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〜 漆黒の守護者 〜 第六話

 †GATE−6 相部屋


 暖かな日差しが西に大きく傾き、大地が燃える様な赤に染められた街道を歩く二人の姿がある。

 シオンとアイナは王都オースティンの守護者ギルドローゼアールヴァルに向う途中。


「うぅ! シオンー、もう歩けんですぅ」

 アイナが疲れ果て駄々をこね出した。


「少し前に治癒の魔法掛けてやったろ」


「でも疲れたですぅ。なぜ馬を返したですぅ」

 アイナは、そう言うと剥れて座り込んでしまった。


 魔法は万能ではない。

 治癒魔法と言っても気休め程度だ。

 傷や病気が完全に回復全て無く、ましてや死人が生き返る事等ない。

 魔法が万能ならば医者も移動の場車も、この世に存在しない筈だ。



 シオンは治癒系魔法は苦手だが、魔力をケチった訳ではなく、魔力をなるだけ万一に備え温存して置きたいのだ。


「ほら、もう少し歩けば草原に出る。ゴーレム呼び出して乗せてやるから」

 そう言って駄々をこねるアイナに促した。


「いやぁですぅ。足痛いですぅ――」

 アイナは言葉に耳を貸さず更にごね出し始めた。


「仕方ねぇな……子供かお前は」

 シオンが背中に背負った鞄から膝掛けになりそうな厚手の布を取り出しアイナに手渡した。


「それ持ってろ」


 シオンは、アイナの隣にしゃがみ込むとアイナの肩口と膝裏に腕を回すと抱え上げた。


「なっ! なにするですぅ」

 アイナは突然抱え上げれ驚いた様子でシオンを見た。


「もう直ぐだから抱えて行く」


 少し照れた様でシオンは視線を外しアイナをお姫様抱っこすると歩き出した。

 恥ずかしいけど、嬉くもある。それにとても安心するアイナはシオンの腕の中で思った。


「お前少し重くなったか?」

 シオンが笑った。

 バシッ、と良い音が夕暮れの街道に響いた。

「し、失礼な! レディに向ってなんて事言いやがるですかぁ」

 顔を赤くしたアイナが歯を剥き出して怒った。


「お前! 殴るこたぁないだろ」

「お、降ろしやがれですぅ」

 抱えられた腕の中でアイナが暴れ出す。


「脚痛いんだろ? 暴れんな! 本当に降ろすぞ」

「……」

 シオンがそう言うとアイナが暴れる事を止めた。

 アイナもシオンの腕の中は心地良く、本心はこのままで居たいのだ。

 

 暫らく二人は言葉を交わさずに歩いた。

 アイナが恥かしそうに指をもじもじさせシオンに尋ねた。


「そ、そんなに重いですぅ?」

「別に」

 むすっとした声で短く答えた。


 街道から外れ草原に出た頃にはすっかり暗くなり始めていた。


「暫らく、ここで休憩」

 シオンが抱えていたアイナを降ろした。

「そんなに重いですかぁ」

 俯き小声でアイナは呟いた。


「違う! 夜が更けるまで休憩するだけだ」

 相当気にしてるなとシオンは思った。




「今夜は、ここで野宿ですぅか?」

 アイナが不安そうに尋ねた。

 外で? 昼間からもなんだけど夜だけど外で? 星が綺麗でロマンチィクですぅけど……。


 ――ああ、ごめんなさい母様アイナは今日女の子から女性になるですぅ、お星様の下でアイナの純潔は奪われるですぅ……。

 

 アイナが思っているとシオンの腕が細い肩を抱き寄せ、シオンの羽織っているローブに包まれ抱き寄せられた。


「冷えてきたな、寒いだろ? 暖めてやる」

 シオンが飛んでもな事を、さらりと言った。


「シ、シオン? あのねですぅね? その……こうゆのアイナは初めての事ですぅし……そ、外というのはですぅねぇ……野宿では身体とか洗えないですぅし……」


「大丈夫だ。今日中にはギルドに戻るさ」

 シオンが自信に満ちた顔を見せ、意気揚揚としている。

 



 どうしょう。もう覚悟を決めるですぅ! アイナはそう思いシオンに身を寄せた。


 (アイナはシオンが大好きですぅ。シオンのものになれるならそれで良いですぅ)


 シオンは身を寄せるアイナを優しく包み込みアイナを抱きしめ言った。


「そろそろ行くか」

 シオンが何時かの文字の浮かび上がる不思議ブレスレットに手を持っていく。

 

 


