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5 道程

ここまで読んでくださりありがとうございます。ぜひ感想や評価などお願いします。

「これで……どうだ!」


 廊下に備え付けられている消火器に向かってタクミは銃を発砲する。銃弾は消火器を貫通し、中から大量の白煙が漏れ出す。その付近にいたテロリスト達は視界が奪われたことによって混乱状態に陥る。


「今だ!」

 

 タクミは少女に向かって合図を出す。少女はタクミの合図を確認すると、物陰から飛び出してテロリストに向かって銃弾を浴びせる。

 少女の攻撃を受けたテロリスト達は断末魔を上げ次々と倒れていく。白煙が晴れた後にその場に立っていられた者は一人としていなかったのであった。


「──ふぅ。一件落着ってとこか。やっぱすげぇな」


 制服についた白煙を払う少女。タクミはポケットからハンカチを取り出すと、そっと彼女に手渡す。


「消火器のサポートをしてくれたおかげだよ。ありがとね」


 彼女はそれを受け取ると、制服の袖についた白煙をパタパタと払う。二人の表情は自信に満ち溢れている。


──二人は屋上へと向かうために、道中のテロリストと対峙していたのであった。


 タクミはちらと後ろを振り返る。ちょうど反対の突き当り付近、遠くの方に小さく見えるのはタクミ達が出発したトイレである。そしてもう少し手前、人の表情が認識できるくらいの距離のところには、割れた窓ガラスの破片と共に2人の黒ずくめの亡骸が倒れている。今さっき撃退した者も含めると、タクミらは既に2組のテロリストの撃退に成功していたのだった。


「これであともう少しってとこか」


「そうね、突き当りにある階段を上れば屋上にいけるはずよ」


 彼女が指差す方向をタクミも見つめる。屋上へと続く階段はもう目の前に来ていた。


「よっし。がんばるか」


 タクミは少女を見つめると、お互いを鼓舞するような眼差しを向ける。と、


「ああ、顔に返り血がついちゃってるよ」


 タクミは少女の頬に返り血がついているのに気づく。学ランの袖を伸ばし、彼女の頬に近づけて拭おうとする。


「ほんとだ…… え、あ、え!?」


 だが、突然顔を触られたことで少女が驚きの声を上げる。少女の反応で、タクミも自分が無意識のうちに出過ぎたことをしてしまったことに気づく。


「あ、ああ! なっ、何やってんだ俺。ごめん急に」


 タクミは慌てて差し出した手を引っ込める。タクミの顔は恥ずかしさと後悔で真っ赤に茹で上がる。いつものタクミなら女の子に対してこんなに積極的なことなんてできないはずだ。……確かに、実を言うと、こういった甘酸っぱい恋愛劇も妄想の対象だったりするものだが、それこそ妄想の話だ。今回はテロリストの撃退が目的なわけで、空から降ってくる女の子がテーマではない。が、少女もまたタクミ以上に顔を真っ赤に茹で上がらせ、タクミの想定外の反応をする。


「あ、いや、別に大丈夫。……じゃあ、せっかくだし取ってよ」


 彼女は甘い声音を上げると、タクミのほうへ顎をくいっと近づける。それはつまり、タクミのことを受け入れると言う意思表示である。タクミの顔は驚きと恥ずかしさでこれ以上ないくらいに真っ赤に染まる。恐る恐る彼女の頬に手を伸ばす。


「え? あ、ああ。分かった……」


 タクミは彼女の真っ赤な頬に袖口を当てる。袖越しでも分かる艶のある肌触り。もちもちとしたその感触、それを初めて味わうタクミの心臓は最高潮に高鳴っていた。頬を拭われる彼女の目線がタクミのそれと交わる。彼女のつぶらでまっすぐな瞳にタクミは焼き殺されるんじゃないかというくらいに体温が上昇した。


「……拭けた、かな──」


 タクミは彼女の頬を確認し、汚れが落ちていることを確認する。いや、正確にはそんなことを確認する余裕なんてなかった。彼女の視線に焼かれ、頭の中が真っ白になってしまったせいだ。ただ、もう限界である。これ以上彼女の視線に当てられたらどうにかしてしまいそうだ。それに彼女に汚れてる部分なんてない。そう言い聞かせ、タクミは彼女の頬から手を離す。


「んっ。──ありがとう」


 彼女はこちらの様子を窺がうように見つめる。タクミの様子がおかしいことを心配しているようだった。


「大丈夫? 少し休む?」


「い、いや。大丈夫だ。先に進もう」


 タクミはようやっとの思いでその場を立ち上がる。ぼやける思考の中で必死に言葉を紡ぎ出す。


「うん、そうだね。──進もう」


 その言葉を聞いた彼女も大きく頷く。その場を立ち上がると、スカートのよれ・・を直す。

 そして、屋上へと続く階段へと向かうのであった。


──それからのことは正直よく覚えていない。


 敵を大勢倒したかもしれないし、誰とも出会わなかったかもしれない。ただ一つ言えるのは、屋上へと続く階段にたどり着いたということと、目の前にいる少女が険しい顔でこちらを見ているということだけだ。


「──!」


 彼女はこちらに向かって何かを叫んでいる。が、その言葉は聞き取れない。ああ、必死になっている顔もかわいいな。タクミはそんなことを思う。しかし、タクミのそんな思考は彼女の平手打ちで覚まされることになる。


