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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
泉の守護者の章
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風斬剣メガロプテラ

「神聖視する泉に集落の者は不用意に近づきません。マイラは例外ですが、僕にあそこまで言われた以上、今日は集落で大人しくしていることでしょう。心置きなくお話し出来ますよ」


 言葉に嘘はなく、命の泉の周辺にはダミアンとアレックス以外の気配は存在しない。野犬や野鳥といった野生動物すらも寄り付かぬ静謐せいひつぶりだ。


「お前が持つそれは魔剣だな?」

「素直に認めますよ。確かにこの長剣は魔剣です。銘をメガロプテラという」


「風を操り、離れた位置にいる相手をも自在に切り刻む。かつての大戦時にも猛威を振るった風斬ふうざんけんだな」


「驚いた、随分と博識ですね。僕自身が実戦で体得していったこの魔剣の特性を知識として語るとは」


「魔剣士を追うにあたって、魔剣の情報については可能な限り調べ上げている」


「あなたはいったい、どういった目的で僕に接触を? 復讐、ではないですね。少なくとも僕はあなた個人に恨みを買った覚えなどない。もしや、魔剣の強大な力に魅せられたコレクターか何かですか? それなら魔剣の知識に明るいことも納得だ」


「どちらでもないが、私はお前を殺すし、最終的にはお前から奪った魔剣をこの手で破壊するつもりだ。魔剣士を狩ることが私の本懐だからな」


「なるほど、魔剣士狩りの噂は耳にしていましたが、それがあなたというわけですか。しかしそれでも分からない。どうして魔剣を所有しているからといって、あなたに命を狙われなければいけない?」


「魔剣の力に魅入られた者は例外なく狂気を宿し、殺戮さつりくに狂う。そんな存在を野放しにはしておけない」


「だとすれば他所を当たるべきだ。僕はどこも狂っていない。これまではもちろん、ここへ来てからもそうだ。僕は集落の人達が神聖視する泉を、悪党の手から守るために戦っているんですよ?」


 アレックスは決して声は荒げず諭すように言葉を紡いでいく。傍から見ればダミアンの主張こそが支離滅裂。アレックスの側にこそ正当性があるように映ることだろう。


「お前、魔剣を手にしてどれくらいになる?」

「間もなく三年といったところでしょうか。それが何か?」

「三年もあれば、無自覚ということもあるまい。尚更性質が悪い」


 問答にも飽きてきたところで、ダミアンは腰を低くし、妖刀「乱時雨みだれしぐれ」抜刀の構えを取る。


「約束通り、不可思議な剣技とやらを拝見させてもらおうか」


「魔剣士狩りの異名を取る人間を諭そうとするだけ時間の無駄ですか。いいでしょう。僕とて無抵抗なまま切り伏せられるのは不本意ですから」


 アレックスは直立したまま逆手で抜剣の構えを取った。十分な距離は取っているが相手は対象を風で切り結ぶ魔剣士だ。距離感だけでは間合いは測り切れない。


 極限まで緊張感が張りつめ、両者同時に刀剣を抜こうとしたその瞬間。


「アレックス様! アレックス様はおられますか!」


 静謐せいひつを崩したのは刀剣同士の接触ではなく、焦りに震えたマイラの叫び声であった。両者刀剣はまだ鞘に収めたまま、思わぬ横槍に勢いを削がれた。


「マイラ。村で待機しているように言っただろう」


 まだ姿の見えぬマイラに向けてアレックスが声を張る。元より静まり返った場所。姿は見えずとも声は伝わる。


「申し訳ありません、ですが緊急事態なんです。以前追い払った盗賊団が集落を取り囲み、アレックス様を出せと。何とか私だけ気づかれずに抜け道から脱出してきました。どうか集落をお救い下さい!」


「分かった。直ぐに集落へ戻る。事が済むまでマイラは安全な場所に隠れていなさい」


 長嘆ちょうたんしながらアレックスは柄から手を離し、動きをなぞるようにダミアンも抜刀の構えを解いた。

 

「そういうことだから、僕は集落へ向かうよ」

「加勢は、必要ないな」

「流石は魔剣士だ。よく分かっていらっしゃる」


 皮肉気に笑うとアレックスは集落の方向へと駈けて行き、背中がダミアンの視界から消えた。


 魔剣士の戦闘能力を誰よりも理解しているのは他でもない魔剣士だ。盗賊団程度はいとも容易く葬りさることだろう。広範囲を攻撃可能であろうメガロプテラを所有しているのならなおのことだ。


 緊急事態とはいえダミアンがこの場は刀を収めたのも、相手が魔剣士だからという点が大きい。今すぐ決着をつける必要はない。少なくともアレックスはこの期に乗じて姿を眩ますような真似はしない。


 生来の性格の差はあれど、魔剣士という人種は基本的には自身の敗北など想像しない。何故なら、強力な魔剣の能力で次々と勝利を納め、今日に至るまで敗北を経験したことがないから。


 自分は強者だと確信しているからこそ、命を狙う者が現れても逃走という選択肢はギリギリまで考えない。降り掛かる火の粉は即座に払い落とすまでのことだから。


 焦らずとも、剣を交える機会などいつでも作れる。


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