第三章 『再開』 その①
目覚めてから数日が経ち、万全の状態に戻ったミョルエルは現界へと下り今まで通りの日々を過していると、再び天界から招集がかけられ再び天界へと赴くこととなった。
ミョルエルが席に着いたのを見計らってからルシフェルは号令をかけ、その場にいる全員が祈りを捧げ静寂に包まれる。
「では始めよう」
やがてゆっくりと瞼を開いたルシフェルがそう一言発してからガブリエルへと視線を向け、それに応えるようにガブリエルは一度頷きを返してから立ち上がった。
「ここ最近における前触れのない上位魔神の出現についてですが―穴には今までに見られない魔力で構成されていました。その構成を解析した結果、私たちのマナによる感知には引っかからないよう施されており、特定の魔素だけを通す仕様になっていました。そして、偶然発見した上位魔神を捕縛、尋問したところ上位魔神たちはそれらを利用し現界へ来ているようです」
その報告をあらかじめ聞いていた上位天使を除く、中位と下位の天使達と老勢の天使達は困惑の声を上げ、その声は徐々に熱を帯び場は騒々しくなり始める。
「続けます、その穴についての利点は今までの穴に比べ早くに作ることができるらしいのですが、先程申し上げた特定の魔素とはどうやらそれぞれの上位魔神固有のものらしく、自身の魔素で作り上げた専用の穴のようです」
「つまり、それらは既に通過した後にはただそこに在るだけということですかな?」
「それはそうとも言い切れません、ウリエル」
老勢の天使の一人が眉をしかめながらガブリエルへと問いかけると、ガブリエルはふるふると横に首を振ってからウリエルへと視線を向ける。
「…南極で遭遇した魔神ヴィネは、状況的に考えてその特異の穴から来たと思われるが、その部下である上位、中位、下位の悪魔達も南極の地に出現していた。それらが宿していた魔素からは魔神ヴィネが纏っていた魔素と酷似していた点から、分け与えた者も同様に通過できる代物らしい」
間を置いてから少し面倒くさそうに語ったウリエルだったが、すぐ真下にいるミョルエルの視線に気付き気まずそうな表情を浮かべた。
そんな様子に呆れたようにため息をついたガブリエルの心配とは余所に、いつもなら突っかかってくるはずの老勢の天使たちはそれどころではないのか情報だけが耳に入り、ウリエルのその姿は目に入っていない様子だった。
「話を続けよう―ひとまず特異の穴については我々のマナ感知でも引っかかるようにガブリエルが調整してくれる。目下の課題は野放しになっている上位魔神の対処であり、特にロンドンに現れた上位魔神は今後も派手な行動を起こすだろう」
「ルシフェル様、それは本当ですか?」
「あくまで可能性の話だ、現にこれまで確認されていた他の未登録の上位魔神は特に目立った行動を起こしていない。にも拘わらず、今回ロンドンに現れた上位魔神は特異な穴の形跡から、現界にきて間もなく派手な行動を起こしている。かなり活発な奴だということがわかる点から二度目の行動を起こす可能性は高いということだ」
「であれば、現界での警戒態勢レベルを上げなければならないな…いくつか天界の者を回すか?」
あわよくば合法的にミョルエルの元へと行こうと、そう提案したミカエルだったが「天界の守護をおろそかにするなどありえないことだ」と老勢の天使が揃い踏みに異を唱え、その勢いにミカエルは押し黙る。
「そもそも、上位魔神共が現界に来ている事自体何かの前触れと思えてならん!そんな中、天界の者が現界に降りているなど知られてみろ、今にここが攻め込まれるぞ!」
「確かにそれがないとは言い切れない。だが、現界を疎かにするのは論外―それこそ神々に対する冒涜だ」
「であればどうすれば…」
そう頭を抱える老勢の天使達に対し「仕方ない…だろうな」と切り出したラファエルは言葉を続ける。
「割り切るしかない…事態が収まるまでは非番の者や、少し心もとないが見習い達も駆り出すほかないだろう」
