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魔剣士狩り  作者: 湖城マコト
影追いの章
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捜査協力

「各地に広告を出して私に連絡を取るとは、面白いことをする。まさか市長自らの試みとは思っていなかったが」


 三つ揃えのツイードスーツにハンチング帽。腰には刀を携帯した洋装の剣客、ダミアンの姿は、大陸北東部の都市、ソワールの市庁舎にあった。市長であるロカンクール直々の招きであり、客人として市長室へと通されている。


「公的な記録に載ることはなくとも、貴殿の活躍は各地の首長たちの間で語り草だ。影の有名人という奴だな。連絡を取る手段を持たぬ故に、このような回りくどい方法を取らせて頂いた。ソワールへの来訪を心から感謝する」


 根無し草のように旅するダミアンの足跡を辿ることは難しい。そこでロカンクール市長は一計を案じ、大陸中の主要施設に魔剣士狩りに協力を要請する旨を記した広告を放ち、魔剣士狩り本人がソワールの地を訪れてくれることに賭けた。試みは成功し、魔剣士の影を感じ取ったダミアンはこの日、ソワールへと姿を現した。


「詳細を聞かせてもらおうか?」


 広告では、依頼の詳細は直接顔をあわせてから話すと記載されていた。詳細を伏せたのは、各地に広告を放った都合上、イメージダウンを恐れて、ソワールで異常事態が起きている旨を書きにくかったのだろう。


「……事の発端はニカ月前、劇場経営などで財を成したダントリク氏と護衛の殺害事件だ。暮れ方、ダントリク氏の乗る馬車の御者が突如負傷し、馬車は緊急停車。ダントリク氏は護衛と共に避難しようとしたが、三人いた護衛は次々と斬り殺され、護衛を失ったダントリク氏も命を落とした。この事件は異常と呼ぶ他ない。惨劇は多くの通行人の前で起きたが、被害者は何者かに攻撃された様子が無いにも関わらず、突然腕や首を斬り落とされたと、目撃者の誰もが口を揃えている。


 被害者の中で唯一生存した御者さえも状況を理解出来ておらず、突然自分の右腕が裂けたと証言している。犠牲者の検死結果や、御者の治療を行った医師の見立てによると、傷は全て鋭利な刃物でつけられたもののようだ」


「衆人環視の前で起きた見えざる刃による殺人か。確かに異常だな。発端と言うからには、事件はそれだけに留まらなかったのだろう?」


「うむ。同様の事件がこれまでに三件確認されている。ダントリク氏の事件から二週間後。今度は陸運業で財を成したジャヌカン氏が白昼堂々、関係者との会食を終え、秘書と共にレストランを出た直後、二人同時に見えざる刃によって殺害された。


 それから僅か四日後。今度は貴族のネルヴァル卿が劇場での観劇後、帰りの馬車に乗り込む直前に同様の手口で殺害された。不幸中の幸いで、先に馬車へ乗り込んでいた婦人は無事だった。なお、この劇場はダントリク氏が経営していたものだ。


 三週間後、今度は著名な劇作家であるパスキエ氏が、日課の朝の散歩中に公園で殺害された。劇場を経営していたダントリク氏との関係も深い人物だが、動機との関連性は不明だ。


 ここしばらくは、新たな事案は発生していないが、見えざる刃による殺人を住民たちは恐れている。情けない限りだが、すでに我々が独自に事態を解決できる段階は過ぎていると言わざるを得ない。事件解決のために、魔剣士狩りの力をお借りしたい」


 ロカンクール市長は自身の力不足を嘆くように目を伏せた。ソワール都市警察の懸命の捜査も虚しく、容疑者の特定はおろか犯行の手口さえ未だに判明していない。

 

 手口が分からなくとも、剣による傷を伴う異常な事件が起きている以上、疑わしきは魔剣の存在だ。頼みの綱は、噂に名高い魔剣士狩り以外には存在しなかった。


「懸命な判断だ。犯人が魔剣士だった場合、対抗手段がなくては悪戯に人死にが増える」


 仮に犯人の特定に至ったとしても、警官隊では魔剣士に返り討ちにあう可能性が高い。そうなれば犠牲が増えるばかりか、犯人の逃走を許す結果に繋がりかねない。特定と対処を同時に行うには、ダミアンのように魔剣士に対抗できる人間の存在が不可欠だ。


「この事件は魔剣士狩りが引き受けた。魔剣士の存在を前提に調査を開始する」

「感謝する。それではこちらをお持ちなさい。貴殿の捜査の助けとなるだろう」


 ロカンクール市長は執務机から、これまでの捜査情報を綴った帳面と、盾のエンブレムをあしらった懐中時計を取り出した。盾のエンブレムはソワールの町のシンボルマークで、裏にはロカンクール市長のサインも刻まれている。


「捜査資料は分かるが、この懐中時計は?」

「ソワールに滞在中、市長ロカンクールの名の下に、その懐中時計が貴殿の身分を証明してくれる。関係者に話は通してあるので、快く捜査に協力してくれるはずだ」

「承知した。活用させてもらおう」


 ロカンクール市長から渡された懐中時計をスーツのポケットにしまうと、ダミアンは市庁舎を後にし、町へと下りて行った。



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