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2 コンティニュー

「この問題は数列の初歩的な考えを使えば解けるのであって──」


 教壇に立つ初老の教師の機械的でか細い声が、この静まった空間に響き渡る。長かった夏も終わり、灼熱の太陽がうろこ雲に覆われてその勢力を弱める季節。備え付けられたベランダからは、あれだけうるさかったセミがその背をひっくり返して力尽きているのが見える。

 そんな夏休み終わりの秋の教室で、彼──アキツ・タクミの意識は覚醒したのであった。


「は──?」


 タクミの口から驚きの声が漏れる。彼の周りにいる数人の生徒が彼にちらと視線を向ける。タクミはそれらの視線に遅れて気付く。と、彼の頬が熱湯に入れられたかのように赤く茹で上がる。


「あ、ゆ、夢……か」


 タクミは今までのことが全部夢であったことに気づく。クラスメイトがテロリストに殺されたこと、そして自分も殺されたこと。そう、あれは全部夢だったのだ。夢と現実の区別がつかずに慌ててしまったことに恥ずかしさを感じ、急いで机に突っ伏して顔を隠す。そんな様子を見た周りの生徒が彼を見てクスクス笑っているのが分かる。


「アキツお前寝ぼけてんのかよ」


「ぎゃはは。さすがにそれはやばいわ」


 お調子者数人がタクミをからかったせいで、クラス全員が異変に気付いてしまう。なんだなんだと言わんばかりに顔を覗かせて、タクミの方を向く。教室がざわざわと騒がしくなったのを感じた教師が生徒たちのほうへ振り返ると、深いため息を漏らす。


「はぁー。アキツ、お前か──」


──と、


「オガサハラ先生。ご来賓の方がいらっしゃいました。至急職員室にお戻りください。繰り返します。オガサハラ先生。職員室にお戻りください」


 チャイムの音と共に聞き覚えのあるアナウンスが響き渡る。

 その音を聞いたタクミは、突っ伏していた顔を起き上がらせる。


「ウソだろ!? なんでこのアナウンスが鳴ってんだよ」

 タクミが急に起き上がったのにびっくりして、クラスメイトが声をかける。しかし、その声にタクミは見向きもせずに思考を続ける。


「おかしい…… おかしい」


 タクミの額から汗がにじみ出る。間違いない。これは先ほどまでの夢でアナウンスされた内容と同じものである。いや、夢などではない。あの時の感覚、痛み。あれらは夢ではなかった。タクミの脳に染みついたあの痛みは間違いなく現実のものであった。


「デジャヴ……じゃないよな。なんであの夢と同じことが起きてるんだよ」


 タクミは嫌な予感がするのを感じた。背中をぞくっと汗がなぞり落ちる。タクミは直感した。テロリストやつらが来ると。そして、殺されると。

 タクミは席を立ちあがり、肺に大きく息を吸う。そして、クラス全員に今から起こることを呼びかけようと言葉を発す。教師の頭が吹き飛んだのはそれとほぼ同時のことだった。


「全員伏せろーーーーーー!!!! テロリストやつらが来る!!!!!」


 その言葉を皮切りにテロリストによる襲撃が始まった。あの時と同じように教室の前方から黒ずくめの人影がこちらに走り寄ってくる。その人数は一人。その人影はクラスメイト目がけて銃を乱射する。


「うわあああああ。あっ。ぐふぅ……!」


「きゃああああっ!!!!!」


「待て待て待てまっ!!!!」


 あの時と同じようにクラスメイトが次々と倒れていく。その様子をタクミは呆然と眺める。


──夢じゃない。これは現実。これは、まさか──


 タクミは抵抗することもせずに立ち尽くす。頭の中が混乱していた。それを落ち着けるために必死に考え続ける。そして、一つの答えへとたどり着く。


──まさか、ループしているのか!?


 そして、タクミの脳天に銃弾が貫通したのであった。


「この問題は数列の初歩的な考えを使えば解けるのであって――」


 教壇に立つ初老の教師の機械的でか細い声が、この静まった空間に響き渡る。長かった夏も終わり、灼熱の太陽がうろこ雲に覆われてその勢力を弱める季節。備え付けられたベランダからは、あれだけうるさかったセミがその背をひっくり返して力尽きているのが見える。

 そんな夏休み終わりの秋の教室で、彼――アキツ・タクミの意識は覚醒したのであった。


「なるほど。そういうことか。そういうことなんだな」


──タクミはようやく気付く。今起きていることが何なのかを。そして、何をすればよいのかを。


「学校に侵入するテロリスト。それをなぎ倒す俺。そして、やり直しのオプション付き」


 タクミがやることは一つ。この際、テロリストが襲撃してきた理由もループの理由もどうでもよい。タクミは待っていたのだ。こういったシチュエーションを、妄想が現実になるのを。


「やってやる、やってやるぜ!」


 己を鼓舞するタクミ。その決意を受け取ったかのように例のアナウンスが流れる。


「オガサハラ先生。ご来賓の方がいらっしゃいました。至急職員室にお戻りください。繰り返します。オガサハラ先生。職員室にお戻りください」


──そして3回目の戦いが始まったのであった。

皆さんは学校でテロリストと戦う妄想したことありますか?

完全武装した相手にどうやってありあわせの道具で立ち向かっていくかを考えるのは楽しいですよね。

でもよく考えたら学校にテロリストが襲撃するメリットってないですよね。主人公を倒したいから?要人の愛娘を誘拐したいから?はたまた学校内にお宝があるから?

今回の作品ではどうなのか、そちらも楽しみに読んでいただければと思います。

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