戦車と暗黒騎士
「戦車だっ! どうするんだっ!!」
「ロケットポッドはどこだよ」
「あっても、役に立たないわよっ!」
塹壕に隠れた、ジョンソンとロイド達が怒鳴る。
私も、牧杖を強く握りしめながら怒鳴る。
いや、あんなの流石に無理だわ。
「お前ら、着いてこい」
ジョンソンは、塹壕を左に進む。
彼に続いて、早く逃げなければ。
さっきの砲撃、アレは私達を狙っての攻撃なのは確実だ。
きっと、突撃部隊との戦闘が連中にも見えたのだろう。
『ドンッ!!』
まただ、塹壕近くの地面が吹き飛んだ。
「塹壕に居たぞっ!」
「奴等を撃ち殺せっ!」
左右から・・・しつこい連中だわ。
「急げ、囲まれるぞっ!」
『ドドドドッ』
『ボッボッ』
「分かっているわ」
ジョンソンは、先を走りながら塹壕に入って来た、ゾンビ兵を撃つ。
私も、塹壕上から、銃を構える敵兵に牧杖で火の玉を放つ。
「ぎゃっ!?」
「ぐわわっ!」
ジョンソンの軽機関銃の銃撃は、数人のゾンビ兵を倒す。
私の放った、数発もの火の玉は、スケルトン兵を二人倒した。
「追え、追うんだーーーー!?」
「奴等を逃がすなーーーー!!」
『パンッ! パンッ!』
『ドドドドッ! ドンッドンッ!』
『ドドドドドドドドーー』
小銃の音が多数。
軽機関銃、拳銃、短機関銃の音もだ。
連中、後ろから来たのね。
後、もう少しで右に曲がれば味方陣地まで続く塹壕線だ。
そこまで逃げ切るには、何発か喰らわせせなきゃね。
「チッ! しつこい奴等だっ!」
『ドンッドンッドンッドンッ』
ロイドは、また散弾銃を、カシャカシャさせて暴発させる。
自動拳銃のように放たれた、散弾は追撃してきた兵士達を多数倒す。
「ぐわあぁっ!?」
「うげっ!!」
散弾で何人か敵を倒しても、まだまだ敵は何十人と迫り来る。
これは、まるで押し寄せる波のようだ。
しかも、鋼鉄の芋虫まで一台走ってくるのだ。
動きは緩慢だが、あの短砲はバカに出来ない。
しかも、此方には有効な対戦車兵器がない。
「だから、今は逃げるしか」
『ボォーーーー!』
私が思いっきり、牧杖を振るうとゼンマイ部分が光だす。
明るくて黄色く光る炎の玉。
それは、真っ直ぐに塹壕を走る敵に向かって飛んでいく。
『ボシュッ』
「ぎゃあああっ!!」
敵に当たって弾けた、火の玉。
それは、スケルトン兵の全身を包み込み、激しく炎上させる。
「威力は高いけど、単発でしか射てないのよね」
何時までも、燃えている敵兵を見ている暇はない。
今の一発は、威嚇用だ。
敵を驚かせるために射っただけ。
だから、後は連中が怯んだ隙に走れば。
『ドーーンッ!!』
「うわっ!!」
「ぐあっ?」
「きゃっ!」
ジョンソンとロイド達は、地面に伏せた。
戦車《AV7》からの砲撃だ。
もう少し先の塹壕に居たら、巻き込まれただろう。
かく言う、私も伏せた。
あの砲撃を、まともに受けたら体がバラバラになるからだ。
「行けっ! 追い詰めろっ!」
『ドドドドドドドドーー』
うわ、本当にしつこい。
まだ追いかけて来るの。
『ドドドドッ』
「急げ、早く曲がるんだっ!」
何時の間に、ジョンソンは向こうに行ったのよ。
と言うか、右に曲がれば、後は味方陣地まで一直線だ。
さあ、気合いを入れて走らねば。
『ドーーンッ!!』
「うわっ! 塹壕が崩れたぜっ!?」
「これじゃ前に進めないわっ!!」
何度目になるのか分からない戦車《AV7》の砲撃。
これでは、前に進むのは無理だ。
かと言って、後ろは突撃部隊が。
両側の斜面を登れば、戦車《AV7》の砲撃が。
積んだわ・・・。
「おいっ! 大丈夫か?」
「私達は大丈夫よっ!」
「ジョンソン、あんたは助けを呼んでっ!!」
向こう側から、ジョンソンの声がする。
私達に怪我はないが、直ぐに後ろから包囲されるだろう。
どうやら、ロイドは後ろの連中が来たのに気づいたようだ。
「動くな?」
制帽を被った大型拳銃を構えた下士官のグール。
その後ろには、真ん中に戦車《AV7》を中心とした突撃部隊の兵士が居る。
「降伏しろ、さもなくば殺す」
下士官のグールは、私達を脅す。
ここで殺されれば、私達はアンデッド兵に変えられてしまう。
それは嫌だが、もし逆らえば、どの道そうなるのだ。
(・・・はぁ~~? 終わった・・・)
これで、万策尽きた訳だけど。
他に手はないかしら。
・・・無さそうね。
「指揮官、何をやっている?」
「はっ! これは、これは暗黒騎士様?」
暗黒騎士まで現れた。
