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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
影追いの章
102/166

生死を分けたもの

 ダミアンは次に、第二の被害者である、陸運業のジャヌカンが殺害された現場を訪れていた。第三の事件現場よりも、こちらの方が公園から近かったので先に寄った形だ。


 現場は大通りに面した繁華街で、ジャヌカンと秘書は関係者との会食を終え、高級レストランから出た直後に殺害された。穏やかな昼下がりに起きた惨劇とあり、この事件も多くの衆人環視の前で発生している。


「天候は終日良好か」


 改めて事件の資料を見直していくと、全ての事件が日中、快晴の下に発生していることが分かった。事件の母数が少ないので断定までは出来ないが、犯人が快晴の日を好んで犯行に及んでいる可能性は考えられる。天候に注目したのは公園での路上生活者の男性の証言にあった、影というワードが気になったからだ。


 朝方から夕刻まで時刻の幅は広いが、今のところ犯人が夜間に犯行に及んだ記録はない。日中と夜間の大きな違いは明るさ意外に、影の有無も変化する。


 天候に関しても同様で、影が存在感を発揮するのは曇天ではなく快晴の下。一連の事件に影が何らかの形で関わっているのなら、犯行時刻や天候は犯人にとっての好条件だった可能性が見えてくる。


「失礼、少しいいだろうか」

「はい。何でしょうか?」

「先月起こった殺人事件を捜査している。話を聞かせてもらいたい」


 ダミアンはジャヌカンが亡くなる直前まで利用していた大通り沿いのレストランを訪れた。応対した壮年のオーナーは、ダミアンが市長から預かった懐中時計を提示すると、快く聞き込みに協力してくれた。


「あなたも事件を目撃したのか?」

「はい。ジャヌカン様はオープン当時からのお得意様でしたから、入口までお見送りに。突然目の前で起こった出来事に腰を抜かしてしまいました」


 オーナーは沈痛な面持ちで腕を組んだ。何の前触れもなく目の前で人間が斬殺されていく。脳裏に焼き付いた光景はそう簡単には消えてくれない。


「捜査記録によれば、最初に秘書が殺害されたそうだが?」


「ロバンさんですね。とても仕事熱心な方で、ジャヌカン様も彼のことを高く評価しておりました。腕が切り落とされても、激痛に顔を歪めながら真っ先にジャヌカン様を庇おうとしていました……恐怖に震えて何も出来なかった自分が情けない。あの時、咄嗟にジャヌカン様を店内に引き戻してればあるいは……」


「あまり自分を責めない方がいい。異常だったのは状況の方なのだから」


 状況を考えれば恐怖に身が竦んでしまうのも無理はない。ここまで強い後悔を抱く以上、お得意様だからというだけではなく、ジャヌカン、秘書のロバンともに、人柄の良い人物だったのだろう。


 最初に殺害されたのは秘書の方だったことを確認出来たのは収穫だ。一件目のダントリク殺害時の護衛といい、犯人は標的を殺害するにあたって、周辺の人間を最初に始末している。護衛や秘書の方が本命だったとは考えにくいので、最も可能性が高いのは、標的を確実に仕留めるための側近の排除だろう。


 しかし、屈強な護衛を先んじて排除することはまだしも、それだけの戦闘能力を持つ者が、非戦闘員である秘書一人を先に殺しておくことに意味があるのかは疑問が残る。姿なく屈強な護衛を殺せるのなら、秘書一人に構わず、標的だけを殺せば良さそうなものである。


「辛いことを思い出させて申し訳ないが、最後に一つだけ聞かせてくれ。事件発生時、あなたがいた場所を具体的に教えてほしい」


 結果的に恐怖で動けなくなってしまったとはいえ、事件当時、店のオーナーは被害者を見送っており、秘書同様にジャヌカンの直ぐ近くにいたことになる。犯人が部外者を巻き込まない程度には弁えていただけかもしれないが、魔剣が絡んでいる可能性が高い以上、犯人をそこまで評価してよいものか疑問だ。ひょっとしたら、他に何か生死を分けた要因があったのかもしれない。


「扉を開けてお見送りした直後でしたから、丁度、店と外との境目のあたりです。そのまま恐怖で動けなくなってしまって」

「扉は開いていたな?」

「もちろんです。見送った直後でしたから」


 ダミアンが店の扉を開けると、外開きの大きな扉が影を作った。外と店の境目で腰を抜かしていたのなら、時間帯や太陽の位置を考慮すると、オーナーの体は扉の影にすっぽりと覆われていたと推察される。一連の事件には影が強く関係している。だとすれば生死を分けた要因もあるいは。


「情報提供に感謝する」


 オーナーにそう言い残すと、ダミアンは第三の事件現場である劇場へと向かった。

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