副隊長・女僧侶の塹壕戦
「あっちだっ!!」
何人もの黒い軍服の兵士達が走る。
黒い鉄兜のシュタールヘルム。
黒い軍服。
その顔は、緑色だったり、蒼白かったりする。
その顔は、腐敗や生傷が絶えない。
中には、骨だけの兵士もいる。
彼等はアンデッド、つまり顔は元から傷だらけだ。
少しだけ顔を出して見れば、正面から連中の走って来る姿が見える。
危ない、いつまでも顔は出していられない。
『ドッドッドッドッドッドッドッドッ』
「ぐわあぁっ!!」
「ぐわっ!?」
味方の重機関銃の放った機銃掃射だ。
『バシャッ! バチャッ!!』
「ぐぅぅ・・・」
私の隠れる塹壕内に落ちてきた、兵士達の顔。
水溜まりに落ちた兵士の内、一人はスケルトンだった。
もう一人は、腐敗だらけのゾンビだ。
「・・・危なかったわ?」
私は牧杖を握りしめる。
ここは、戦場のど真ん中。
さっき始まった集中砲撃で、隊長達とは離れてしまった。
今の私は一人。
何とか、味方の陣地に戻らないと成らない。
何故なら、ここに居た味方は全員殺られてしまったからだ。
何時までも、ここに居ては魔皇軍に殺されてしまう。
神よ、どうか私を戦場の狂気から救いたまえ。
『ピッピィィーーーー!!』
「突撃ぃ~~~~!?」
警笛?。
また、突撃部隊の前進だ。
奴等、浸透戦術で弱そうな塹壕を突っついて来る。
そうして、防御線を崩して攻めてくるのだ。
『ドドドドドドドドーー』
『ドンッドンッドンッ』
短機関銃や砲兵拳銃で、武装した兵士達だな。
彼等が、戦線を切り崩しに来たのだ。
「急げっ!」
『カッカッカッ』
二枚の板を、勢いよく踏んで走る兵士が見えた。
軽機関銃を抱えたゾンビ兵だ。
(・・・不味い? 隠れよう・・・)
塹壕に掘られた横穴に行こう。
その時、水溜まりに自分の姿が、一瞬見えた。
ベージュ・ブロンド色のミディアムストレートヘア。
冷利な、瑠璃色の瞳。
長い睫毛。
頭には、白鼠色の司教帽を被る。
体には、同じ色の鎧を着て、その上から紫色のストラを垂らす。
『カチッ』
「動くな」
「しまっ?」
暗闇から銃を構える音と、敵兵士の声がした。
この横穴に潜んでいたのか、終わったな。
『ドンッ!』
『バタリ』
「えっ?」
撃たれたのは、私の後ろに居たグール兵だった。
奴は右手に、スコップを手にしていたようだ。
音もなく、私を背後から暗殺しようとしたのだな。
「危なかったな?」
「運が良かったな、あんた」
二人の人間達の声がした。
白鼠色の鉄兜、アドリアン・ヘルメット。
同色の軍服コート。
味方の聖光騎士団の兵士達だ。
軽機関銃を構える黒人兵士。
その隣で、散弾銃を両手に持つ灰髪の黒人兵。
この二人は、冒険者や傭兵だろうか。
確か、彼等の一部が義勇兵として、聖光騎士団に参加していたはずだわ。
「あんたも、生き残ったんだな? 俺はジョンソン、こっちの奴がロイド」
軽機関銃を握る、黒人兵士は、ジョンソンと名乗る。
よく見ると、彼は揉み上げから口まで髭を伸ばしている。
ロイドと紹介された灰髪の方が、彼より顔は若そうだった。
「私はパトリス・サリンジャーよ? 自己紹介より、早く味方の陣地に戻りましょう」
「あんたの言う通りだぜ、行こう」
ロイドは、散弾銃を構えながら外に出ていく。
その後を追って、私も続いて横穴から出ていく。
「戦線を突破したぞっ!」
「行けえぇーーーー!!」
外に敵は無く、声が聞こえてきた魔皇軍兵士の姿がない。
塹壕から顔を出して、味方の陣地を眺めた。
向こう側に、敵の姿はチラホラ見える。
「よし、奴等の背後を突きましょう」
「分かったぜ、向こうの塹壕から行くぞ」
私とロイドは右端に見える、味方の陣地にまで続く塹壕を通る事に決めた。
狭い塹壕内を通る私達だが、まだ敵は居ない。
と思ったのだが。
「居たぞっ!」
「見つかったぞっ!」
別動隊か、恐らく側面から奇襲を仕掛ける積もりだったのだろう。
だが、私達は殺られる前に殺るんだ。
「死になさいっ!」
『ボッボッボッボッボッボ』
私は、即座に牧杖を振るい、火炎玉を連射して奴等を牽制する。
「射って来やがったか」
「ぐわわーー!! あっ!
