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天使のパラノイア  作者: おきつね
間章②
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間章② 『とある男の非日常』

「先輩…本当にここであっているのですか?」


 そう問いかけられた俺は答えあぐねていた。


 いや実際に記されている住所はここで間違いはない。


 だが、注文の品であるかなり大きめの液晶テレビとは全く以って不釣り合いな建物にどうにも確証を持てない。


「あぁ、間違いないだろ。…多分」


 そのせいかどうにも言葉の最後の方が萎んでしまう。


「と、とにかく聞いてみればいいんじゃないですかね?インターホンとか見当たりませんけど」


 後輩ちゃんが言うように、門前にはそれらしい物が一切見当たらない。


 というかそれもそのはずだ。だってここ神宮だしな。それもかなりこじんまりとした。


 確か祀られてる神様はここらの土地神様かなんかで名前は確か『依李姫様』だったか。


 近所のご老人達が定期的に参拝しにいくる意外は特にこれといった印象がなく、はっきりいえば存在感がとてつもなく薄い場所だ。実際俺も土地神ということ以外知らん。


「まあここで話し合ってても埒が明かん。誰かいないか見てくるわ」


「せ、先輩おきをつけて」


 まるで死地に送るかのような眼差しをする後輩ちゃん。…いや別にそこまで大層なことじゃないからね?というか、そもそもそんなに広くもない。神宮とかそういう所特有の雰囲気?みたいなものに目を瞑ればどうということはないはずだ。


 …一応境内の道っぽい所は真ん中を歩かないように行こう。ほら、神様の通り道っていうしね?


 大した距離でもないはずだが、門前の鳥居から本堂?でいいだろうか、とにかくそれっぽい建物の前まで来たはいいものの、やはり扉の周りに呼び鈴とかそういう類の物が見当たらない。


 というかそもそも人の気配すら感じられず、どうしたものかと頭をガシガシとしていると、どこからか声が聞こえてくる。


 後ろを振り返り後輩ちゃんへと視線を向けるが、当の後輩ちゃんは小首を傾げ不思議そうな表情をしてパクパクと口を動かし「どうしたんですか?」と声に出さず問いかけてくる。


 どうやら後輩ちゃんにはこの声が聞こえていないようだ。ということはこの本堂、もしくはそのさらに奥の敷地外から声が聞こえて来ているだけだろうと結論づけ、ここのままでは仕事をこなせないと判断した俺は思い切って声を掛けてみることにした。


「す、すみませーん。荷物の配達でお伺いに来ました。どなたかいらっしゃいますか?」


 そう声を掛けると聞こえていた会話が一度ぴたりと止まり、ややあって扉の奥から「は~い」と間延びした返事がし、しばし待っているとスッと扉が開かれた。


「ご苦労様です。準備は既に出来ていますので中へどうぞ」


「かしこまりました。それでは荷物の運搬を始めさせて頂きます」


 そう笑顔で対応してくれたのは着物を華麗に着こなしている女性…見た目だけでなら俺より年下にも見えなくないが、身に纏っている雰囲気からかどうも年上の様に感じてしまい、口から出る言葉は自然と変にかしこまったものとなってしまっていた。


 そんな俺の様子にクスっと優しげに笑いかける様子に少しドキッとすると、刹那後ろから衝撃を受け、少しだけ姿勢を崩してしまう。


「ほら先輩なにぼーとしてるんですか!すみません、すぐに運び入れますね!」


 そう後輩ちゃんがいうや否やずるずると荷物を積んでいる車へと引きずられる。


「それではよろしくお願いします」


 そう声を投げかけられ、それを頭を下げることで返答した俺は車につくなり大きな段ボールを下ろしにかかる。


 最近のテレビは大きさに比例せず意外に軽いものが多い。ただ今まさに運ぼうとしている物を一人で運ぶには大きすぎ、バランスを崩して壊しかねない。…でかすぎんだろ。


 それを一度車に立てかけるように置いてから扉を閉じ鍵を掛け、後輩ちゃんとタイミングを合わせるように声を掛け合ってから持ち上げ、よちよちと本堂へと向かう。


 扉は俺たちを迎い入れるためか大きく開かれており、まるで怪物に食べられるような感覚に襲われるが、扉の奥で優しく微笑んでいる着物の女性を見るなりそんな不躾な感覚はどこかへ霧散する。


