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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
美しき復讐者の章
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魔王城

 翌日、決戦の地である領主町クルーク。


 抜刀したダミアンとベニオを先頭に、レジスタンス数十名が、領主邸であるクヴァドラート城前の広場へ集結していた。町はすでに、騎士団の生き残りや傭兵経験のある武闘派のレジスタンス達によって解放が成された。魔剣士以外のヴィルシーナ構成員は、ならず者上がりの烏合の衆。ダミアンらの活躍により魔剣士の脅威が排除されつつある今、レジスタンスの戦力での攻略も十分可能であった。


 町での戦闘が激化する中、領主ドゥラーク卿と後妻のニムファ、そして最大の脅威であるヴィルシーナの首魁しゅかいヂェモンは、クヴァドラート城内に数名の部下と共に籠城している。


 領主町クルーク奪還を受け、少人数で籠城。攻略は間近と思われがちだが、事はそう単純ではない。ヂェモンの選択した籠城は追い詰められた末の消極的な決断などではなく、不届き者を確実に排除するための罠としての側面が強い。決しておごりではなく、多くの部下を失ったとしても、単騎で形成逆転するだけの戦闘能力をヂェモンは間違いなく有している。あえて籠城戦で反抗勢力の主力を返り討ちにし、志気を大きく削ぐつもりでいるのだろう。


「覚悟はいいな?」

「いつでも」


 魔剣士意外の人間が魔剣士に挑んでも無駄に命を散らせるだけだ。先ずはダミアンとベニオの二人だけで城内へ切り込み、ニフリートを中心としたレジスタンス部隊は、魔剣士撃破の合図を受けてから城内へ突入する作戦となっている。


 ダミアンの目的は魔剣士狩り、ベニオの目的は兄や仲間の復讐。目的さえ達成出来れば領内の政治的事情に関与するつもりはない。落城後の領主や「ヴィルシーナ」残党の処遇はレジスタンスに一任している。


「では、行こうか」


 レジスタンスが開門した巨大な木製の門を潜り、ダミアンへとベニオは魔王城へと踏み込んでいった。


「ヂェモン様の下へはいかせぬぞ」

「賊の襲撃など、あの方のお手をわずらわせる程の問題ではありません」


 クヴァドラート城のエントランスホールでは、二人の魔剣士が待ち構えていた。


 一人はスキンヘッドと両腕に刻まれたタトゥーが印象的な長身の男。右手の魔剣は、肉厚で幅広な両刃剣、グラディウスの形状をしている。


 もう一人は一回り小柄な赤毛の男。左手に握る魔剣は片刃がくし状になった短剣だ。相手の武器を破壊することに特化した、ソードブレイカーの形状によく似ている。

 

「知っている顔か?」

「いいえ。四年前の襲撃には参加していないはずです。恐らくは新参でしょう」


 ベニオの読み通り、二人は直近一年以内に加入した新顔の魔剣士だ。普段は領主町クルークを拠点に活動しており、籠城に伴い、迎撃のためエントランスへと配置されていた。


「新参だからと見縊みくびるなよ。首都配置の俺達は言うなればヂェモン様の近衛騎士。お前たちがほふって来た魔剣士とは格が――」

奪首ダッシュ


 口上を垂れている間に一瞬で距離を詰めたダミアンの「奪首」を受け、スキンヘッドの魔剣士の首が飛んだ。自慢の魔剣を振るう機会すら与えられぬまま、勝敗は一瞬で決してしまった。


「なるほど、戦力として期待されていないから首都に配置されていたというところか」


 自信過剰かつあまりにも隙だらけ。実力に関しては、先日ダミアンがファブリカの町で撃破した、魔剣士ストラジャと同程度だろう。


 リドニーク領でこれまで対峙した魔剣士の中で、ヂェモンが戦力として数えていたのは恐らく、古参でもあるスカラとピエロだけ。だからこそ、小規模ながらも領の玄関口であるロシャと、工業都市で人口が多いファブリカという重要拠点の支配者に選出したのだろう。


 盛大に己惚うぬぼれていたようだが、自称近衛騎士の二人が首都配置となったのは実力を評価されたからではない。重要拠点を任せる器ではないから、最強の魔剣士であるヂェモンが君臨し、戦力が充実している首都に、数合わせ的に配置されていたに過ぎない。何とも哀れな自信家たちである。当人たちの自尊心とは裏腹に、扱い的には一般兵よりも少しマシな程度であろう。


