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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
美しき復讐者の章
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道化

「乱入者を許すとは部下達は何を……おやおや」


 辺りを見渡したピエロが嘆息を漏らす。広場内にいた部下十数名が一人残らず切り伏せられている。全てが一瞬の出来事だった。


「人の娯楽を邪魔建てとはやってくれますね。一体何者ですか?」

「魔剣士狩り」


「これは驚いた。噂に名高い魔剣士狩りがこのような辺境にまで。我々も流石にはしゃぎ過ぎましたかね」


 著名人との遭遇を喜び、ピエロは数回手を打ち鳴らす。多数の魔剣士が所属する組織だけあり、魔剣士狩りの存在はしっかりと把握している。魔剣士狩りが介入したというのなら、部下達が一瞬で壊滅したことも頷けるというものだ。


「いつか魔剣士狩りと逢着ほうちゃくする機会があるだろうとリーダーも言っていたよ。それが今日になるとは……最高だ!」


 殺戮に狂った魔剣士集団にとって、天敵ともいえる魔剣士狩りとの遭遇はまさに僥倖ぎょうこう。強者を殺すことに勝る快感などそうそう存在しない。


 ピエロが意気揚々と吠えた瞬間、ダミアンが左手で握り込んでいた投げナイフが、意志を持ったかのように震動を始めた。


「むっ?」


 異変を感じたダミアンが咄嗟に投げナイフを手放した瞬間、投げナイフがその場で空中回転。ダミアンの左手を大きく切り裂いた。ダミアンの返り血を帯びた投げナイフは空中を浮遊し、素早くピエロの手元へと舞い戻る。


「魔剣士の意志に反応し、投擲後も自在に動き回る投げナイフか。事前の情報通りだな」


 かつての大戦時、投げナイフ特有の射程と、遠隔操作で自在に標的を切り刻むトリッキーな動きで、戦場に大混乱を巻き起こしたと伝わる投げナイフ形の魔剣プレジール。四年前の襲撃時のベニオの目撃証言と、ダミアンが元々有していた魔剣の知識とがしっかりと合致していた。


「事前情報を得た上で僕のプレジールを手に取ったのかい?」


「遠隔操作とやらの威力を確かめてみただけだ。それなりの圧で握っていたはずだが易々と逃げられてしまったな。想像以上だ」


「驚いた。指が飛んだらどうするつもりだったんだい?」

「その時はその時だ。右手一本でも貴様の相手くらいは出来る」

「……安く見られたものだね。僕はヴィルシーナの幹部だよ?」

「頭でない時点で格が知れる。私が警戒するのはヂェモン一人だけだ」

「……その減らず口、直ぐに聞けなくしてやるよ」


 力に溺れた魔剣士は自尊心が強く挑発にも乗りやすい。


 道化師ともあろうものが白塗りに憤怒の形相を露わにし、体に巻いた帯剣ベルトから追加で三本の投げナイフを抜いた。


「もしや、全て魔剣か?」

「ご名答! 僕を侮ったことを後悔させてやる」


 ダミアンの左手を裂いた一本を合わせ、計四本のプレジールがダミアン目掛けて飛来。二本は真正面から、残る二本は不自然な軌道で真横からそれぞれ迫った。


退霧羅印タイムライン


 ダミアンは地にしっかりと足をつけ、高速で乱時雨みだれしぐれを振るい、四本のプレジールを叩き落とした。移動を捨てその場で相手の攻撃を防ぎきる「退霧羅印」の守りは鉄壁だ。


「まだまだ」


 弾き落とされたプレジールを遠隔操作で即座に回収。ピエロは再度四本を投げ放った。

 ダミアンは再び「退霧羅印」で前後から迫った二本のナイフを弾き返すも、残る二本がダミアンを襲来する気配がない。


 ピエロが不敵な笑み浮かべた瞬間、ナイフが風を切る音が、ダミアンとは異なる方向目掛けて飛来していく。


「嫌っ……」


 二本のプレジールは一本ずつ、柱に縛り付けられた双子の少女目掛けて襲い掛かる。


 ダミアン自身は刃を握り止めたことを、遠隔操作の威力を確かめるためと語っていたが、問答無用でピエロを不意打ちする選択だってあったはずだ。あの瞬間の行動は間違いなく少女の命を救うための判断。そこには確かな人の情が存在している。狡猾こうかつなピエロはその点を見逃していなかった。


