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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
狂気の剣士の章
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狂気の剣士

 ドラコ・コル兄弟を倒したダミアンは、宿泊していた宿の前へと足を運んでいた。

 宿は倒壊し、周辺には大勢の遺体が転がっている。全員に巨大な刃物で殺害された形跡があった。ドラコ・コルが二人組であると知った時から想像はしていた。弟のコルは兄ドラコの援護に駆け付けた際に「こっちの仕事は終わった」と言った。強襲で一度に大勢を殺害するのはドラコの役割。窮地を脱して安堵した人々を殺害するのがコルの役割だったのだろう。そうでなければ、いくら戦闘能力に優れていようとも、これまでにあれだけ大勢の人々を殺害することは出来なかったはずだ。


「すまなかった」


 父と母に寄りそうようにして亡くなっていた宿屋の娘ファナに、ダミアンはそう語り掛けた。せっかく父親とも再会出来たというのに、運命は家族の未来を同時に奪ってしまった。


 宿に避難しろと告げた判断は間違いだった。あの時点ではドラコ・コルが二人組であることは知り様がなく、驚異的なリーチの蛇腹剣を操るドラコのいる広場に残しておくことの方がリスクが高い。判断には間違いはなかった。だが、結果として守り切れなかった以上、己の判断を呪わずにはいられない。


『あなたの勝ちだよ。魔剣士狩り』


 ドラコの最期の言葉が頭を過る。


「……何が勝ちだ」


 仮にファナや、あの場に居合わせた者だけは守り切れたとしても、広場以外の場所にいた人々がコルに殺害されるのを防ぐことは出来なかっただろう。魔剣士狩りといえども、一人で救える命には限りがある。大勢を救うことは最初から困難だった。それどころか、平穏な日々が崩壊し、恐怖に震える少女一人救うことが出来なかった。


 広場で瀕死の重傷を負っていた人々の安否を確かめたが、ほとんどがドラコ・コルとの戦闘中に、出血多量で息を引き取っていた。辛うじて息をしている者に応急処置を施したが、町医者も殺害されており、もはや手の施しようがない。間もなく息を引き取った。町中を捜索したが、ドラコと広場で戦闘している間にコルが一人残さず住民や観光客を斬り殺していた。老若男女、生存者は誰一人として残されていない。


 大勢が死んだ状況を勝ち負けなどで判断するつもりなどない。だが、誰一人として守れなかったダミアンと、殺戮を成功させ、死の訪れさえも好奇心の対象であり、満足気な表情で逝ったドラコ・コル兄弟。どちらが勝者と言われればそれは。


「……魔剣士狩りに狂えていれば、いっそ楽だったのだがな」


 魔剣士を殺すという狂気に突き動かされたのなら、ここまで感情を揺さぶられはしなかっただろう。


 だが、ドラコ・コル兄弟は魔剣士ではなかった。


 ドラコの蛇腹剣も、コルのリング状の刃も。魔石を核に用いた魔剣ではなく、ただ特殊な形状や構造を持つだけの、あくまでも通常の武器だった。故にドラコ・コル兄弟は魔剣のもたらす狂気の影響も受けていない。兄弟は生粋の狂人。狂気の魔剣士ではなく狂気の剣士だったのだ。長年、魔剣士狩りの旅を続けていると、稀にこういった純粋の狂人と出会う機会があり、その狂気は時に魔剣士の狂気を上回っていることさえある。今回対峙したドラコ・コル兄弟がその典型だ。


 相手が魔剣士でないからこそ、ダミアンは魔剣士狩りの狂気ではなく、己の中の純粋な感情だけでドラコ・コル兄弟と戦わなければいけなかった。だからこそ普段よりも感情的で、普段以上に己の無力さを呪う。この瞬間ダミアンは魔剣士狩りではなく一人の剣士であった。


「……行かねば」


 ファナと両親の亡骸に上着をかけてやると、ダミアンは顔を上げて立ち上がった。


 今日もどこかで狂気の魔剣士による殺戮が繰り広げられている。全ての魔剣士を狩り尽すまで魔剣士狩りの旅路に終わりはない。立ち止まっている暇などない。いつだってダミアンを突き動かすものは、魔剣士狩りの狂気なのだから。


 先ずは近くの町へ向かうことにした。リストの町で起こった悲劇を伝え、村人たちの亡骸を丁重に弔ってもらわなければいけない。

 同時にドラコ・コルの死の報告も伝えなくてはいけない。人の姿をしたドラコ・コルという名の災害はもう二度と起こらない。悲劇はリストの町で最後だったと。




 狂気の剣士の章 了


 羇旅の邂逅の章へと続く。

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