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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
逆行の暗流の章
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十五年後にまた

「浅はかだったな魔剣士狩り。お前は余計なことを口走った」


 時流断剣テンプスピラの能力で過去へ飛んだルベンは、十五年前、夏祭りの日のオルディナの町にいた。時系列的には父レオニダを殺害した少し後。当時の自分が留学から緊急帰国する直前なので、鉢合わせする可能性もない。


 社長室でのやり取りの中で、ダミアンは愚かにも十五年前の祭の時期に、事件の調査でオルディナを訪れていたと口走った。今この瞬間、ダミアンはこの町のどこかにいるはずだ。全ての絡繰りを知ったダミアンは常に警戒しているはず。未来に飛んでも返り討ちに遭う可能性が高いが、まだ事情を知らない十五年前のダミアンならば、不意打ちで討ち取ることも可能だと考えた。捜索に多少時間をかけようとも、この時代でダミアンを殺し、過去に飛んだ直後の時間に戻ればきっとダミアンの来訪自体がなくなっているはず。それで全てが丸く収まる。


「見つけたぞ、魔剣士狩り」


 観光客で賑わう往来の中に、三つ揃えのツイードスーツにハンチング帽、腰には刀を携えた長身の青年の姿を見つけた。現代と寸分違わぬダミアンの姿がそこにはあった。十五年という歳月が間にあるにも関わらず、二つの時代のダミアンはどう見ても二十代前半の若さ。しかし、この時代のダミアンを殺すことだけに執着している今のルベンは、その違和感にまったく気が付いていない。ただ見つけたと、そう感じただけだ。


 ある程度の距離を取りつつ、後をつけて襲撃の機会を伺う。襲撃しようにも大通りは人が多すぎてまともに剣も振れない。


 ――もう少しだ。


 ルベンの期待通りダミアンは徐々に大通りから外れ、人気の少ない路地の袋小路へと差し掛かった。道に迷っているのかもしれない。襲撃の機会は今しかないとルベンは直感した。


 ――終わりだ。魔剣士狩り!


 袋小路で立ち止まったダミアンに、背後から無言で斬りかかった。


「はっ? 何で……」


 時流断剣テンプスピラの刀身はダミアンには届かず、代わりに即座に振り抜いたダミアンの乱時雨がルベンの胸を逆袈裟に切り裂いた。


 どうして過去への襲撃が失敗したのか。まさか未来からの襲撃を予期していたのか。疑問への答えを得られぬまま、ルベンの体が路地へと倒れ込んだ。


「現代で……治療を……」


 希望虚しく、霞む視界の端では、ダミアンが時流断剣テンプスピラの核である魔石を刀身で一撃し、粉々に破壊した。時をかける稀有な魔剣はもう、どこへも行くことが出来ない。支配者気取りでその力を行使し続けた魔剣士はもう、過去へも未来へも飛べない。行き先はただ、死という名の虚無だけだ。


「戻る……」


 単なる独特な形状の剣へと成り果てた時流断剣テンプスピラへ手を伸ばしながら、ルベンは息絶えた。夕刻を迎えた町では、夏祭りの開始を告げる花火が大量に打ちあがり、大通りからは大きな歓声が沸き上がっている。たった今、狂気の魔剣士が死んだことを知る者は誰もいない。


「この男が一連の事件を引き起こした魔剣士か。まさか私を直接狙ってくるとはな」


 弧を描くように血払いしたダミアンは、ルベンの死体と魔剣を見下ろした。


 この時代のダミアンは十五年後の事などまったく知らない。魔剣の正体が時を行き来する時流断剣テンプスピラであることも、襲撃者が十五年後の未来から来た男であることも、今はまだ知らない。ただ、自分をつけてくる怪しい気配を感じ取ったから、あえて人気のない場所へと移動し行動を誘発。返り討ちにしたまでのこと。手に持つ武器が魔石の埋め込まれた魔剣だったから破壊した。


 ルベンは魔剣士狩りのダミアンをあまりにも侮っていた。例え十五年後の出来事を知らなくとも、魔剣士狩りのダミアンが魔剣士の突然の襲撃に遅れを取ることなどありえない。


「これは」


 ダミアンはルベンの亡骸の傍らに、一枚の紙が落ちているのを見つけた。ルベンのポケットに入っていたものが、戦闘の衝撃で飛び出したようだ。ルベンの血で少し汚れているが、内容は十分に確認出来る。


「十五年後の夏祭りの時期に再びオルディナの町を訪れろ」


 紙に書かれた文章をダミアンは復唱した。意味はよく分からないが、この筆跡はどこか自分の物に似ている気がした。


「一応、十五年後にもこの町を訪れてみることにするか」

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