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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
親切な村の章
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統率剣バンデーラ

「襲ってきた者たちは全員切り伏せた。スクアドラに寄生された者は、もうあなただけだ、村長」


 村の中央広場へ到着したダミアンは、月明かりに照らされ佇むエルネスト村長へとそう告げた。エルネスト村長の右腕からはスクアドラの刀身が生えている。


 宿泊所から広場まで、ダミアンの辿った道はスクアドラに寄生された村人たちで死屍累々。これまでに切り伏せた村人は合計三十八名。宴の席にいなかった者を含めても、恐らくこれで全員だろう。


「人形遊びは終わりだ。そろそろ出て来たらどうだ?」


 ダミアンは佇むエルネスト村長ではなく、集会場の影に隠れる人影へと告げた。殺意を感じ取ったのだろう。溜息交じりに女性が姿が現した。


「私が黒幕だってよく分かったね。普通は村長のエルネストを疑うものだと思うけど?」


 集会場の影から姿を現したのは、ニエブラの森で最初にダミアンと出会った村娘のカリーナだった。腰には、柄と鞘に豪奢な装飾が施された短剣を差している。


「普通に考えれば、村長主導で村ぐるみで客人を襲撃する、周到な強盗計画とするのが妥当だろうが、魔剣の知識を持つ私にはまるで違う光景に写った。村人の腕から生えていたのは人体に寄生し、宿主を兵士として操る軍勢剣スクアドラだった。それが村長の腕からも生えているということは、村長も寄生された犠牲者の一人に過ぎないということだ」


 スクアドラはそれぞれが単一の魔剣ではない。軍勢剣という名が示す通り、スクアドラは一つの軍勢なのだ。そして軍勢には必ず、それを管理する統率者が存在しているものだ。


「お前の持つその短剣は、統率剣バンデーラだな?」

「何だ、そこまで分かってるんだ。襲撃を退けたことといい。面倒な人を招き入れちゃったかな」


 苦笑顔で小首を傾げると、カリーナは腰に差していた短剣、統率剣バンデーラを握った。豪奢な装飾が施された鞘から抜かれた瞬間、統率剣バンデーラのおぞましい全貌が露わになる。無数の小さく細い触手のような管が、刀身全体に巻き付き、うごめいている。管の戦端は体内に侵入しやすいよう、鋭利な針のような形状となっていた。


 統率剣バンデーラ。本体に戦闘能力はないが、刀身に巻き付く触手の一つ一つが軍勢剣スクアドラの本体であり、それを人間に寄生させることで、意のままに動く兵士を生み出すことが出来る。スクアドラに寄生された人間は徐々に人間性を失っていき、寄生し体内で成長したスクアドラはやがて、肉体構造までも書き換えていき、腕そのものを剣へと変容させるにまで至る。


 戦闘を他者に依存する指揮官としての性能。本体に攻撃能力が備わっている場合が多い魔剣の中で、統率剣バンデーラの性能は一際異質といえる。

 スクアドラの定着には一定の時間を有するが、深いニエブラの森の中に位置する、ある種の閉鎖空間であったセルバ村を掌握するのは、そこまで難しくはなかったはずだ。


「ねえ。バンデーラとスクアドラの知識があったにしても、私が黒幕だったことには大して驚いてなかったみたいだけど、それはどうして?」


 純粋な興味でカリーナは尋ねた。ダミアンの驚異的な戦闘能力によって村は壊滅状態だ。今後新たな拠点を見つけなくてはいけないが、ダミアンの意見は今後の活動における参考になるとカリーナは考えていた。自分はこの局面を生き延びるに決まっていると、カリーナは信じて止まない。自分こそが最強だと信じ込む。魔剣の狂気に魅入られた者の典型だ。


「襲撃を受け、村にスクアドラが根付いていると知ったことで、直ぐに黒幕がお前だと直感したよ。村を訪れた時からずっと違和感を覚えていたんだ。快く迷い人を招き入れる村の風土にも関わらず、この村でお前と村長以外の人間と一度も言葉を交わしていない。スクアドラを寄生させた人間を操るバンデーラの能力は強力だが万能ではなく、同時に複数人に複雑な行動を課すことは出来ない。会話による対応など最たるものだ。だからお前は目の届く範囲で、村長にのみ会話による対応をさせていた。宴の席でギリギリまで裏方に徹していたのも、村長の操作に集中していた証拠だ」


 標的を殺せ、などの、シンプルな命令ならば複数人を同時に操ることも可能だが、会話に代表される複雑な行動には、統率者の側にも相応の集中力が求められる。自身も同席している場で他人との会話を両立させるのは、せいぜい一人か二人が限界だろう。複数の作業を同時にこなすのは難しいということだ。


「最初から疑ってたわけではないでしょうに、随分と目敏いんだね。おかげで良い勉強になったよ。反省を生かして次からは気を付ける」

「次か。お前に次があると本気で思っているのか? まだ名乗っていなかったが、私は魔剣士狩りだ」

「それって有名なの? よく分からないけど、狩られないようにしっかりと殺しておかないと」


 バンデーラの柄が怪しく発光した瞬間、それまで沈黙していたエルネスト村長が動き、ダミアン目掛けて真横から斬りかかった。回避は間に合わないと判断し、ダミアンは咄嗟に乱時雨の刀身でスクアドラの刀身を受け止めた。村長は利用価値が高いという判断だったのだろう。他の村人よりも念入りに寄生が施されているようで、これまでの相手よりも格段に動きが良い。


 圧力が拮抗し、両者、刀身を付き合わせての睨み合いとなる。ダミアンが力技でスクアドラの刀身を弾き上げようとした瞬間、エルネスト村長も仕掛けた。


「二本目か?」


 左腕の筋肉が変形し、肉と鉄が混ざった歪な剣を形成。二本目の刀身を生やしたエルネスト村長が二本の圧力でダミアンへ襲い掛かった。押し返しかけたダミアンの勢いが削がれ、再び両者の圧力が拮抗した。


「やっちゃえ、村長」


 すっかりと観客へと回ったカリーナが陽気な声を上げた瞬間、エルネスト村長の腹部の筋肉が不自然に盛り上がる。一本のスクアドラが内部からエルネスト村長の体を突き破り、勢いそのままにダミアンの腹部にも突き刺さった。



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