「それについては経験を積めるいい機会だと考えればいい。非番の者も緊急事態ということで納得するだろう。問題はどう振り分けるかだな…ウリエル達『四大熾天使』を始めとする熾天使達は天界の守衛として―」
「なんだと?」
「―天界守衛の五部隊を現界に回すとしよう。それぞれの大陸に一部隊づつ配置し、事が起こった場所に迅速に駆け付ける方針でいこう」
割り込んできたミカエルの言葉を無視しつつ話を進めるルシフェルは、現界に送る部隊の配置を即座に決めそれぞれの隊長に伝えていく。
「そしてミョルエル」
そう呼びかけられ話が始まってからずっと目を閉じていたミョルエルは、ゆっくりとルシフェルへと視線を合わせ「はい」と短い返事をする。
「事態が収まるまで全国全土どこへでも向かえるようにしておけ」
それまで騒然としていた場は一斉に静まり様々な視線がミョルエルへと注がれる。
心配をする者、期待を抱く者、それらとは逆に不審を抱く者や嫉妬する者―ミョルエルを良く思う者もいれば悪く思う者もいる。
だが、その視線の中でさえ―
「かしこましりました」
―ミョルエルはただ不敵な笑みを浮かべてたった一言そう告げた。
「じゃあミョルちゃんは今日から忙しくなるですか?」
「相手の出方次第ですね。逃げるのが上手い奴なら長期戦になるでしょうし、そうでないならすぐに済むと思います」
依姫が心配そうに声をかけながらお茶を入れ、それを受けとったミョルエルは事なし下にそう言ってお茶を呑む。
すると、ミョルエルの斜め向かいに座っていたメレルエルが「何言ってるのよ!」と抗議を始めた。
「そんな簡単な話なわけないでしょ?!あ、ありがとうございます―ふう…それにやられたのはあのルマエルさんや第六守衛の隊長と副隊長、それも一方的にやられてたっていうじゃない!どうする気よ?」
机を叩き声をあげたメレルエルは受け取ったお茶を一口すすり、一息ついてからミョルエルへと指を差すが、その手をアラドヴァルに抑えられしぶしぶ手を下ろす。
「どうするも何も連絡があるまでは動けませんからね。しばらくは今までと同じようにここらの守衛ですよ」
お代わりを依姫に頼み、再度受け取ったお茶をすすりお茶菓子を口に運ぶミョルエルを見ながら、「相変わらずだな…」と呆れたように呟いたメレルエルもまたお茶菓子をつまむ。
「そういえば最近悪魔達が活発になっていると部下たちが噂してたね。これもその魔神の影響なのかな?」
口元に指をあてアラドヴァルがそんな事を呟くと、依姫はうんうんと頷きながら「そうなんですよね~」と少し眉をひそめながらに口にする。
その時、不意にメレルエルとアラドヴァルが部下からの連絡を受け取ったのか頭に手を当て、程なくしてから立ち上がった。
「どうやら北の方に現れた悪魔に手を焼いているらしい、少し加勢にいってくる」
そう言い残してから二人は部屋を後にし部下たちの元へと向かうのを見送ってから、お茶を飲み干したミョルエルは依姫へと視線を向ける。
「うーんここら辺は大丈夫みたいです。少し探索範囲を広げましょうか?」
「できるのであればお願いしたいのですが…大丈夫なのですか?」
「事情が事情ですし、みなさんわかってくれると思います。それにみなさんミョルちゃんの事好きみたいですし、むしろ快く強力してくれるはずです」
天界では老勢の天使を含む、比較的多くの者から嫌われていると自覚していたミョルエルだったが、依姫を始めとする神々からは好かれていることを知り少し照れくさくなる。
そんなミョルエルのためにせかせかと準備を終わらせ、小さな鞄を渡した依姫は少し頬を膨らませながら小さく頭を下げる。
「では、いってらっしゃいませミョルエル様」
「はい、いってきます」
不貞腐れながら見送る依姫に、ミョルエルは照れ隠しに笑ってから部屋を後にした。
投稿日です
予約投稿を忘れていたのでちょっと遅めの時間になりましたが、まあ特に問題はないでしょう
てことでばぁーと第三章予約投稿していきますね




