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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
霧の町の殺人者の章
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情報提供

「……そこのお兄さん。少しよろしいかな?」


 気配には早い段階で気づいていた。血痕へ向けていた視線を上げると、チューリップハットを深々と被った青年と目が合う。


「私に何か?」

「その前に一つ確認させておくれ、お兄さんは新人の保安官かい?」


「違うと思ったからこそ声をかけてきたのだろう? 一応質問には答えておこう。私はただの旅の剣士だ。要件が済めばこの町に用はない」


「それを聞いて一安心だよ。叩けばほこりしか出ない身でね。保安官とはあまり関わり合いになりたくない」


「私も一応は捜査に協力している身だが?」


「お兄さんは取引が通じる相手だと思ってね。手前勝手なお願いだが、今から僕が提供する情報は保安官事務所とは共有せず、お兄さんの胸の内に留めて頂きたい」


「お前たちにメリットはあるのか?」


「保安官とは関わり合いになりたくないが、事件の解決は僕たちも望むところでね。こちらに余計な疑いがかかるのは好ましくないし、何よりも警戒態勢が敷かれたままでは居心地が悪い。保安官と関わらずに事件を解決するためには、お兄さんに情報を流すのが一番ではと考えたのさ」


「いいだろう。話を聞かせてもらおうか」

「話が早くて助かるよ。現在この町で問題になっている麻薬については知っているかい?」

「詳細までは把握していないが」


 ダミアンが把握しているのは今朝、麻薬絡みの事件で保安官事務所の人員が出払っていたということのみ。連続殺人事件の捜査資料に麻薬に関する情報が載っていなかった以上、保安官事務所では二つの事柄を結び付けてはいない。


「ネーベル周辺では、他の地域には見られない珍しい高山植物が何種類か自生していね。中には強い興奮作用などをもたらす、麻薬の原料となる物もある。もうお気づきかもしれないが、僕らの生業は麻薬の精製と売買だ。遠方から訪れるリピーターも多くてね。日陰者ながらそれなりに儲けさせてもらっている」


「商売自慢なら他所でやってくれ」


「重要なのはここからさ。数カ月前、ある植物同士の組み合わせによる、新たな麻薬の精製方が確立されてね。これがまたとんでもない代物で、興奮作用に加えて脳がかける肉体のリミッターを解除、一時的に身体能力を向上させる作用が見つかった。興奮作用で恐怖心や迷いを抑制し、向上した身体能力で驚異的な戦闘力を発揮する。さながら現代に蘇りし凶戦士の如くね。製作者はその麻薬にバーサクと名付けた」


「ほう、興味深いな」


 一連の事件の疑問の答えが得られそうな気がした。


 相手の動きを封じて一度試し切りをしたとはいえ、人間を脳天から一刀両断するなど並の使い手ではまず不可能だ。かといって、相応の使い手の犯行だとすればとっくに捜査線上に浮かんできているはず。


 だが、意図的に身体能力を向上させ、迷いを取り除く手段があるというのなら話は根本的に変わって来る。


「断っておくが、僕はバーサクの製造や販売には関与していないよ。興奮作用や依存性だけならばまだしも、身体能力の向上まで加わったら収集がつかなくなる。今回の殺人鬼が良い例さ」


「今回の事件と関連付ける根拠は?」


「目先の利益に目がくらみ、バーサクの売買に踏み切った連中がいてね。僕の調べによると、連中がある顧客にお試しと称して格安でバーサクを提供した翌日に、この廃墟で椅子ごとお嬢さんが真っ二つにされる事件が発生している。路地裏の殺人と牧場で夫婦が殺害された事件も同様。同じ顧客が事件前に連中からバーサクを仕入れていたようだ」


「三件目以降については?」


「顧客と連中は接触していない。バーサクを取り扱っていた連中は、牧場の事件から程なくして全員が消息不明になった」


「口封じも兼ねて大量の薬を奪ったか」


「僕はそう見ている。前述した収集がつかなくなるとは、そういった意味も含んでいる。バーサクを服用して身体能力が向上した顧客を相手にするのがどんなに危険か。目先の利益に目が眩み、連中はその辺りを軽んじていた」


「連中が消息不明となったなら、その情報は何処から?」


「連中のアジトに出入りしていた、別の組織の末端のチンピラだよ。連中の一人が状況に危機感を抱いていたようでね。秘密を共有する相手を増やしたかったのか、自分達の身に何かあった場合に備えていたのか。外部の人間に事情を打ち明けていたのさ。悪い予感は的中し、連中が消息不明になった。話を聞いたチンピラもさぞ驚いたことだろう。そうして最終的に、僕の下まで情報が転がり込んできたというわけさ」


「犯人の情報については?」


「麻薬の売買には偽名を使うことが暗黙の了解だし、顧客は常に麻袋を被って素顔を隠していたそうだ。あるいは当事者なら癖や背格好など正体に繋がる情報を持っていたかもしれないが……」


「だからこそ消された、とも言えるわけだ」

「そういうこと。生憎と顧客の正体は不明のままだ」


「麻薬絡みの背景を知れただけで十分だ。一連の事件の犯人については私なりにすでに見当をつけている。その先に居る者もな」


「まるで、黒幕でもいるかのような物言いだね」

「それこそが私の本命でね。そろそろ失礼する」

「もう行ってしまうのかい?」


 まだもの言いたげな男に踵を返し、ダミアンは廃倉庫を後にした。


 収穫は予想以上のものだった。ダミアンの推理が正しければ、そう遠からず全てに決着がつくはずだ。


 〇〇〇


「失礼する」

「何だ、お前さんか」


 よいの口、ダミアンは保安官事務所を訪れた。相変わらず忙しくなく人員が出動しているようで、詰めているのはアッシュ一人だけだった。


「例の事件について、調べてもらいたいことがある」

「確信を得たって顔をしているな」

「私なりにはな」

「そいつは朗報だ。それで、俺を何を調べればいい?」

「ある男女の所在について。緊急だ」



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