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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
死の迷宮の章
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迷宮の入り口

 階段をしばらく下ると、探検隊は整地された広大な地下空間へと出た。


 地下空間にはいくつもの巨大な石の壁がそびえ立ち、それらが複雑に入り組むことで巨大な地下迷宮を形成している。壁の頂点はピッタリと天井に接地しており壁を上ることは不可能。壁の厚みも相当なもので破壊も困難だ。


 そもそも構造上、迷宮自体が地下空間を支える柱の役割を果たしている可能性が高く、壁の破壊は遺跡の崩壊を招きかねない。安全はもちろん、歴史的価値という点からも破壊という選択肢は考えられず、遺跡の深部へ到達するためには、正攻法で迷宮を進んでいく他なさそうだ。


 調査隊の目の前に迷宮への入り口が待ち受けている。道幅はそれなりに広く、大人数でも問題なく進めそうだ。暗くて先は見通せないが、奥へ進めば進むほど迷宮が複雑さを増していくことは想像に難くない。


「当時の技術でこれほどの地下迷宮を完成させるなんて」


 迷宮の壁に手を付きながらアルテミシアが感嘆した。作りを見るにこの王墓は天然の洞窟を利用したものではなく、人力で一から切り開かれたものだと考えられる。完成までには莫大な時間と人員を費やしたことは間違いない。


 何よりも驚愕すべきは、侵入者を阻むための複雑な迷宮を構成する巨大な壁を、そのまま広大な地下空間を保持するための支柱とした、緻密な計算と技術力だろう。それを千年も前に成し遂げていたのだから驚きだ。


「さあ諸君、我々の手でこの迷宮を攻略――」

「旦那様、あまり大きい声を出さないでください。遺跡の番人に気付かれます」

「う、うむ。そうだな」


 意気揚々としたグレゴリオスを秘書のティモンが制した。天井まで届く高い壁に遮られているのでそうそう遠くまで声は聞こえないだろうが、用心に越したことはない。いらぬ行為ならばなおの事だ。遭遇は想定内だが、何も起こらないのであればそれに越したことはない。


「迷宮は複雑な上に危険な罠も設置されている。安全確認をしつつ俺が先頭を進むが、後の奴らも決して油断せず慎重に行動するように。死んでも責任は持たんぞ」


 迷宮攻略にあたり、頭にバンダナを巻いたゼノンという名のトレジャーハンターが隊の先頭を行くこととなった。ゼノンはこれまでにも多くの遺跡に挑んできたプロフェッショナルで、罠の取り扱いにも長けている。迷宮攻略には欠かせない人材だ。


 遺跡の番人との遭遇に備え、ゼノンを援護出来るよう直ぐ後ろにはティモンと数名の傭兵が控え。やや距離を置いて大勢の護衛を連れたグレゴリオスが続く。


 本来なら学者ら非戦闘員にも十分な護衛をつけるべきだが、グレゴリオスに雇われた傭兵は雇い主以外に興味はないようで、ほとんどが彼の周辺についている。当のグレゴリオスもそのことに引け目を感じてはいないらしい。


 結果、ダミアンとラケスの二人が最後尾で、アルテミシアや、物資を詰めたリュックを背負うグレゴリオスの部下といった非戦闘員の護衛をしながら、殿しんがりまで務める形に自然となっていた。


「おっさんについてはもう今更だが、傭兵どもはもう少し臨機応変に出来ないものかね。雇い主の要望とはいえ、一人の周りをあんなに固めても仕方ないだろう」


 護衛の密集は精神的には心強いだろうが、度が過ぎればお互いの動きに干渉し、いざという時に身動きが取りにくくなる。迷宮のような閉鎖的な空間ではより顕著だ。滑稽の一言では済まされない懸念をラケスは抱いていた。


「所詮は金で集められただけの即席集団だ。期待するだけ無駄だろう」


 ダミアンの態度は冷ややかだ。

 未踏の地へ大人数で挑む以上、本来は連携を深めるための予行が必須だが、人材と道具さえ揃えれば全てが解決すると考えていたグレゴリオスは時間を惜しみ、予行の機会を怠った。


 探検隊の参加者が顔を合わせるのが昨日が初だったことからも計画の杜撰ずさんさが伺える。やはり所詮は金持ちの道楽。全てを思い付きで実行しているとしか思えない。全体の連携など期待できるはずもない。


「ならせめて、俺とあんたぐらいはしっかりと連携していこう。他の奴らの混乱の巻き添え食って、全滅なんざごめんだからな」

「異論はない」


 まだ出会って間もない間柄。お互いのことなど何も知らないが、互いに互いが信頼できる戦力であることは直感的に確信している。円滑にことを進めるためにも連携を取ることに異論はなかった。


「ロマノスさん。顔色が優れませんが大丈夫ですか?」

「……すみません。自ら志願したくせに、実際に遺跡に踏み込むと急に怖くなってしまってね。女性の前で情けない限りだよ」

「いえ、私はそんな風には」


 アルテミシアは隣を歩くカルタ村の住人、ロマノスのことを気遣っていた。

 元々ロマノスは遺跡の入り口まで探検隊を案内するだけの役目だったが、本人たっての希望で急遽、内部調査へも同行することとなった。なお、グレゴリオスは深く考えずに二つ返事でロマノスの同行を許可したため、申し出た時点での彼の真意は不明だ。


「おっさん、何で内部調査にも参加しようと思ったんだ? 俺らみたいな傭兵や研究目的のアルテミシアちゃんはともかく、命の危険が伴う今回の調査は、一般人のあんたには荷が重すぎると思うが」


 怯えた様子を見るに、ラケスは一攫千金を夢見る剛胆な人間とも思えない。案内だけで済ませておけばよいものを、どうして内部調査にまで首を突っ込んだのかラケスには疑問だった。


「む、村を代表して調査を見届けたいと思ったんですよ。遺跡が開放され本格的に研究が始まれば、拠点となるカルタ村には多くの人が流入し村も潤う」


「だったら、それこそ外で待機してた方がよかったんじゃないか? もちろん俺達だって死ぬつもりはないけど、調査が失敗する可能性だってあるんだ。スケジュールは決めているんだし、定時に誰も戻らなければ異変は直ぐ外に知れる。態々おっさんが危険を冒す必要はないだろう」


「わ、私なりの覚悟の表れですよ。皆さんはこれまでの調査隊とは何かが違う。あの怪物を倒し、遺跡を解放してくださると私は確信しております」


 ロマノスの言葉は歯切れが悪く、額には冷や汗が光っている。あまり嘘が得意なタイプではなさそうだ。素直なアルテミシアは大して気に留めていないようだが、明らかな動揺は、ロマノスが何かを隠していることをダミアンとラケスに確信させるには十分だった。



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