「ではこちらへ」


 そう手短に言ってから案内するように前を歩く着物の女性についていく。だが、着物の女性が曲がり角を曲がるのを見てから「す、すみません」と声をかけた。


 するとひょこっと顔だけを覗かせ、どうかしましたか?、と表情だけで問いかけられる。


「あーとですね。多分ですけどこれ、そこを通れないと思うんですが」


 と言葉を少し濁していったものの物理的に考えて無理だ。今運んでいる荷物は無駄に横に長いおかげで、どう向きを変えようと通れそうにない。


 だが、着物の女性は特にこれといった問題はないと言いたげな表情を浮かべてから「ミョルちゃーん」と声を掛けると、反対側の廊下から大きめのTシャツをきた金髪の少女が姿を現し、後輩ちゃんは「うわ、お人形さんみたい」と無意識に声を漏らす。


 金髪の少女は可愛らしく微笑みを浮かべてからぺこりと頭を下げ、前にいる俺の方へと来るなり荷物へと手を添える。


「では行きましょうか」


 そういってから返事を待たず進み始め、それがあまりにも自然だったためか思考を置いて身体が連なる様に足を進める。


 だが先程いった通り、この荷物がこの曲がり角を曲がりきることは不可能だ。何を考えてるんだという視線を金髪の少女へと向けると、視線に気が付いた金髪の少女は笑顔を浮かべるだけでその足を止めようとせず、金髪の少女と共に曲がり角を曲がった先で俺は後ろへと振り返るとそこには信じられない光景があった。


 荷物はまるで紙のようにしなやかに曲がりながら曲がり角を通過し、程なくして荷物の重さからかぎゅっと目を瞑る後輩ちゃんが姿を現しながらよちよち歩いていた。


 あまりの出来事に荷物から手が離れている事に気が付いた俺はすぐさま手を元の位置へと戻すが、そこには既に金髪の少女の手が添えられており手を重ねてしまう。


 これに金髪の少女が声を上げようものなら即おまわりさんの厄介になるところだったが、特に気にする風もなく前へと進み続けていく。


 やがてたどり着いた部屋には、中学生~高校生くらいの二人の少女と、その内の一人に抱きかかえられた金髪の少女と同い年くらいの活発そうな少女が声を上げ指示を飛ばしていた。


「あらようやっと来たのね。とりあえずそこらへんに置いておいて」


 そう指を差した活発そうな少女の指示に従い荷物を下ろすと、いつの間に用意したのか湯気を立てる湯呑みが7つ机の上に置かれており、着物の女性に「よろしければどうぞ」と短く勧められ二つ手に取ってから一つを後輩ちゃんへと渡し、「頂きます」と小さく呟いてから口にする。


 それは今まで飲んできたお茶が濁り汁かと思えるほどに美味しく、どうやら後輩ちゃんも同じことを思ったのか、わなわなしながら俺へと視線を向ける。


「すごく…美味しいです」


 そんな語彙力のかけらもない言葉を何とかひねり出すと、後輩ちゃんも頭をデスメタルバンドのボーカルさながら縦に振っていた。いや実際に見たことないけどなんかそういうイメージがいの一番に浮かんでしまった。


「それじゃあそれ、出してもらえるかしら?」


 どうやらここの指揮権は活発な少女が握っているようで、俺と後輩ちゃんへと指示を飛ばす。


 まあ特にクライアントへの不満があるわけでもないので素直にその指示に従い荷物を空ける。むしろ少し喜びを感じている気さえしてしまう。


 俺が道を踏み外す前に何とかせねばという思いからか、続く活発な少女から飛ばされる指示を無言で頷きながらこなしていくと、大きな液晶テレビの設置が終わり正常に動くかの点検を始める。


