遺跡攻略
「到着しました。ここが遺跡への入り口です」
翌朝。グレゴリオス率いる探検隊は、カルタ村の住人である壮年の男性、ロマノスの案内を受け、村から近い丘陵地と到着した。
丘陵の境目に、不自然に周辺の土が彫り返された地点があり、そこには古い石造りの階段が待ち構えていた。これこそが長年秘密のベールに包まれていたアニパルクシス遺跡の入り口だ。かつては地表に入口が存在していたと考えられるが、長い年月をかけ土砂などが堆積、地下遺跡の入り口そのものが埋まってしまった。
遺跡の入り口は、長年アニパルクシス遺跡を探していたアリストデモス博士が、古い文献と現代の地図とを、時間をかけて照合しその位置を割り出したものだ。多くの人員を投入し周辺の土を掘り起こすことでようやく発見に至った。
長年の苦労が報われ、ようやく実地調査に乗り出した矢先、大剣使いの大男という未知の驚異に殺害され、悲願だった研究の機会を奪われてしまった。アリストデモス博士はさぞ無念だったことだろう。
「諸君、今日は歴史的な一日になることであろう。長きに渡り謎に包まれてきたアニパルクシス遺跡の全容が今明らかとなる」
昨日の振る舞いといい、グレゴリオスという男は自分に酔わずにはいられない性分のようだ。遺跡の探索を前に芝居がかった口調でそう述べた。
「恐れることはない。諸君、私に続けー!」
しかし、発言とは裏腹に先陣を切るのはグレゴリオスではなく、彼の秘書であるティモンという名のスキンヘッドの男性だった。普段は秘書として仕えているためか、ネクタイを締めたシャツの上から革鎧を身に着けている。目つきや佇まいは素人のそれではなく、武器も玄人向けの湾曲した短剣。それなりに戦い慣れした人物のようだ。秘書兼用心棒といったところだろうか。
結局のところ、グレゴリオスには本気で先頭を行く度胸はなかったらしい。自身は周辺に十人の護衛を伴い、ティモンから遅れて悠々と地下遺跡の階段を下りて行く。傍目には何とも情けなく映るが、どういうわけか本人は得意げだ。
「おめでたいおっさんだな。ある意味大物だ」
「違いないな」
大仰に肩を竦めるラケスにダミアンは無感動に同意した。
「……いよいよですね。緊張してきました」
「まあまあ、そう不安がらずに。俺たちがいれば大丈夫だって」
いざ探索開始を迎えるにあたり、アルテミシアは落ち着かない様子で何度も眼鏡をハンカチで拭き直している。これから多くの死者が出ている危険な場所へ向かうのだ。アルテミシアは怯えているのだろうと思い、ラケスは励ましの言葉をかけるが。
「この目で誰も知らない歴史の一端を見ることが出来る。興奮が止まりません」
思わぬ返答にラケスが分かりやすくズッコケた。
アルテミシアの中では死の恐怖よりも、学者としての探求心の方が圧倒的に勝っていたようだ。
「ダミアンさん、ラケスさん。早く私達も行きましょう」
アルテミシアはランタン片手に、堂々した足取りで階段へ一歩踏み出した。恐れることなく魔窟に踏み入る背中がとても大きく見える。
「こっちにも大物がいたな。おっさんと違って好感が持てるが」
「違いないな」
破顔したラケスに、ダミアンは頷きと共に同意した。
「それぞれしっかり役目を果たさないとな。アルテミシアちゃんは調査、俺は傭兵として隊の護衛、そしてあんたは魔剣士を狩ると」
「言われるまでもない」
アルテミシアを守れるように、追いついたラケスがアルテミシアの前を、ダミアンが後ろを固める形で、三人はアニパルクシス遺跡へと下りて行った。




