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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
羇旅の邂逅の章
131/166

赤毛の女剣士

「金でも女でも、気が済むまで奪え奪え! 邪魔建てする奴は容赦なく殺せ!」


 プレザンの町には、略奪目的のルジャンドル一味が押しかけていた。全員が剣や斧で武装し殺意に満ちている。立て籠もる住民にも容赦はなく、家屋を打ち壊すための巨大なハンマーを装備した者も多い。三十人に及ぶ大所帯といい、一味は今回の襲撃でプレザンの町から財を徹底的に奪い取るつもりだ。


 恐怖の到来に、家に籠る住人達は震えあがっていた。何かの偶然で自分の家だけでも見逃されないかと、現実逃避気味に祈りを捧げることしか出来ない。


「皆で仲良くかくれんぼか? 上等だ、全員路上に引き摺り――」

「あなたたちの好きにはさせない」

「おい、嬢ちゃん」


 ルジャンドル一味がいよいよプレザンの町を襲撃しようとした時、食堂から飛び出したエーミールが一味の前へと立ち塞がった。食堂の店主はエーミールを連れ戻そうとしたが、大所帯のルジャンドル一味の迫力を前に、路上にまで飛び出していくことが出来なかった。


「この町をあなたたちの好きにはさせない。町へ踏み入ろうというのなら、私を倒してからにしなさい」


 短剣を両手で握り勇敢にも啖呵を切ったが、短剣を握る手は恐怖に震え、感覚がどこか遠い。護身の心得があっても、三十人の賊をどうにか出来るはずはない。それでもエーミールの中の正義感が、賊たちを素通りさせることを良しとはしなかった。今ジェロームはいない。怖くて仕方がないが自分でどうにかするしかない。


「ずいぶんと非力な用心棒が現れたものだな。震えちまって可愛いの」


 賊たちから次々と嘲笑が飛び交い、それらは合唱のような大笑いとなった。笑いが一周すると、賊たちは次第に下卑た目でエーミールを見定め始める。


「よく見りゃかなりの上物だ。殺すのはもったいないぜ」

「砦に持ち替えて今夜はお楽しみと行こうぜ」

「俺は別に今からでも構わねえぜ」


 浴びせかかる下劣な視線に怖気を覚えながらも、エーミールは決して逃げ腰にはならずにその場で短剣を構え続ける。その毅然とした姿もまた、賊たちの嗜虐心を刺激した。


「先ずはその顔を泣き顔に染めてやるよ。お嬢ちゃん」


 先ずは圧倒的な力の差を見せつけ心をへし折ってやろうと、賊の筆頭である頭にバンダナを巻いた髭面の男が、双剣でエーミールに襲い掛かった。


「立派だったわ。ここから先は私に任せて」

「えっ?」


 誰かがエーミールの肩に触れ、優しく囁きかけた。刹那、エーミールに襲い掛かったバンダナの男が切り伏せられ、自身の死さえも自覚していない、呆気にとられた表情で血だまりへ沈んだ。


 あまりにも一瞬の出来事に、エーミールや食堂の店主はおろか、戦い慣れしているはずの賊たちですらも理解が追いつかず、驚愕に目を見開くばかりであった。


「あなた達がルジャンドル一味ね。私が来たからにはこれ以上の蛮行は許さないわよ」


 バンダナの男を切り伏せたのは白いコートを纏った赤毛の女性だった。得物は刀で、弧を描くように血払いをして一度鞘へと納めた。


 赤毛の女性もまたエーミールに負けず劣らずの美貌の持ち主であったが、賊たちには欲情している余裕などなく、圧倒的な剣技を前に警戒心を強めた。


「あの女はかなりの使い手だ。弓兵構えろ!」


 後方に控えていた数名の弓兵が射撃準備にかかる。射撃で殺せればそれで良し。回避されてもその隙をついて数の暴力で押し通す。二段構えの作戦だ。


「剣士を弓兵に狙わせる。良い判断だけど、剣士だからといって遠くの敵を攻撃出来ないとは限らないのよ」


 女性剣士は抜刀の構えを取った。


時遠弩ジエンド


 抜刀した瞬間、強烈な斬撃が飛び、弓を構えていた弓兵を斬り殺した。女性剣士は斬撃の軌跡をなぞるようにして一気に敵陣のど真ん中へと斬り込み、襲い来る賊たちを次々に切り伏せて行く。


「あなたで最後」


 ハンマーを持った大男は頸動脈を裂かれ、大量の鮮血を撒き散らし、踊るように半回転して倒れた。町一つを易々と壊滅させるルジャンドル一味三十人が全滅するまでに、ものの五分とかからなかった。


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