7 少女の秘密
胸までかかる長い黒髪、短めのプリーツスカート。そんなどこにでもいる少女の特徴を持った彼女は、だがしかし、確かにタクミが探し求めていた少女で間違いなかった。
「アヤカ。……サンドウアヤカ、さん。……だよね?」
どこかぎこちないタクミの言葉。それを聞いた少女──アヤカは笑みをこぼすと、タクミに向かって静かに頷いた。
「アヤカって呼んで。……前はそう言ってくれてたから」
そんなアヤカの様子から、タクミは自身の仮設が正しかったことを確信する。
「──! やっぱり! ってことは君もループして──」
「もう、遅いよ。待ってたんだからね」
鈴の音のような声音を放つアヤカ。その声は以前のループで会った時よりもどこか柔らかく、同時に懐かしく感じた。
「ご、ごめん。でもまだ自分でもよく分かってなくて……」
「大丈夫。こっちこそなんか色々ごめんね。ちゃんと全部説明するから許して。私を迎えに来てくれた王子様」
言うと、アヤカはいたずらな目をこちらに向け、小悪魔のように微笑んだ。こちらをからかっているのだろう。だが、それが分かっていたもなお、タクミの心臓の鼓動は高まっていく。
「お、王子様ァ!?」
タクミはアヤカの言葉に耳まで真っ赤になってしまう。その反応に満足したのか、アヤカは八重歯が見えるくらいに大きな笑みを浮かべる。
「あはは。冗談よ。……それとも本当の方がよかった?」
アヤカは垂れた横髪を掻き上げる。光が当たってより鮮明になったアヤカの眼差し。その目を上目遣いにしてタクミを見つめてくる。
「ッ! さ、さっさと本題に移ろう──」
その視線を受けたタクミはどきりと反応する。それを隠すために慌てて違う話題を振る。その反応を見て満足したのか、アヤカは真剣な表情に変わる。
「フフ。そうね。──最初に言っとくわ。ループの謎は私にも分からない。だけど、私の知っていることは全部話すわ」
そして、彼女の知る秘密を語りだしたのだった。
「──まず、私達は同じループの中に囚われているわ」
「同じループ? それはどういう……?」
「そうね。言い換えれば二人で一つのループを共有しているということよ。ループする条件を満たすと二人同時にループの開始地点に戻されるわ。そしてループの条件は──」
「──俺の死、ってことか」
「ええ。タクミが死ぬと私も強制的にループの開始地点に戻される。そして、私たちは今まで何回もループを繰り返しているわ」
タクミは今までのことを思い出す。確かに今までのループは全てタクミの死がきっかけで起こっている。タクミの死でアヤカもループするとは思いもしなかった。
「そして、ループの記憶に関してだけど、ループは毎回記憶を引き継げるというわけじゃなくてね。今回のあなたみたいに記憶を引き継がないでリセットされることがあるの。──どうやら私たちはある程度の回数を繰り返すと前回までのループの記憶がなってしまうの」
「記憶のリセット、か……」
なるほど。最初の周回よりも前の記憶が失われているのは、記憶のリセットが原因によるものだったのだ。
「けれど、私とタクミとで記憶がリセットされるタイミングが違っているの。だから記憶が残っている方がリセットされる方に今までのことを伝えて記憶が途絶えないようにしているの。ちょうど今みたいに。私も前回記憶をリセットされた時にあなたからこれを教えられた」
タクミは今までに伝えられた情報を整理する。
タクミとアヤカは今までに何回もループを繰り返していたのだ。記憶を失いながらも何度も何度も。そしてループを繰り返すたびに強くなってきたのだ。
「そうか。だから君が強かったのか」
ループの繰り返しで強くなっていく。それがアヤカの力の源だったのだ。
「それはタクミ、貴方もよ」
だが、タクミのたどり着いた答えに対して、アヤカは驚きの事実を付け足した。
「え? おれも!?」
「リセットされるものは記憶であって肉体は例外なのよ。テロリストと戦ったことを頭では忘れていても体では覚えている。たとえ戦いでの記憶をなくしてしまったとしても戦闘のスキルは積み重なっていく。そうして私たちは強くなっていく。だから…… あの時もそうだったじゃない。私が少し銃の扱いを教えただけであなたはテロリストを何人も撃退できた。あれは肉体が戦いを覚えていたからよ」
「そ、そういう──!」
タクミは今までの戦闘を思い返す。教室で戦ったテロリスト。教室で銃を乱射する敵を、タクミは狙撃で倒した。それも一発で。あれはシミュレーションしていたからできたのではない。あれは、タクミが繰り返すループの中でその能力を鍛え上げたのだった。他もすべてそう。タクミが今まで倒してきた敵は彼が脳内でシミュレーションしていたから倒せたのではない。彼が戦いを重ねていく上で身に着けたものであったのだ。
「理解できたみたいね。あなたもループの中で戦いの能力を身に着けて行ったのよ」
「な、なるほど。そういうことだったのか」
「そして、私は前回のあなたから伝えられた。──屋上へ向かえ、と」
タクミはアヤカと目を合わせると大きく頷く。
「屋上には真実がある。だから屋上に行って真実を知る必要がある、ってことか」
「ええ、そういうこと」
タクミの視線に彼女も頷き返す。二人は覚悟を決めたのだった。戦いに向かう覚悟を。真実を知る覚悟を。
「行こう。すべての真実を知るために。屋上へ──」
──そうして、すべての真実を解き明かすために、二人は再び屋上へと向かうのであった
次回はボス戦です。上手いかは置いといて戦闘描写を描くのは好きなので、楽しんでいただければと思います。