明します。それをどう解釈して上に報告しようがフェルの好きにしてもらって構いませんよ」


「…そう、ですか。で、そのフェルというのはひょっとしなくても私の愛称ですか?」


 先ほどの議会と同じく、掴み所のないミョルエルの態度に調子を崩されながらも、始めての呼ばれ方について問いただすことで、フェイルノートは自身の複雑な感情を押し隠す。


「え、そうですが。もしかして、嫌…でしたか?」


「いや、別に嫌とかじゃなくて…始めてだったから、その反応に困っただけというか」


 ミョルエルに切なそうな顔で返され、始めて素の反応を見せたフェイルノートの言葉尻は聞こえないほど萎み、そんな二人のやり取りを見ていたメレルエルとアラドヴァルは安堵の息を吐いた。


 するとミョルグレスは嫉妬するかのような視線をフェイルノートへと向けてから、ミョルエルの腕に飛びつき「べー」っと可愛らしく小さな舌をフェイルノートへと出した。


 そんなミョルグレスの幼子の様な行動に、「あはは…」と笑いかけてからフェイルノートはどこか吹っ切れた表情を浮かべ、以降探る様な問い掛けをすることはしなかった。

さて遂に始まりました第五章!

さてはてどのようになるのやら

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