黒騎士だけでも、一個中隊ほどの実力と言われているのに・・・。
よりによって、こんな所に現れるとは。
口元以外をスッポリと覆う、丸い骸骨型兜。
その両眼の眼孔は、青く幻想的な光を放つ。
左右の三本ずつ生える巻き角は、右側が長く、左側は短い。
それは、まるで三日月のようだ。
口元は、灰色の長い犬歯の生えた骸骨が見える。
丸みを帯びた、黒い鎧には、青い骨が装飾されている。
腰のベルトには、左右に、両手剣と長剣を差していた。
「ほ~~ぅ? 捕虜を捕まえたのか、どれどれ・・・あ?」
(・・・ヤバイ・・・奴が私の方を見ているわ? ・・・)
このままだと、アイツの妾にされてしまう。
どうしよう、早く逃げたいけど、逃げられない。
「あの女が気に入りましたか? では連れて来いっ!」
「え? いや、そのぉ?」
「了解ですっ!」
「承知しましたっ!」
あ、下士官リッチの命令で、スケルトン兵とゾンビ兵達が来る。
「ちょっ! 待ってよ?」
「済まん、助けられなくて」
スケルトン兵とゾンビ兵達は、私の両腕を掴み、連行しようとする。
ロイドは、私から申し訳なさそうに目を剃らす。
仕方ないわよ。
この数の差は覆せないもの。
「どうです、暗黒騎士様・・・この女を秘書官にしては?」
「う、うん? そうだね、そうさせ・・・」
『バンッ! ドーーンッ! ドーーンッ! バンッ! バンッ! バンッ! ドドドドッ!』
下士官のリッチが、私を暗黒騎士の慰み物として差し出す。
と、思いきや、いきなり戦闘が始まる。
「ウラーーーーーー!?」
「どらーーーーーー!!」
『ドドドドーー』
『パンッ!』
アドリアン・ヘルメット。
白鼠色の軍服。
間違いない、味方部隊だ。
反撃に出た彼等が、私達の所に来たのね。
「ぐぅっ!?」
「うわぁっ!」
「しまった、反撃しろーー」
スケルトン兵、グール兵。
彼等が倒れると、指揮官リッチは怒鳴る。
次いで、暗黒騎士も、直ぐに動いた。
『ドーーンッ!!』
「ふっ!」
「きゃあっ!」
暗黒騎士は、私を抱き抱えてジャンプした。
直後、私達の居た場所は砲弾が飛んできた。
『ドンッ!! ドーーーーンッ!』
「ぐわ? 戦車が殺られたか、撤退~~~~!?」
戦車《AV7》は、遠くから野砲が放った榴弾が直撃したらしい。
ド派手に爆発した後、周囲に破片と土ぼこりを振り撒く。
下士官のリッチは、突然の奇襲に慌てているわね。
「ああ、撤退か? 仕方ないや」
「仕方なくないわよっ!」
ブツブツと呟いている暗黒騎士だが、両目を隠せば。
「うわっ!! ちょっ!? ちょっと、何するんっ!?」
「今だっ!!」
暗黒騎士が混乱している今なら・・・ジャンプしたら、逃げ切れる。
「はっ!」
向こうの豪に隠れよう。
そうすれば、安心だわ。
「あれ? 彼女は・・・何処だ?」
『ドーーンッ! ドーーンッ!』
「我々も撤退するぞ~~~~!?」
激しい砲撃が、暗黒騎士を包む。
味方部隊も、一旦撤退するようだ。
しかし、あの砲撃ならば暗黒騎士も吹き飛んだのだろう。
これで、ようやく私達は助かったようだわ。
その後、塹壕周辺では。
「ロイド、パトリス? 無事だな?」
ジョンソンが、走って来る。
「あんたも、無事だったな」
「助けを呼んだのは、貴方かしら?」
灰色の軽戦車《ルノーFT》に凭れ掛かる、ロイド。
その近くの木箱を椅子代わりに座る私。
「ああっ! 無事だし、助けを呼んだのは俺だ、それより俺とロイドは西側の塹壕に向かう? あんたも達者でな」
「やれやれ・・・人使いの荒いこって? 俺達ハーレム・ヘルファイターズは暇なしかよっ! それじゃあな、パトリス」
「ええ、また何処かで会いましょう」
別れを告げる、ジョンソン。
それを聞いて、立ち上がるロイド。
私も二人に、別れを告げる。
「・・・」
「はっ!?」
急に後ろが気になり、振り向いて見た。
だが、そこに居たのは、一人の味方兵士だった。
ああ~~ビックリした・・・。
読みきり作品だからね、これ。
あと、カクヨムで書いた失敗作の外伝作&試作品なんだ。
魔法が使える中世・銃を撃つ近代を足したらって、感じで考えた作品だからね。
本編は、プロットの再構成・書き直しが済んだら向こうに再び載せようかな。
今回登場したパトリス、本編に登場するキャラだよ。
ゲストキャラである、ジョンソンとロイド達は、実在したアメリカ人・フランス軍・義勇兵だからね。
BF1をプレイしていれば、分かるだろうけど。