「タクミ! ねぇ、聞いてってば!」


 タクミの意識が現実に戻される。タクミはぼやける思考に喝を入れる。


「! ご、ごめん。もう一回言ってくれ」


「わたしが牽制するからその隙にあなたは敵のところに突っ込んで!」


 彼女の言葉が理解できないタクミ。急いで周りを確認する。見ると、タクミがいるのは階段の踊り場。物陰に隠れるように位置していた。そして、目の前のいる彼女は階段上を指差していた。タクミもそれに倣い、その場所を目だけを覗かせて確認する。しかし、何も確認することができない。彼女が言うにはそこに敵がいるのだという。


「あ、ああ。分かった」


 タクミは生返事をしながら状況を整理する。タクミは戦いの真っ只中にいた。階段下の折り返しに位置するタクミらと階段上に位置する敵。お互いが睨み合いを利かせている状況であった。タクミはぼーっとしていた頭を切り替え、戦いに順応する。


「あの人……、すごく強い。多分襲撃してきた中で一番。今までとは比較にならない」


 少女の顔が強張る。今までテロリストを難なく撃退してきた彼女がそう言うということは、階段上にいる敵は相当の実力の持ち主なのだろう。タクミも気を引き締めるために手にする銃を握りしめる。


「なるほど。ってことはあいつが今回のボスって感じか。いよいよクライマックスか」


 タクミは状況を把握する。屋上へと向かう最後の障壁。これが俗に言う最終戦なのだろう。タクミの呟きに同意するように少女が返事をする。


「……少なくとも戦闘力はね。──じゃあ、やるわよ。お願いね」


「分かった。任せて」

 

──そして彼女の言葉を皮切りに二人は戦闘を開始する。


 少女は銃を発砲しながら階段の影から身を乗り出す。敵が隠れているであろう場所に銃弾を撃ち込み、敵が身を乗り出して反撃できないようにする。


「今よ! 行って!」


 少女の合図を聞いたタクミは少女の脇から勢いよく飛び出す。


「了解! 行くぜ!」


 タクミも銃を発砲しながら階段を駆け上がる。タクミが目指すのは階段上の折り返し。敵が潜んでいるであろう位置まで一気に近づいて奇襲をかける算段だ。


「うっしゃ! このまま一気に片をつけてやるぜ」


 少女の発砲する銃弾と共に、タクミは階段上の踊り場までたどり着く。体をひねり数段上に隠れているはずの敵に銃口を向ける。


「──お前か!」


 タクミは敵の姿を視認する。その相手はタクミよりも1回り以上大きく、黒ずくめの装備の上からでも分かるたくましい筋肉が特徴的だった。まさに最終戦に相応しい相手だ。だが、タクミはその姿に怖気づくことはない。なぜなら手にする銃の引き金を引いてしまいさえすればどんな敵であろうが関係ないからだ。タクミは引き金を引いて戦いを終わらせようとする。が、


「ぐっ、はっ!」


 突如タクミの体は制御を失う。駆け出したはずの体は反対の方向に押し出され、引き金を引こうとした手からは銃がすっ飛んでいった。タクミの眉間にはぽっかりと穴があけられていた。敵の正確な射撃によって、タクミの奇襲が失敗に終わったのだった。薄れゆく意識の中タクミは敵の銃口がこちらを向いているのを確認する。


「そうだよな。そりゃそんな簡単にはいかないよな」


──そうしてタクミの意識が遠のいたのだった。


「この問題は数列の初歩的な考えを使えば解けるのであって──」


 教壇に立つ初老の教師の機械的でか細い声が、この静まった空間に響き渡る。長かった夏も終わり、灼熱の太陽がうろこ雲に覆われてその勢力を弱める季節。備え付けられたベランダからは、あれだけうるさかったセミがその背をひっくり返して力尽きているのが見える。

 そんな夏休み終わりの秋の教室で、彼──アキツ・タクミの意識は覚醒したのであった。


──やっちまったな


 タクミは意識の覚醒と共にそう思う。少女とのことで少し浮かれ過ぎていたようだ。現実はそんなには甘くない。思考も曖昧な状態で勝てるほど簡単ではない。


「まぁでも最終戦がそんな簡単に終わるわけないわな。……ちょっと頭冷やすか」


 タクミは大きく深呼吸をすると、例のようにシャープペンシルと胸ポケットにしまい、いつでも投げられるように椅子を構え、教室に襲撃する予定のテロリストとの戦いに備える。そして、アナウンスと共に教室に侵入するテロリストとの戦いを開始する。だが、一回倒した敵との戦いは存外簡単に片をつけることができた。あっという間に仕留めると、涼しい顔をしながら教室を脱出する。


「彼女に会いに行くか」


 そして前回と同様に彼女のいる教室へと向かうことにする。踵を返し、件の教室へと向かう。


「なんかおかしいな?」


 だが、ふとタクミは違和感を感じる。前回あったはずの悲鳴も銃声も聞こえない。タクミ以外の教室には襲撃がなかったのかと錯覚するほど静かな教室。違和感を抱えたながらも、タクミは少女のいるはずの教室へとたどり着く。取っ手に手をかけて扉を開ける。


「──え?」


──だが、そこに彼女の姿はなかったのであった。

彼女と戦う夢のようなひと時、それは夢か妄想か。急展開のループを迎えたタクミはどうするのか。ぜひ続きをお楽しみください。

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