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天使のパラノイア  作者: おきつね
第一章
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第一章 『生涯忘れられない日』 その①

 最近聞いた噂話に、あるサイトに『悩み事を投稿すると天使が現れる』というものがあった。


 普段なら聞く耳も持たず無視する内容のはずなのに、その時は一人の友人のことが気がかりでつい細かいことまで聞き、今まさにそのサイトへたどり着いた。


「”天使のお悩み投函所”―これで間違いない。…はずなんだけど胡散臭い。」


 そう呟きながらも現状を変えることができるのなら、と藁にも縋る思いでメニュータブから『投函する』を選択しざっくりとした内容を書き記していく。


「えーと一応名前は伏せといたほうがいいかな…ってなると、”始めましてこんにちわ。友人からこのサイトの噂をお聞きし、私が今抱えている悩みを解決してほしいという思いからお話します。つい先日、親を亡くした親友の様子が以前とは明らかに異質なものへと変貌しており、どうやら私以外の人とはまともに言葉を交わそうとはせず、無言で頷くだけか噛みつくように悪態をついています。このサイトの事を教えてくれた友人は、今回の様な話をどうやら知っているらしく『恐らく悪魔がついているんじゃないか』と憶測を立てていました。その後、別の友人からは実際に天使様に助けられたことがあるとお聞きしました。もし、本当に親友が悪魔に憑かれているのなら、どうか天使様のお力で親友をお助けしていただけないでしょうか。”こんな感じでいいのかな?」


 私が聞いた噂話には、このサイトに悩みを書き込むと見てくれた人から様々な助言をもらえる―というありきたりなものでなく、どこからともなく天使が自分の元に現れその悩みを解決してくれる、という何とも眉唾な噂話だった。


 だが―


「―火のない所に煙は立たぬっていうしね。だから…どうか、どうか咲を助けてください。」


 そう願いを口にしながら『投函』と書かれたボタンを押した。


 すると、閉め切っていたはずの部屋に風が流れ優しく私の髪を揺らす。


 視線を窓へと移すとそこには―


「この度は”お悩み投函所”にご投函いただきありがとうございます。検査の結果、あなたのお悩みは我々『天使』が責任をもって解決させていただきます。」


 ―見入ってしまうほどに綺麗な純白の翼を広げ、スカートの裾をつまみ軽く持ち上げながら頭を下げる少女―天使が立っていた。


「早速ですがより詳しい内容をお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 そういいながら淡く光を帯びた輪っかと共に頭を上げ優しく微笑んだ天使に対し、私は若干顔が熱くなるのを感じながら頭を縦に何度も振った。




 部屋の中央に置かれた小さな机を挟むように座った少女と天使。少女はつい今しがた淹れたお茶をすっと天使の前に置き「粗茶ですが…」と小さな声でいうと、天使はぺこりと頭を下げ綺麗な仕草でお茶を口に運び、一口飲んでから口を開いた。


「さてそれでは先ほど申した通り詳しいお話を聞かせてもらえますか?あなたの友人がどのようにしてそうなったのかを」


「えぇっあ、はい…まず事の始まりは友人―(さき)っていうんですけど、咲の両親が事故で無くなった次の日に、私が様子を見に咲の家に行った時です。事前に携帯のメールでやり取りをしていたのですが、チャイムを鳴らしても一向に出る様子がなく一、二回電話をかけました。ですが電話でさえ咲はでることがなかったので、やっぱり気が変わったのかなって思って帰ろうとした矢先でした」


 そこまで話して少女は両腕をさする様に手を動かした。


 顔はその時に感じたであろう何かを再起するように青ざめており「大丈夫ですか?」と天使が声をかけると少女は小さく頷いてから話を再開した。


「ガチャって音をがしてその方向へと目を向けると、咲の家の扉が少しだけ開かれていたんです。ですが、いくら待っても咲が出てこなかったので扉を開いて咲の名前を呼ぶと、二階から足音が聞こえてきたんです。ただそれが異様に軽い足音だったこともあって、気味が悪かったので家を出ようとした時でした。二階から咲の声が聞こえてきて『二階の自分の部屋にいるから来てほしい』って言ったんです。今でも鮮明に覚えています、咲は酷く掠れた声で私を呼んでいたんです」


「すみませんちょっといいですか?」


 少女の話をそこまで聞いてから天使はそう声をかけると「はい…どうしました?」と少女は小首を傾げる。


「そこまでで何か気付いたことはありますか?特に目が惹かれたところとか。」


 天使の質問に対し、改めてその時の状況を思い返えす少女は「そういえば…」と小さく呟いてから天使へと目線を戻した。


「家の中はかなり散乱していました…まるで何かを探す様に靴入れ棚はひっくり返されてましたし、一階の部屋の扉は全開にされて中にあったはずの家具とかが廊下に倒れていたのは印象が深かった気がします」