ああ~~~~」
塹壕の横穴に隠れた兵士達は、私の攻撃を逃れた。
だが、それ以外の逃げ遅れた兵士は、体が燃え上がる。
今ので、ゾンビ兵士二人が焼け死んだ。
『ドドドドドドドドッ』
『バンッ! バンッ! バンッ!』
『パンッ!』
短機関銃、騎兵拳銃《ロート9K》、小銃。
魔皇軍・突撃部隊は、私達を横穴に身を隠しながら、これ等を撃ってきた。
「早く身を隠せっ! 危ないぞっ!」
『ドドドドドドドドッ』
ジョンソンが叫び、軽機関銃を撃ちまくる。
「暴発連射で、撃ち返してやるぜっ!」
『ドンッドンッドンッ』
ロイドも、横穴に身を隠しながら散弾銃を連射する。
彼は、引き金を押し続け、ポンプを何度もカシャカシャと動かす。
「ぐわ? 殺られた・・・」
「ぎゃっ!!」
ジョンソンの乱射に焦った敵は怯む。
そこに、ロイドの連射した散弾で何人も殺られてしまう。
「呆気なかったわね?」
「いや、まだだっ!」
「奥に何か居るぜっ!」
私は、終わったかと思った。
しかし、ジョンソンは叫びながら横穴に身を隠す。
ロイドも、即座に横穴へ引っ込んだ。
二人の言葉に、私は直ぐ後ろに向き直り、射撃用の壕に隠れた。
『ドドドドドドドドドドドドッ』
「トレンチアーマーだぁーー!?」
「ダメだ、手榴弾がねぇ~~!!」
「諦めないでっ! まだ、何か作が有るはずよっ!」
激しい銃撃に、今度はジョンソンとロイドが怯んでしまう。
書く言う私もだが・・・。
敵は、ロブスターアーマーを着た突撃隊員だ。
頭には、追加装甲付き、シュタールヘルムを被る。
顔の方には、四枚板を繋げた防弾面を下げている。
これでは、顔面を狙った狙撃も無理だ。
『ドドドドドドドドドドドドッ』
『ブシュッ! ブシュッ! ブシュッ!』
トレンチアーマーを着た、突撃隊員は軽機関銃《シュパンダウ15》を撃ち続ける。
奴は、そのまま私達を追い詰めようと、ゆっくり歩いてくる。
不味いわーーアレ、百発も撃てるからね。
その後ろには、横穴から指揮棒を射ちながら前進する、指揮官が見える。
射っている魔法は氷系の冷凍ビームだ。
奴は、どうやらスケルトンらしく、黒い軍服に制帽を被る。
『ドドドドドドドドッ』
『ブシュッ』
どうしようかしら、奴等は依然として射ち続けながら前進してくるし。
『ドドドドドドッ』
「おい、もうそこまで来てるぞっ!」
『ドンッドンッドンッドンッ』
「隠れてねえで、撃ち返してくれっ!」
ジョンソンとロイド達は、銃を撃って、敵を牽制しながら怒鳴る。
と、言われても、私だって遊んでいる訳じゃないのよ。
「分かっているわよっ!」
今は、探し物を探して・・・。
「あった、ここに有るとは?」
『カパッ』
幾つか山積みされた箱木の中に、手榴弾が入っていた。
コレを使えば勝てるわ。
「今投げるわよっ!」
『ピンッ! ピンッ! ピンッ! コロコロコロロッ!』
「手榴弾がっ!」
「うわっ!」
これで、終わりよ。
バラバラに、吹き飛びなさい。
『ドガーーンッ!!』
二人纏めて倒せた見たいだわ。
やった、遂にやったんだ。
敵を倒したから、後は味方陣地を目指すだけ。
「やったな? さあ、帰ろう」
「これで終わりか、ふぅーー?」
「えぇ、帰りま・・・」
『ドーーンッ!』
ジョンソンとロイド達は、安堵したらしいわね。
もちろん、私も胸を撫で下ろしたわよ。
って、今のは何、また砲撃が始まったの?。
近くの豪が、今の砲撃で土煙を派手に舞い上げた。
「何だ、何なんだよっ!」
「あっ! 戦車《AV7》だっ!!」
ずんぐらとした黒色の角張った芋虫。
その正面には、象鼻の如く、短砲が此方を向いている。
「うあああああああああっ!!」
「おらーーーーーーーーー!?」
その後ろから、沢山の突撃隊員が走ってくる。
不味い、後続部隊による波状攻撃だ。
これは、逃げながら戦うしか無いわね。
短編だから、もう一話で終わるよ。
時代は、魔法が使えるWW1って感じだわ。
後、コレ人気だったら本編を書こうかと思ってるんだ。