第三章 『再開』 その②
平日の夕方、いつもと変わらず駅前は人で賑わい、その中を目立つ金色の髪を靡かせながら辺りを注視するミョルエルは、すれ違う人々からの視線に興味がないのか、特に気にするそぶりもない様子で黙々を前を進んでいた。
本来、人には天使を視ることができず、契約を用いてようやっと姿を確認することができるのだが、今はあえて自身の姿を晒し注目を集めることで、悪魔達の行動の抑制、もしくはその逆をわざと起こさせようとしていた。
だが、流石に輪光や翼を出したままでは他の問題が起こり得る為、人以外に感知できる程度の力を残しながら人の姿で捜索をしており、視界に入る全ての人の様子を伺いながら人の波をするする抜けていくミョルエルだったが、後方から徐々に迫る悪魔の気配に気付き、すっと人の波を抜け人目のない裏路地へと足を踏み入れていく。
後方へと振り返ることなく、探知能力で付いてきている事を確認しながら開けた場所へと着いたミョルエルは、悪魔へと視線を向け天使の姿へと戻ってから迎撃姿勢へと移る。
そんなミョルエルの様子に舌打ちをしながら、悪魔は擬人を解き本来の姿へと戻ってからため息をつく。
「相も変わらず天使ってのはうぜって…そこまでして俺たちを狩りてぇのか?」
武器を手にする悪魔は、ただ黙って自身を見据えているミョルエルに腹を立てたのか、武器に十分な魔素を纏わせる。
「うぜぇうぜぇうぜぇよお前。今すぐ引き裂いて―」
殺してやる、そう発言し終える事もなくミョルエルの剣が悪魔の腕を切り落とし、それを遅れて理解した悪魔は痛みにのたうち回り、続けて襲い来る剣線を避けれることもなくもう片方の腕も切り落とされ、更に悲痛の叫び声を上げていた。
「うるさいですね…しかし、これほど早く潜伏している悪魔を見つけられるとは思っていませんでした」
そう余りにも無警戒に突っ込んできた悪魔にため息をつきながら、ミョルエルは剣先をその悪魔へと向ける。
「さて、あなたのような末端でも現界に上位魔神が何体も来ていることは知っていますよね?」
そう問いかけられるも答えを返そうとせず、ただミョルエルを睨み続ける悪魔だったが、そんな様子に臆することなくミョルエルは言葉を続ける。
「一体誰が来ていて、どんな能力を持っているのか…全てお話してもらいますよ」
そう言ってから『自白の魔術』を唱え始めるが、悪魔の視線が一瞬自身の背後に移った事に気付いたミョルエルは、すぐさま迎撃の魔術へ切り替え背後へと放つと、放たれた火球の魔術はその人影へと真っすぐに向かうが、人影はそれらが直撃するギリギリで全て躱してからミョルエルへと距離を詰め始める。
「それくらい織り込み済みです」
そういって笑みを浮かべたミョルエルは、火球の魔術の軌道を人影へと更に引き伸ばすと、大きく旋回した火球の魔術は速度を上げながら再度人影へと向かう。
空中へと身を出していた人影は再度迫りくる火球の魔術を躱しきれないと判断したのか、瞬時に同程度の威力を持った魔弾を正確に放ち、火球の魔術を相殺させた。
その際起こった爆発によって身体を地面へと叩きつけられそうになるが、寸での所で宙に浮いたまま停止した人影は「きゃはは!」と笑いながらゆっくりと地面へと足をつける。
「すごいすごい、次はこっちの番ね?」
そういいながら、顔を上げた人影―少女は無邪気に笑うと、少女の足元からは黒い水の様な物が沸き出始める。
やがて黒い水は水溜まりといえるほど広がり、一つ、また一つと漆黒の槍が姿を現しミョルエルに向け高速で襲いかかる。