 特にこれといった問題もなさそうで、音声・映像共に淡々と流れている。


「うん、ご苦労様。助かったわありがとう」


 そう活発な少女の労いの言葉と共に向けられた笑顔に照れくさくなり少し視線を外す。


「いえ、これも仕事ですから」


 そう告げながら視線を彷徨わせていると、何こいつロリコン?といいたげな目で俺の事見る後輩ちゃんと視線が合った。だが、断じて違う。


 心の中でそう抗議するも、声には出さずややあって視線を逸らし撤収作業に取りかかる。


 散乱した段ボールをこれでもかと縛り上げたり、発泡スチロールを袋の中にぶち込んだり等、そう時間も掛けることなく事を終え、何一つとして手伝うことなく会話を楽しんでいた後輩ちゃんへと「ほれ帰るぞ」と声を掛けると、何故か後輩ちゃんがため息をつく。


 後輩ちゃんと会話をしていた中高生と思われる二人の少女も、やれやれといった様子で首を振ってから再度後輩ちゃんとコソコソと話始めた。あれー俺何かしましたっけ?


 そんなやり取りを見てクスリと着物の女性は小さく笑う。


「本日はありがとうございました。また機会があればお願いしますね?」


 そう言葉を掛けながら俺たちを見送り、俺もそれに習うかのように「はい機会があればまた」と言葉を返す。


 帰りの車の中では何やら不機嫌そうな後輩ちゃんが終始沈黙を決め込んでおり、少しばかりバツが悪くなる。何が悪かったのかはわからんが、俺が原因でこうなってるのは確かだよな…。


「あーなんだ、その、すまん」


「何がですか?ロリコン先輩」


 いやロリコンて…と思ったが、先程の一件を振り返ってみれば俺は二人の幼い少女に対し確かにそういった行動を取っていた様に思えなくもない。いや俺の中ではそうでもないのだが、あまりにそういった関りがなかったためか、自然とそう見えるようになってしまっていたのか、傍から見ればそう思われても仕方ない…のか?


 いやまあ実際中高生の少女たちもそう思っていた節があるから完全には否定できない。


「いやあれはそういうやつじゃないから。ほらなんだ?どう接したらいいかわからんかっただけだ。他意はない、断じてな」


「………」


 そういうと後輩ちゃんはじろっと疑いの眼差しを向けてきたが、本社に着いた時にはふっと顔を綻ばせた。


「わかってますよ先輩はそういう人じゃないって。ちょっとからかっただけです」


 車を降りる際悪戯っぽく舌を出す後輩ちゃん。全くもってめんどくさいなこいつ…まあなんだただ可愛くはある。多分俺が出会った誰よりも。


 俺はそれらの言葉を決して口に出すことなく車を降り、「ほら早く~!」と開いた扉の前で手招きする後輩ちゃんの元へと向け足を進める。


 きっとこの気持ちを伝えるのはまだまだ先なんだろうと、そんな事をふと考え思わず頬を緩めるのを、俺は後輩ちゃんにバレないよう不自然ながら手で覆い隠す。


「そういえば気になった事があるんですが、あの家の間取り―」


 そこまでいった後輩ちゃんの口を手で塞ぐ。


「世の中には知らんぷりしといた方がいいもんもある。…だからそれ以上言うな」


 柄にもなく声が荒々しくなってしまい、後輩ちゃんは目を大きく広げてからこくこくと何度か頭を縦に振る。


 だが、ここで釘を差しておかないと厄介ごとに巻き込まれかねない。俺は平穏に生きたいんだよ…できれば今の様な環境、関係性でな。

いかがだったですか?

これを書いてるとき、とある作品のキャラが一生頭に浮かんでいて大変でした

マネとかじゃないですよ、って言い張りたいですがそう感じられたら言い逃れできない気がしてならないので、言われる前に言い訳だけしておきます

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