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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
滅失の章
137/166

傲慢な剣

「そこを通しなさい!」

奪首ダッシュ


 首を狙ったダミアンの一撃を、模倣剣ゼーンズフトが受け止め、両者鍔迫り合いで顔を突き合わせた。模倣剣ゼーンズフトは、熟練のダミアンの剣技にも確実に反応しているが、無理やり剣の動きに付き合わされているライゼンハイマーの表情は、関節や筋肉の痛みで歪んでいる。


 無抵抗な村人を虐殺するだけならば最小限の動きだけでも剣を振るえていたが、優れた剣士相手ならば、模倣剣ゼーンズフトは使用者の体の可動域など無視した動きで対応せざるを得ない。普段剣術や戦いに馴染みのない人間の体に、それは大きな負担だ。ましてやライゼンハイマーは病に罹った身。その負担は計り知れない。


「随分と辛そうだな。素人でも達人の剣術を得られる模倣剣ゼーンズフトはお前の狂気との相性は最高でも、お前の肉体との相性は最悪だ」

「お気遣い、痛み入ります。ですがご心配なく。死期が早まろうとも、私は村の誰よりも長生き出来ればそれで本望ですので」


 体の痛みを制し、ライゼンハイマーが模倣剣ゼーンズフトに渾身の力で振るい、ダミアンの体を弾いて鍔迫り合いを解いた。今この瞬間さえ乗り切れればそれで構わない。感情が振り切れたことで、ライゼンハイマーの怯みが軽減された。精神力が肉体を凌駕した今、ライゼンハイマーの戦闘力は確実に上昇している。


「刺し貫いて差し上げま――あぐっああああああ!」


 模倣剣ゼーンズフトに引き摺られるような不格好な姿勢で、ライゼンハイマーが悲鳴と共に強烈な刺突を繰り出した。刀身が猛烈な勢いで体を引いたことで、肩が外れてしまっている。


「使い手の負傷も省みずに攻撃を続けるか。とんだ欠陥兵器だ」


 ダミアンは咄嗟に横に飛ぶことで刺突の軌道から外れ、ライゼンハイマーは勢いそのままに近くのうまやに突っ込んだ。肩が外れる勢いで放たれた刺突の威力は凄まじく、厩は一撃で倒壊してしまった。


 倒壊した厩の土煙に隠れたライゼンハイマーのシルエットの右肩が不自然に上がると、これまでよりも動きがスムーズになった。模倣剣ゼーンズフトが、ライゼンハイマーの右肩がはまるように無理やり動いたようだ。


時遠弩ジエンド


 シルエット目掛けてダミアンが飛ぶ斬撃を放つと、右手の模倣剣ゼーンズフトが強烈に薙ぎ払うことで斬撃を相殺。衝撃で土煙が一瞬で掻き消された。


 土煙が晴れて姿が露わになったライゼンハイマーは、白目を向いて脱力し、意識を完全に失った状態であった。にも関わらず、右手に握る模倣剣ゼーンズフトに無理やり立ち上がらされている。意識がないため、ゼーンズフトに手を引かれるがまま、両足を地面に擦りながら前へと進む有様であった。


 村人の殺害は間違いなくライゼンハイマーの意思によるものだが、本人の意識がない状態でのそれは、もはや魔剣の意思と言っても差し支えない。ライゼンハイマーは今まさに、模倣剣ゼーンズフトに扱われている。


「もはや、どちらが使い手なのか」


 哀れむように言うと、ダミアンは一瞬で距離を詰めて強烈に切りつけた。模倣剣ゼーンズフトがどんなに無理やりライゼンハイマーの体を引きずろうとも、ライゼンハイマーの意識がない状態では、これまでよりも確実に戦闘能力は低下しているはずだ。この一撃で決着するとダミアンは確信した。


「守らないだと?」


 模倣剣ゼーンズフトは肘を曲げて刀身で防御をするのではなく、肘を伸ばしたまま、ライゼンハイマーの右上腕で、乱時雨みだれしぐれの一撃を受け止めた。当然、生身の人間であるライゼンハイマーの上腕には易々と刃が入り、完全に切断された。


 腕が切断され、意識を失ったままのライゼンハイマーの体はその場で転倒したが、驚くべきことに、切断された模倣剣ゼーンズフトを握る右腕はその場に浮遊し、猛烈な刺突でダミアンへと突っ込んで来た。


「なるほど。本当に魔剣が勝手に動いているというわけか」


 意表を突く高速の刺突がダミアンの腹部へと深々と突き刺さったが、ダミアンはその場で踏みとどまることで刺突の勢いを消し、冷静に自分の腹部を見下ろした。


 誰が使っても達人が如き剣術を発揮出来るとされる模倣剣ゼーンズフトは、文字通り使い手を選ばない魔剣だったようだ。その剣技を使用するためには使用者の体さえも不要。剣を握る腕さえ存在すれば、模倣剣ゼーンズフトはどんな剣豪にも再現不可能な、縦横無尽の剣技をも披露してみせる。使い手を選ばぬ剣もここまで来ると狂気の沙汰だ。


「せっかく捕まえたんだ。行かせると思うか?」


 ダミアンの腹部に突き刺さった模倣剣ゼーンズフトは、内部からダミアンの体を切り進めようとしたが、ダミアンは左手で、魔剣をライゼンハイマーの右腕ごと握り止める。気絶していたとはいえ、ライゼンハイマーの体と腕を躊躇いなく切り離したことは早計だった。腕だけとなって速度が上がった分、体を失ったことで剣を振る力が弱まっており、左手の握力だけで動きを完全に封じられてしまった。


「武器とは人に使われてこそ凶器足り得るものだ。使い手の肉体を見限るなど傲慢ごうまんだな、模倣剣ゼーンズフト」


 動きを封じた模倣剣ゼーンズフトのナックル部分を、ダミアンは乱時雨で強烈に一撃。ナックルごと内部の魔石が粉砕され、模倣剣ゼーンズフトは活動を停止。剣を握っていたライゼンハイマーの右腕も、糸が切れたように脱力した。


 ダミアンは腹部に突き刺さった模倣剣ゼーンズフトを強引に引き抜き、ライゼンハイマーの右腕ごとその場に放り捨てた。


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