第四章 『狂気の殺意』その⑧
あぁ冷たい、そう思うほど辺りは黒炎で燃え盛り、地に密着した部分とそうでない部分の温度差が酷く熱い。
だけど、私だけこうしている場合じゃない。
そう思い、痛みで軋む骨を無視しながら立ち上がった私は、目の前でアラドヴァルの首を掴み不敵に笑うべリエルへと視線を向ける。
すると、立ち上がった際のじゃりっという音を耳にしたベリアルはぐるりと視線を向け、より一層醜悪な笑みを浮かべた。
「まだ立つか…だがその体では満足に動くこともできまい。大人しく眼鏡ちゃんが犯される様子を見ておけ」
そういってから、意識の失ったアラドヴァルを無造作に放り魔素で作り出した腕で、アラドヴァルの服を切り裂き解き放たれた豊かな胸へと手を伸ばす。
―が、その手へと微弱なマナの弾を飛ばし私は不敵な笑みを無理やりに浮かべる。
「そんなことさせるわけないでしょ…いくらだって邪魔してやるわよクソ野郎」
だけど、身体は完全に限界を迎え始めたのか、かくっと膝は折れ手で支えることもできずに、また地に伏してしまう。
「はぁー全く強情だな。まあ反応がないのもつまらん、お望み通りお前から犯してやるよ」
そういったベリアルの顔は見えなかったが、声音から明らかに喜んでいることがわかる。
「さて、楽しませてくれよ?」
やっぱりそうだ、ぐいっと無理やりに持ち上げられた視線の先では、下卑た笑いを浮かべるベリアルの顔があり、様々な感情がとめどなく溢れ出し自然と涙が零れた。
「いいなぁその反応、最高だぜお前―」
そう言葉を切ったベリアルは、何かに気付いたかの様に下卑た笑みを引っ込めバッと視線を変えた刹那、私の視界から消え私の髪を掴み上げていた魔素で出来た腕だけが、ついさっきまでここにいた事を物語っていた。
「随分と私の親友たちを弄んでくれたようですね、ベリアル」
そういいながら私の前に立ち、ベリアルへと立ちはだかったミョルエルの纏う神雷はより一層音を上げ、その様子からもミョルエルが激怒していることがわかる。
「メレルエル、アラドヴァルの事任せましたよ」
先程とは違い、優しい声音でそう告げたミョルエルはいつのまにか手元に抱いていたアラドヴァルを私の横にそっと寝かすと、キッとした表情を浮かべてから姿を消すようにしてベリアルの元へと移動し、神器を振り下ろす。
ベリアルは大剣でそれを防いでから力任せに振り払ったかと思うと、ベリアルの死角からミョルエルの神器が現れその切先でベリアルの身体へと一本の刀傷を刻み込んだ。
「な、てめぇ速すぎんだろ!?」
そう叫び声を上げるもミョルエルは一貫して無視し攻撃の手を緩めることはせず、深追いすることもなく確実にベリアルの体力を削り始める。
といっても、私に見えるのは蒼白い光が高速でベリアルの周りを行ったり来たりする光景だけで、それがミョルエルだと確信は持てる。だけど、余りにも次元離れした光景に言葉がでることなく、口は開いたまま閉じることがない。
実際にミョルエルが本気で戦う姿を見たことがなかったからか、まるでその様子をミカエル様達の姿と重ねてしまう。
あれに追い付こうとしてるの?私は―
そんな事を思いつつも、口元が緩むのを感じながら、まだそれをだすには早すぎる、と結論づけしっかりとこの光景を頭に叩きこむ。
まともに見えないミョルエルの攻撃を辛うじてではあるが、捌き続けているベリアルに対し何とも言えない感情が芽生え、軽く頭を振ってから払拭する。
そして、隣で今だ意識を途絶えさせているアラドヴァルを抱き寄せ、多少ながらもマナを送り意識の覚醒を図る。
「お願い…目覚めてよ、アーちゃん」
そう力なく呟いた私の意識は、程なくして遠ざかっていった。
諸事情により短めです
なので投稿も早いのです