「ちっ!」


 俊足でプレジールの軌道に回り込んだダミアンが右手の乱時雨で一本弾き落とし、もう一本は負傷済みの左手を差し出し少女の盾とした。刀身は根本までダミアンの掌を貫通、その場に踏みとどまるも、勢いで肩から仰け反ってしまう。


「面倒な奴だ」


 掌を裂かれる前にダミアンは自らプレジールを引き抜き、全力で投擲しピエロへと返却。ピエロの額目掛けて飛来した刀身は接触する寸前でピタリと静止し、遠隔操作で優雅に手中へと舞い戻った。


「……死にたくない」

「……助けてよ」


 投げ返した直後、ダミアンと双子の姉妹の視線が交錯する。


 生存の可能性が繋がった直後に再び死の恐怖が眼前へと迫る。幼い姉妹の精神状態は限界に近づいていた。今はただ、唯一の希望である洋装の剣客けんかくへと、生きたいという意志を伝えることしか出来ない。


「ならば、顛末てんまつはしっかとり自分の目で見届けろ」


 己の生死の懸かった状況から目を逸らしてはいけない。自分達がどのようにして生き残ったのか、祈るばかりではなく、現実をしっかりと記憶するべきだ。願いを口にする少女だからと安易に「絶対に自分が助ける」等と、安心させる言葉をかけはしない。


「少女を庇って負傷とは、噂の魔剣士狩りとやらも随分と甘ちゃんじゃないか」

「弱者を標的にしてようやく私に攻撃を当てた奴が何を言う」


 両側面から回転しながら迫った二本のプレジールを、ダミアンは振り抜きざまに荒々しく叩き落とした。ピエロは、懲りずにまた二本のプレジールを少女たち目掛けて抜き放ったが、


退霧彪辺留タイムトラベル


退霧タイム」の派生形、これまでの乱切りと異なり、最小限の動きで的確に相手の技をいなす「退霧彪辺留」を発動。的確な二振りで、少女たち目掛けて飛来したプレジールを強烈に弾き返した。


「なっ!」


 ダミアンが強烈に弾き返した刀身を上手く操作しきれず、ピエロは咄嗟に回避を選択するが、一本は左頬付近を掠め、もう一本が左肩を裂いた。


 投擲と遠隔操作で常に安全圏から攻撃してきた都合上、負傷を伴ったのは久しぶりだったのだろう。負傷の動揺は、魔剣士同士の殺し合いにとって致命的な隙を生じさせた。


「くそっ! 奴を止めろプレジール!」


 刺突の構えを取ったダミアンが猛烈な勢いでピエロへと迫る。ダミアンを止めようと手元のプレジールを二本を投擲。眉間を狙った一本をダミアンは首の動きだけで回避し、もう一本は左肩で受け止めた。突き刺さった刀身が遠隔操作で肩を裂いたが、ダミアンは痛みにもまるで怯まない。叩き落とされた二本のプレジールもダミアンを止めるべく、風を切って背後から迫るも、ダミアンの攻撃速度の方が僅差で早い。


無礼躯ブレイク!」

「嘘だっ――」


 強烈な刺突技「無礼躯」がピエロの胸部へと直撃。貫通するだけに留まらず、衝撃で胸部に、向こう側が覗けるだけの風穴が空く。


「道化師がそんな表情をするものじゃない」


 刀身を引き抜くと同時にダミアンはピエロの体を蹴り飛ばした。


 狂気の道化師は死の瞬間、恐怖でメイクを崩し、仰向けで血の海へと沈み込んで行った。


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