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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
美しき復讐者の章
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若い女性の少ない町

 二日かけ、ダミアンはニフリートの案内で、魔剣士スカラの支配下にあるファブリカの町を訪れていた。リドニーク領一の人口を誇る工業都市とあって人の出入りは頻繁。そういった事情から、形だけの簡素な手続きを踏むだけで、怪しまれることなく市中へ立ち入ることが出来た。


「ロシャとは異なり、表向きは平穏そうだな」


 道行く住民や労働者達の表情こそ陰鬱いんうつとしているが、先日のロシャの町とは異なり、白昼堂々と処刑染みた真似や、配下たちによる蛮行ばんこうが行われている様子は見受けられない。


「表向きだけですがね。ファブリカは領の経済の生命線ですから、悪戯に労働者を殺害するような真似こそしませんが、現状は御覧の通りです」


「なるほど、事前情報の通り若い女性の姿が極端に少ない」


 工業地帯だけあり、元より男性労働者の多い地域ではあるが、町に入ってから一度も若い女性の姿を見かけないというのは流石に異常だろう。この土地の支配者たる魔剣士の狂気が招いた事態であった。


 スカラは好色家なうえ、用済みとなった女性をなぶり殺すことにも快感を見出す異常者だ。尽きることのない肉欲に身を任せ、来る日も来る日も町から若い娘を収奪、家族や恋人を守ろうと反抗した者は、容赦なくその場で処刑されてしまう。


 さらわれた娘は誰一人として屋敷からは戻ってこない。時々、下水道に若い娘の遺体が流れ着くことがあるが、遺体は損傷が激しく、中でも顔は完全に潰されているという。


「本人たっての希望とはいえ、ベニオさんは大丈夫でしょうか?」

「真っ向勝負となれば、相性は悪いだろうな」


 スカラが好色家であることを利用し、自身が懐に潜り込むとベニオは率先して名乗りを上げた。ベニオの美貌は確実に好色家の目を引くはずだ。普段着のアオザイは目立つので、町娘と遜色そんしょくない衣装に着替え、現在は別行動を取っている。


 ベニオの主目的あくまでも偵察。身の程を弁え、スカラとの戦闘はダミアンに任せると語っていたが、四年前に故郷の村を襲撃した仇の一人であるスカラを前に冷静さを保てる保証はない。勇み足となれば返り討ちに遭う可能性もある。ダミアンとて迅速に合流するつもりではいるが、魔剣士狩りとして看過出来ない問題が発生しており、現在はその対応に追われている。


「新顔の魔剣士とやらを迅速に仕留めて、私も彼女に合流することにするさ」


 先日まではベニオも把握していなかった情報だが、レジスタンスからの情報提供で、スカラの配下に新たな魔剣士らしき存在が確認されたとのこと。名をストラジャといい、二か月前にヴィルシーナ行った遠征で見出し、スカラが配下に加えた新顔とのことだ。


 戦闘能力、危険度共に、古参かつ組織の三番手であるスカラの方が遥かに上だが、女遊びに興じ、日頃から屋敷に滞在している時間の多いスカラよりも、不穏分子の動きに目を光らせ、絶えず町中を警邏けいらしているストラジャの方が排除の優先順位は上だ。普段から町に出ているなら接触も容易だろう。ダミアンは先にストラジャを始末してからスカラの屋敷へと向かう判断を下した。


「いましたよ。先頭を行くあの若い男です」

「なるほど、修羅場を潜り抜けた顔つきには見えぬが、無駄に自信だけは溢れている」


 町のメインストリートを闊歩かっぽする、部下を率いる若い黒髪の男。


 装備は革鎧に金属製の籠手と比較的軽装。帯剣する得物は狭所の戦闘でも取り回しの利くショートソードのようだ。上司から表情が見えぬのを良いことに、背後の部下達は露骨に不満気な表情を浮かべている。新参だからか人間性に問題があるのか。部下との関係は良好とは言えぬようだ。


「あの男の評判は?」


「他の例に漏れず、領民にとっては最悪なものですよ。立場を利用し罪状をでっち上げ、罪なき人々を気まぐれに切り伏せるような男です。先日も悪人面だと難癖をつけて、善良な露天商の首をねた」


「なるほど、分かりやすく狂っているようだ。ならば、仕掛ける手間も省けるというものだな」


「どういう意味ですか?」


「武器を手にした不穏分子が現れれば、意気揚々と殺しにかかるだろうさ。身の程も弁えずにな」


 含み笑いを残すと、ダミアンは重荷になるコートを脱ぎ捨て、単騎でメインストリートへ飛び込んで行った。



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