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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
羇旅の邂逅の章
129/166

正面突破

 ジェロームは一度もルジャンドル一味と接触することなく、拠点である砦の前まで到着した。砦のあるアンビシオン平原は広大かつ、ルジャンドル一味は大して訓練されていない烏合の衆。砦という強固な陣地に無敗の傲りも重なり、警戒網は張り巡らせていなかった。


「下手に策を講じても仕方がないか」


 ジェロームが選択したのは正門からの正面突破だった。内部構造も分からぬ砦に潜入し、うっかり囲まれでもしたら厄介だ。それよりは戦いやすい正門付近で暴れて早々に敵の数を減らしておきたい。首魁しゅかいたるルジャンドルは異変を察しても、直ぐには動かず部下に対処を命じるはずだ。数が多いだけの賊など恐れるに足りない。強敵であるルジャンドルと一対一に近い形を作り出すためにも今はこれが最善だ。


「おっと、久しぶりに命知らずのお出ましか?」

「吊るす死体が増えるな」


 開け放たれた正門へ近づいてきたジェロームに、門番の二人組が斧と片手剣で斬りかかって来た。流石は極悪非道の集団。問答無用で殺しにかかってきた。


 分かりやすい歓迎に攻め入る側としても気が楽になった。元より同情の余地などないが、いっそう躊躇なく切り伏せることが出来るというものだ。


「こいつ、二人分の圧力を」


 ロングソードを抜いたジェロームは、振り下ろされた斧と片手剣を同時にロングソードで受け止め、二人分の圧力をものともせずに力技で弾き返した。ジェロームには姉のイレーヌに似た繊細な剣術に加え、恵まれた体格から繰り出されるパワーを持ち合わせていた。旅をしながら磨いて来た我流の剣術ではあるが、だからこそより実戦的でもある。魔剣士狩りとしての数多の魔剣士を屠って来たダミアン相手には遅れを取ったが、雪辱を胸に一層鍛錬を積んできたジェロームの成長は著しい。


「報い足り得ないが、これまでの悪行をせめてその命であがなえ」


 攻撃を弾き返され大きな隙が生まれた二人の門番へ対して一歩踏み込み、ジェロームはロングソードで強烈に一閃。驚愕に目を見開いたまま、門番二人の上半身が同時に斬り飛ばされた。


「……惨いことをする」


 正門を見上げてジェロームは目を細めた。これまでにルジャンドル一味を討伐すべく砦に攻め入って来た傭兵たちだろう、大勢の死体が砦に吊るされていた。そのほとんどがすでに白骨化している。先程から頭上は鳥の鳴き声がうるさい。死体は吊るされた側から、アンビシオン平原に生息する鳥たちの餌となっているようだ。


「侵入者だ、殺せ!」


 ジェロームが斬り殺した門番の悲鳴を聞きつけ、ルジャンドル一味が次々と正門へと押し寄せて来た。目視出来るだけで人数は十。


「たった一人で砦攻めとは、命知らずにも程があるぜ兄ちゃん」


 賊の筆頭格らしきスキンヘッドの男が、嘲笑を浮かべて剣の切っ先をジェロームへ向けた。それを合図に次々と賊がジェロームへと襲い掛かった。


「あいつの攻撃に比べたら止まっているのと同じだ」


 先手必勝で仕掛けたにも関わらず、魔剣士狩りの神速の一撃に遅れを取った。たった一度の対峙だったが、あの一瞬の剣戟が今でも頭から離れない。あの剣技を超えなくてはいけない。その一心でよりいっそう剣技を磨いて来た。それに比べたら、賊たちの攻撃はあまりにも遅い。


 正面から切りかかって来た剣士を右手で振るったロングソードで両断し、左側面から迫った斧使いの顔面に左手で強烈な裏拳を叩き込んだ。鼻を押さえてバランスを崩した斧使いに、すかさずロングソードで刺突して止めを刺した。


「ゆ、弓で狙え!」


 数の優位に奢っていた賊たちにも徐々に焦りが見え始める。筆頭格の命令を受けて、後方に待機していた弓兵二人がジェローム目掛けて矢を射た。


 ジェロームは冷静に左腕で矢を受け流し、軌道を逸らした。コートの袖に隠れているが、ジェロームは両腕に特注の籠手を装備している。硬質かつ、表面は攻撃を受け流しやすいように曲面となっており、ジェロームはこれを矢や投擲武器などから身を守る防御手段として利用している。いくら硬質であっても、直撃すれば腕まで貫通する可能性は否定出来ないが、ジェロームは受ける角度を絶妙に調節することで的確に攻撃をいなすことに成功している。より戦闘時の隙を減らせるように、ジェロームが辿り着いた一つの戦闘スタイルだ。


 防御にロングソードを利用しなかったことで、ジェロームは即座に攻撃に転じ、襲い掛かって来た三人の賊を次々と切り伏せる。矢をロングソードで防ぐと予想し、その隙を突こうとしたのが仇となった。


 ジェロームの勢いは止まらない。俊足で一気に斬り込みさらに三人を切り伏せると、ついには矢の装填に手間取っていた弓兵の前にまで接近。二射目は許さず、強烈な一撃で二人を同時に両断した。


 背後から大斧使いが力任せに斧を振り下ろして来たが、影で察したジェロームは即座に横に飛び斧を回避。振り返り様にロングソードで切り伏せた。


 すかさず槍の投擲が襲い掛かったがジェロームは首の動きで回避。後方に飛んで壁に突き刺さった槍を引き抜くと即座に投げ返し、槍は投擲主の胸部に深々と突き刺さった。


「な、舐めるなよ! 小僧!」


 これで残すは、筆頭格のスキンヘッドの男一人だけとなったが、悪党には悪党の矜持がある。激情に身を任せて剣でジェロームへと斬りかかった。


「生きるか死ぬかの戦場だ。俺は何時だって真剣だよ」


 スキンヘッドの男の攻撃よりも、ジェロームの剣速の方が遥かに上回っていた。すれ違いざまに胸部が裂け、勢いよく鮮血が噴出した。


「……かしらは俺のようにはいかないぞ。歯向かったことを、存分に後悔しながら死ね――」


 今わの際に呪いを残し、スキンヘッドの男はその場に膝から崩れ落ちる。血だまりへと倒れ込み、粘性のある水音を立てた。


「本気の殺し合いに、後悔している間なんてあるわけないだろう」


 ロングソードを素早く振るって血払いすると、ジェロームは単身ルジャンドルの砦へと乗り込んだ。

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