それらを紙一重で避けたミョルエルだったが、漆黒の槍は突如軌道を変え地面に突っ伏していた悪魔を幾度となく貫いた。
「あはは、あなたはもう帰ってなさい。用済みよ」
貫かれた悪魔は叫び声を上げ、程なくして息絶えるように動きを止め魔素が蒸発していくと、そこには憑依されていた人が気を失いながら横たわっていた。
「…ずいぶんと乱暴な還し方ですね。まるで、恨みでもあるかのようですよ?」
「まあそれは否定しないわ。でもいいじゃないそんなこと…次、いくわよ?」
そういってミョルエルへ向け両手を突き出した少女の足元からは、再度漆黒の槍が出現しミョルエルへと襲い掛かる。
ミョルエルは最小限の動きで躱し続けるが、徐々に速さと精度を増していく漆黒の槍の対処に追われ、後手に回り続けるのを嫌ってか神器を顕現させ力を解放してから『天界術守衛ノ弐 戦乙女の盾』を無詠唱で出現させると、円型の盾が漆黒の槍を弾き四方へと飛ばす。
「ふーんいっちょ前に神器を授かってるの、なら加減は無用よね?」
少女のその発言に聞き覚えがあるミョルエルだったが、先程よりも遥かに性能が向上し数も増やした漆黒の槍が一斉に襲い掛かり始め、その思考を頭の隅に追いやりつつ距離を取る。
だが、距離を離しても尚襲い掛かってくる漆黒の槍を一つ、また一つと落としていくが、少女はくすくすと笑いながら新しく出現させては容赦なく放ち続ける。
「どうしたどうした?神器を以てしてその程度?なら―」
一度言葉を区切ってから、少女は更に漆黒の槍を出現させる。
「―先の戦いで生き残れないわよ?」
更に数を増した漆黒の槍に囲まれ、遂には捌ききれずに漆黒の槍が身体を掠め血を流し始めたミョルエルは再度神器の力を解放し、囲んでいた漆黒の槍を消失させる。
「どうやらあなたには色々と聞かねばならないことがあるようですね。まず手始めに、あなたのことをお聞かせ願えますか?」
「ふふっ不敬だぞ?とでもいえば粗方見当はつくかしら?」
そういって三度漆黒の槍を出現させた少女だったが、狙いを定めようとした先には既にミョルエルの姿はなく、辺りを見渡すが視界に入るのは影ばかりで姿を捉えることができずにいた。
「あはは!聞いてはいたけどこれほどまでとはね!だけど、早いだけなんてあんまり意味なくてよ!」
捉えきれないミョルエルを視線で追うのを止め、少女が足元へと両手をかざすと黒い水溜まりは更に広がり辺り一面を染め上げると、その全面から漆黒の槍が出現し一斉に放出される。
漆黒の槍でできた茨の森の中、ミョルエルを貫いた手応えを感じられず少女は辺りを警戒するが相変わらず姿を捉えられずにいた。
さてさて、どこにいったのか―そう見渡すため立ち上がろうとした少女は背後から極めて小さな殺意を感じ、瞬時に間合いを空け漆黒の槍でミョルエルの神器を受け止めるが、防ぎきれずに後方へと吹き飛ばされカハッと息を吐き出した。
「っつ!―いいじゃない…久しく血が滾る程に楽しいわ!一撃入れた褒美よ、今出せるだけの全力をだしてあげる」
漆黒の槍でできた茨の森が砕け散り、少女は少しふらついてから立ち上がり顔を上げると、その表情は怪しげな笑みを浮かべていた。
「だからあなたも全力できなさい、もし私を満足させたのなら何でも話してあげるわ」
「…その言葉、忘れないで下さいよ」
膨大な魔素を纏う少女に対し、神器を構え神雷を身に纏い『神雷纏装』を発動させたミョルエルは強気に笑ってみせた。
どれが一番最新(日々修正してる)なのかわからなくなったけど
多分これであってるはず
ていうか『その①』も旧バージョンだったので最新のものにすり替えました(11/12投稿した後すぐに)