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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
影追いの章
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影刃スキアステレオン

 ダミアンとウスターシュは、シェドゥヴル劇場から少し離れた、煉瓦造りの倉庫街へと場所を移した。周囲に人気はほとんどないが、立ち並ぶ倉庫や、点々と積まれた木箱などが、晴天によって大小様々な影を生み出している。周囲の人間を巻き込む可能性が少なく、かつ周囲にはウスターシュにとって好条件であろう影が散りばめられている。双方にとって都合のよい環境だ。


「何か誤解しているのなら釈明する。今日の公演を楽しみにしていたんだ。さっさと終わらせよう」


 声をかけられた時は突然のことで動揺が顔に出てしまったが、移動してくるまでの間にウスターシュは冷静さを取り戻していた。常識的に考えて手口が分かるはずなどない。あくまでシラを切るつもりだ。


「私は勝手に考えを述べる。反論があるのなら好きにしろ」

「……そもそも、犯人の特定以前に犯行の手口さえも不明なんだろう? 体に触れることなく、どうやって人間の体を切り刻むんだよ」


 多くの目撃者がいたこともあり、犯行の様子は新聞などで広く知れ渡っている。状況をウスターシュが把握していること自体は決して不自然ではない。


「一連の事件の凶器は魔剣だ。市長がその可能性を疑ったからこそ私が呼ばれた」


 魔剣という響きを聞いて、ウスターシュは微かに眉根を寄せた。


「犯人が切ったのは人体ではなく、足元から伸びた影の方だったのだろう。数ある魔剣の中でも非常に特殊な、影を介して標的を攻撃する能力。影刃えいじんスキアステレオンこそが今回の事件の凶器だ。影とは主と一心同体の言わばもう一人の自分。影は常に主と同じ行動を取るがその逆も然り。影刃スキアステレオンは影に与えた攻撃を人体に反映させる。例えば影から腕を切り落とせば、それをなぞって人体からも腕が落ちる、といった具合にな」


 犯行時の様子を聞き、最初は遠隔攻撃を行うタイプの魔剣だと予想したが、全ての犯行が日中、天気の良い日に行われていた点や、一部の犯行の状況、公園で聞いた影に関する目撃証言から、ダミアンは影刃スキアステレオンこそが凶器であるとの結論に至った。


「スキアステレオンの能力は決して万能ではない。影に対する攻撃力はあくまでも一般的な刀剣程度だ。だからこそ最初の犯行では直接馬車を攻撃するのではなく、影を介して御者の腕を斬りつける手順を踏むことで馬車を止めた。馬車の中にいては、ダントリク氏の影を攻撃出来ないからな」


 これは三件目のネルヴァル卿殺害に関しても言えることだ。これまでの犯行では護衛や秘書など、標的の同行者も容赦なく殺害されたにも関わらず、ネルヴァル卿の妻は被害にあっていない。これはネルヴァル卿よりも先に、妻が安全圏である馬車の中に乗り込んでいたためだろう。


 一件目のダントリク殺害事件も、あるいは退避を選択せずに馬車の中に留まっていたら生存の目もあったかもしれないが、魔剣の能力など知る由もなく、突発的な襲撃とあれば護衛対象をまずは安全圏まで移動させようとすることは当然だ。当時の護衛達の判断を責めることは出来ない。あまりに運が悪すぎた。


「……仮にあんたの言うように、魔剣とやらが存在するとしよう。だがそれは凶器と手口が判明しただけで、俺が犯人という話には飛躍しないだろう」


 ウスターシュはまだ関与を認めない。凶器と手口が分かったところで、犯人が特定できなければ、根本的な問題は解決しないはずだと。


「私はお前が魔剣士だと確信している。それが全てだ」

「お、おい」


 通告もなくダミアンが突然抜刀。勢いそのままにウスターシュへと斬りかかった。ウスターシュが咄嗟にズボンのポケットから赤い石を取り出した瞬間、赤い石から発生した黒いもやがウスターシュの全身を覆い隠すと、立体的な人型の影のような姿になったウスターシュが一瞬で消え、ダミアンの振るった刀身は虚空を切った。


「使ったな。魔剣の能力を」


 不敵な笑みを浮かべ、ダミアンが少し離れた倉庫の影へと刀の切っ先を向けた。そこには、倉庫の影から、実体のある黒い影が生えあがり、一瞬で人の形を形成。影が爆ぜ、その中からウスターシュが姿を現した。


 ダミアンの本気の剣速は、常人ならばまず対処は不可能だ。咄嗟に身を守るためには魔剣の能力の発動は必至。目の前で能力を使用すれば、もはや言い逃れは出来ない。


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