「…十二分に変なことが起こってるじゃないですか」


 少し呆れ気味にいった天使、その反応に対し少女はわたわたと手を動かし「違うんです!」と連呼するため、天使は若干しらっとした目線で言葉の続きを促すと、わざとらしく咳ばらいをしてから少女は続きを話始めた。


「もちろん、それが異常だっていうのは見た時に思いましたし少し怖くもなりました。…ただ、そういうものなのかなって考えちゃったんです。私には何て言うか…まだそういうことはないので」


 始めこそ恥ずかしさのあまり言葉を弾ませるように話していたが、言葉を紡ぐごとにその弾みは無くなくなり髪をいじくりながらに少女は言った。


 「そういうこと」と言葉は濁したが、親を亡くす、という事例は世界全土でみればそう珍しいものではないが、そうそうにあるものでもないのは確かだろう。


 だからこそ少女は言葉を濁した。


 もし仮に、自分がその立場になればどうするのだろう―と思考が過り、考えれば考えるほどわからなくなる。


 目にした光景に対し自己防衛が如く無意識下でそれに触れないことを選んだのかもしれない。


 一体誰がそれを攻められるのだろう―と思い直した天使は「すみません、配慮が足りていませんでした」と頭を下げ、その様子に少女は戸惑いながら言葉を返す。


「い、いやそれについて私が触れていなかったことのほうがおかしいですし、えーと、天使さんが謝る必要なんて…」


 そんな少女の反応に対し、天使は微笑みを返してから自身が名乗っていない事を思い出した。


「そういえばまだ名前を名乗っていませんでしたね。私の名前は『ミョルエル』、天界から定められた現界守衛隊の一人ということになっています」


 そう微笑みながら少し他人事かの様に告げた天使―ミョルエルは、何故か呆けている少女に対し「よければお名前をお伺いしてもいいですか?」と続けて問いかける。


「えっあ、はい、わ、私は『花垣(はながき) 有希(ゆき)』といいます。えーと、その特にそういった肩書はないです、すみません」


「い、いや別に謝ることでもないですよ、ただ語感がよくてついでに言っちゃっただけなので」


 そういって顔を合わせて笑ってからミョルエルは少女―有希へと「では話を戻しましょう」と告げ、先程の続きを促すと有希もそれに応えるよう姿勢を正してから語り始めた。




 二階にいる咲に呼ばれ、足場の少ない廊下を抜けて階段を上がった有希は何度か遊びにきたこともあってか、特に迷うこともなく咲の部屋の前へと行くと一度呼吸を整えてから意を決して扉を開いた。


 その先ではベッドにもたれかかる様にして咲が座っており、「こんな姿でごめんね有希、いらっしゃい」と弱々しく笑いかける。


 「大丈夫?」と声をかけることを憚られ、有希は憔悴している友人に対してかける言葉が見つからない自分の無力さを嘆くように、咲の身体を抱き寄せ強く抱きしめた。


 そのことに少し戸惑いを見せた咲だったが、程なくして有希の背中へと腕を回し泣きじゃくり始めた。


 それからしばらくその状態が続き、気が付くと泣きつかれたのか寝息を立て始めていた咲をベッドへと運んでから、黙って帰る訳にもいかず有希は咲の部屋の片づけを始める。


 片づけが終わった頃合いで、はっと目を覚ました咲は窓の外へと視線を移し来てくれたことへ感謝の言葉を送ってから今日はもう帰る様に促し、有希もそれに頷いてから部屋を後にしようと扉へと手をかけると咲は再度有希へと声をかける。


「有希、これ」


 そういってから有希へと家の鍵を手渡した咲は、いくらか晴れた表情を浮かべて言葉を続けた。


「今日は来てくれて本当にありがとう有希。それで、明日は学校に行こうって思ってるからその…」


 そう有希の顔色を伺うように上目づかいで視線を送る咲に一瞬答えあぐねた有希だったが、咲自身がそうしたいのなら―と自身の思考に納得させ顔を綻ばせる。


「わかった、じゃあまた明日の朝迎えに来るね。あと、何かあったらすぐ連絡すること、いい?」


 咲の頭を撫でながら問いかけた有希に対し、咲は少し顔を紅葉させてから小さく頷きを返す。


「うん、じゃあ今日はこのまま寝なよ。鍵はこれでかけとくからさ」


 先程受け取った咲の家の鍵をひらひらと振りながらニカっと笑った有希は、咲をベッドへと連れて行ってから「じゃあね」と短く言葉を交わし、咲の家を後にした。




 そこまで話してから、有希は少し怪訝そうな表情を浮かべるミョルエルへと遠慮がちに問いかけたが、それをミョルエルは首を振ってからその日の翌日、つまり今日の日中での出来事を話すように促すと、こくりと頷いてから有希は語り始めた。

投稿頻度についてですが、最新の投稿から遅くとも3日以内の投稿を予定しています。

ただ、やむを得ない事情で投稿できない場合はTwitterにてお知らします→@youkokaina

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