「そんな……一瞬で」

「すでに二対一だというのに、ダミアン様だけに意識が向いている時点で底が知れますね」

「がっ――」


 片割れの即死に驚愕した赤毛の魔剣士は、ダミアンを注視するあまりベニオに対する警戒を完全におこたっていた。


 背後からベニオが赤毛の魔剣士をよい速贄はやにえで刺突。刀身が背面から腹部へと貫通した。次の瞬間、腹部の傷とは別に全身数十カ所から唐突に出血。大量出血により魔剣士は一瞬で絶命した。


「雑魚とはいえ魔剣士二人を一瞬で。なかなかやるじゃない」

「……あの女は」


 魔剣士撃破と前後して、嬌声きょうせいと小刻み良い拍手がエントランス内へと響き渡った。廊下の奥から歩いてきた長身の女のシルエットを、ベニオは殺意を宿した眼光で睨み付ける。


「お久しぶりね。剣士の村のお嬢ちゃん」


 現れたのは、プラチナブロンドのショートボブと、形の良い艶やかな唇が印象的な妖婦ようふ。胸元を大胆に露出した短丈のノースリーブのブラウスに、ブーツインした黒いスキニーパンツを合わせている。色香漂うくびれた腰周りにはベルトを巻き付け、白い鞘へ収まったレイピアを帯剣している。

 

「あの女が例の?」

「……はい。ヴィルシーナの副官を務める妖婦、ニムファです」


 組織の最古参にして、首魁しゅかいのヂェモンが最も信頼を寄せる魔剣士ニムファ。ヂェモンと並び、リドニーク領動乱の元凶とでもいうべき存在である。


 騎士団のクーデターによる混乱を利用し、リドニーク領を掌握する計画をヂェモンへ進言したのはニムファである。自身の計画を円滑に進めるため、女の武器を駆使し領主ドゥラーク卿を篭絡ろうらく、ヴィルシーナがリドニーク領を掌握するための道筋をつけた。


 クーデター鎮圧後、ドゥラーク卿はニムファを後妻として迎え入れ、その後はニムファに言われるがまま、良識派の臣下を一人残らず処刑していった。これにより、ヂェモンとニムファの支配の下に領主を操る傀儡かいらい政権が誕生。リドニーク領は、圧政と暴力に支配された恐怖の時代へと突入した。


 ニムファはヴィルシーナの副官として四年前のベニオの故郷の村の襲撃にも参加している。敗走したベニオを狙う、追撃部隊の指揮官としてベニオとは数度対峙した。多くのベニオの同胞を惨殺したニムファは、兄を殺したヂェモン共々、ベニオにとって最も因縁深い仇の一人だ。


「ヂェモン様なら玉座の間にてお待ちよ。スカラを仕留めた剣士に興味津々でいらっしゃる」


「ヂェモンとの戦いを前に余計な消耗は避けるべきです。あの女の相手は手前てまえがいたします。ダミアン様はヂェモンの下へ向かってください」


 例え自らの手で討ち取ることは叶わなくとも、ダミアンの手でヂェモンの凶行に終止符が打たれるならそれで構わないと、自分なりに心に整理をつけた。その上で復讐を果たすために今の自分に何が出来るのか、ベニオの出した答えは、ダミアンが忌憚きたんなくヂェモンとの戦いに臨めるように送り出してやることであった。ニムファ程度を倒すのに、ダミアンの手をわずらわせない。ニムファはここでベニオが全力で討ち取る。


「私は別に構わないわよ。スカラを倒した相手に、真っ向勝負で勝てる気はしないしね」


 ヂェモンから絶大な信頼を寄せられ、副官の地位にいてはいるが、ニムファの魔剣士としての戦闘能力はクロウンに勝るもスカラには劣るといったところ。元よりダミアンだけはヂェモンの下へ通すつもりであった。


「相手もああは言っているが、私は別にここで一戦交えてから進んでも構わないぞ?」

「これが手前なりの決断です。手前に構わず進んでください」

「ならば、覚悟に水を注すのは野暮というものだな。後で追いついて来い」

「御意に。必ずやあなた様の下へ」


 ベニオは剣士の眼差しで力強く頷く。覚悟を受け止めたダミアンはベニオの肩に手を置いてから、エントランス奥の廊下へと歩みを進めていく。


「あなたとあの子、どちらが死ぬのが先かしらね」

「その言葉、そっくりそのまま返してやろう。あれは強いぞ」


 すれ違い様、ダミアンとニムファの皮肉気な笑みが交錯こうさくした。


「さて、四年前は逃げ回ることしか出来なかったお嬢ちゃんがどれだけ成長したのか、とくと拝見させて頂こうかしら」


「身をもって体感させてやろう。これは手前だけの復讐ではない。一族と仲間の無念、今日この場で晴らす!」


 エントランスの中心でベニオのよい速贄はやにえとニムファのレイピア型の魔剣が接触。女性魔剣士同士の死闘の幕が開いた。



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