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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
死の迷宮の章
82/166

 迷宮の序盤は曲がり角が連続しながらも、分岐点のない一本道で進行はスムーズだった。ただ、連続する曲がり角と手持ちの明りだけが頼りの薄暗さから、方向感覚はすでに死んでいる。


「ここで分岐か」


 三十分ほど歩き続けると、ルートがT字に別れた場所へと出た。分岐点に遭遇するのはこれが初めてだ。深部への侵入を妨げるための迷宮だ。どちらへ進んでも問題のない親切設計ということはあるまい。


「秘書さん。事前情報だと確か最初の分岐は左だったよな?」

「そうだ。罠もすでに解除済みのようだな」


 ゼノンとティモンは手元を明かりで照らし、手帳に記された情報を確認していく。


 アニパルクシス遺跡探索ではこれまでに多くの犠牲者が出ているが、少ないながらも奇跡的に生還した者もいる。四年間積み上げられてきた生存者の証言をもとに、探検隊も事前にある程度の情報は用意していた。


「よし、行くか」

「うむ。順調順調」


 情報を頼りに先頭のゼノンが左の道へと踏み入った。確認済みのルートならば安全だと、グレゴリオスや護衛の傭兵達の表情に緊張感は薄い。


「我々以外に誰かがいるような気配などないし、遺跡の番人など本当にいるのか怪しい――」


 カチッと、軽い足取りで進んでいたグレゴリオスの右足が何かを踏み込んだ。次の瞬間、進行方向から風切り音が飛来する。


「不味いぞ! 全員伏せろ!」

「旦那様!」

「ひっ!」


 道のど真ん中を突き抜ける形で五本の鋭い矢が襲い掛かる。先頭のゼノンは叫ぶと同時に壁際に寄り、秘書のティモンが抱き倒す形でグレゴリオスの姿勢を低くさせた。異変を察した傭兵達も咄嗟に回避行動を取り、先頭集団全員が辛うじて矢を回避することに成功した。


「えっ? えっ?」


 先頭集団を抜けた矢は、勢いそのままに後続に襲い掛かる。戦い慣れした者たちと異なり、アルテミシアやロマノスは突然の出来事に対応出来ず硬直してしまっている。このままでは直撃だ。


退霧タイム


 咄嗟にアルテミシアの前へ躍り出たダミアンが、高速の乱切りで飛来した矢を切り落とした。圧巻の剣技を前に、実力を見抜いていたラケスを除く全員が唖然としていた。


「……ダミアンさん、ありがとうございます」

「礼には及ばん」


 その場にへたり込みながらも、アルテミシアはダミアンへの感謝の言葉を忘れなかった。一般人であることを考えれば十分に毅然きぜんとしている。


「大丈夫かい、アルテミシアちゃん」

「は、はい」


 ラケスに引き起こされアルテミシアは、足を震わせながらも何とか立ち上がった。


「先を越されちまったな。俺もアルテミシアちゃんの前で恰好つけたかったのに」

「単なる誤差だ。気にするな」


 ラケスもダミアンとほぼ同時に槍を抜いていた。半歩前にいたダミアンの動作が僅かに速かっただけで、ラケスの行動も十分に間に合っていたはずだ。


「それにしても、この迷宮は想像以上に厄介かもしれないな」


 目を細めて、ダミアンは叩き落とした矢の残骸を拾い上げた。矢は太い木材を削って作られたものだ。直撃すれば致命傷は免れない。


「どういう意味だ?」

「どんなに優れた構造物とはいえ、千年も前の罠に仕込まれた木製の矢が朽ちずに残されているはずがあるまい。そもそもこのルートは先人が開拓済みで罠も解除済みという話だっただろう。あんな分かりやすい場所の罠だけが野ざらしになっていたとは考えにくい」


「遺跡の番人とやらが木材を削り出し、一度解除された罠を再利用したってのか?」

「そう考えるのが妥当だろう。遺跡の番人とやら、話に聞く侵入者を暴力で排除するだけの怪物ではなさそうだ」


 ダミアンの分析に、その場にいる誰もが静まり聞き入っていた。罠が仕掛け直されているなら、事前情報を鵜呑みするのは危険だ。今後はより慎重な進行が求められることになる。


「き、君。隊長としての命令だ。ぜ、是非とも君もゼノンと共に先頭に立ってくれたまえ。お願いします」


 罠を踏んだ張本人であるグレゴリオスも、だんだんと事の深刻さを理解し始めたようだ。高圧的なのかへりくだっているのか、入り乱れた口調も動揺の表れだろう。


「良かろう。私としては先頭で奴と鉢合うのも望むところだからな」


 頷いた後、ダミアンは隣のラケスへと目配せした。


「アルテミスちゃん達は俺がしっかり護衛するから安心しろよ」

「道が分岐した以上、殿の危険度も上がる。油断するなよ」

「言われるまでもないさ」


 ラケスは自信満々に頷き、抜いた短槍を右肩に担いだ。


 ※※※


 幸いなことに先人の残した分岐についての情報は正確だったので、仕掛け直された罠さえ警戒していれば大きく進行を妨げられることはなかった。


 罠ありきとなったことで、より慎重となったゼノンが正確に罠を見抜き、進路上どうしても通過しなければいけない罠は、ダミアンがその剣技を以て力技で突破していった。


 無数の巨大なつぶてが飛来した際には届く前に、斬撃を飛ばす技「時遠弩ジエンド」で全て撃ち落とし。巨大な岩が傾斜を転がってきた際には「無礼躯ブレイク」で粉砕した。


 石の破片が当たり、額や手の甲に掠り傷を負っても、乱時雨みだれしぐれの回復能力によって一瞬にして完治。先頭かつ一度も振り向いていないので、傷が一瞬で再生したことには誰も気づいていない。


「あれだけ石や岩を破壊しておいて、ずいぶん頑丈な刀だな」

「長生きが自慢でね」


 本来、刀というのは強度に優れた武器ではないにも関わらず、ダミアンの乱時雨が刃こぼれ一つ起こしていない。共に先頭を行くゼノンは流石に疑問を抱いたようだが、魔剣に関する知識はないようで理屈には思い至らなかったようだ。


 ダミアンの乱時雨には刀身の修復能力もある。刃こぼれを起こしても刀身は直ぐに最大の切れ味を取り戻し、常に最良の状態で戦い続けることが出来る。荒っぽい使い方ではあるが、乱時雨の能力は迷宮の探索とも非常に相性が良かった。


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