 シオンの髪が月明かりに照らされ淡いブルーの銀髪が僅かに揺れた。


 (シオンやっぱりかっこいいですぅと思い覚悟を決め言った)


「シ、シオン? 優しくしてですぅ」

 覚悟を決めアイナは静かに目を閉じた。

「ああ、なるべく痛く無い様にやる」


「シオン! 準備してきたよ」

 リーシャの声が突然アイナの耳に飛び込んだ。


「へぇ?」

 アイナはきょとんとして呆然としている。


「久ぶりだね」

 

「シオンのゴーレム。遺跡で二機見つけた。でも反応しただけだぉ」


「サンキューな」


「あれ? シオン? 優しく抱きしめてくれたですぅ……あれ? 初めての……」

 何がどうしたのか分からないアイナだった。


 あの時、シオンはアイナが寒くて身を寄せたのだと思い抱きしたのだ。

 呆然としていたアイナの頭がなんとな――く現状を理解し始める。


「いくぞ。ゴーレム呼び出して乗せてぇ――」

 シオンが全てを言い終わる前にアイナにボコられた。


「どうしたのアイナ? 顔赤いよ。て! オンなんで殴てんの?」

 リーシャが笑った。


「し、知らんですぅ」

 アイナの何処からかくる怒りが夜空に木霊した。

 

「シオン? そろそろデミ・ドラゴン買うかそこら辺の幻獣を飼いならせば」

 リーシャが羽をバタつかせ後ろに腕を組んで軽く、くの字前屈する姿勢でシオンの顔を覗き込んだ。


「あれ高いんだよ。それにAMRSの予備機見つけたし」

 意外とケチなシオンだが、依頼の殆どがCランクでは仕方ない事だった。

「お前は小さいからそんなに飯代掛んねぇけど」

「それも分かるよ。でもあれはゴーレムじゃないし異形の物なんだぉ? まともに動かないし」

 ボコられ倒れていたシオンが起き上がった。


「なんか、文句あんのか!」

「ある! 私は一応心配してるんだぉ? 異形を扱う者の遭う危険を懸念して」



「まぁ、確かにAMRSは整備も必要だし整備するにも施設ねぇし、依頼増えたら移動に時間割け無くなるから、その内考るさ」

 シオンはリーシャの言った事を考えた。

「確かに人目に付かない時にしかAMRSは使えない」

「デミ・ドラゴンなら餌も要らない」


 デミ・ドラゴンは自立した意思を持つが知能は低い。


 人形みたいな物で食料は要らないが、デミ・ドラゴン程の大きさの魔法生物はそれなりに値段が張る。

 竜騎士の殆どが、デミ・ドラゴンを使っているのは、現在種の竜は異種族の中でも最強で気難しく、手懐け上手く扱えるまでに時間も掛かる。

 それに冒し捕獲する必要もあった。

「だから、それなりの値段がするってぇの」


「ギルドにソーサラー(魔法動物、人形等を作り出せる魔法使い)は居ないの? 安く創って貰えばいいじゃん」


「居ると思うけど、詳しくは知れねぇ」


「なら、聖獣でも捕獲しに行く?」


「そうだな? 考えとく」


「そうしなよ。私も手伝うから」


「捕まえに行くっても依頼もあるし餌代も掛かるしどうするかな」

 シオンは悩んでいが、アイナが目を輝かせて言った。


「アイナはペガサスがいいですぅ」


「お前が使う訳じゃねぇだろ」


「だめですぅ! 絶対! ぜぇ――たい、ペガサスがいいですぅ」


 ペガサス、ユニコンも十分気難しい聖獣だ。

 アイナが言うのは幼い頃に少女の抱く白馬の王子様的、ただの憧れからだ。


「なんでそんなに拘るんだ」


「それはですぅねぇ――真っ白なペガサスに乗ってシオンがアイナを迎えに来るですぅ」

 アイナは爛々と目を輝かせた。


 (迎えにも何も今、その真っ最中なのだ。ペガサスは居ないけど)

「そろそろいいだろ。AMRS誘導するぞ」

 シオンはブレスレットを操作しAMRSに信号を送った。


「シオン記憶もどったのでぅ?」

「戻ってない……思い出とか全く」

「だって、ブレスレット、ちまちま弄れてるって事は記憶が戻ったんじゃ……」

「そうでもない。記憶にも色々あるみたいだ。来るぞ」


 遠くの夜空に甲高い鳴き声が聞こえ始めた。あの時シオンが使ったゴーレムの鳴き声。


 シオン達は闇夜に降り立ったAMRSに乗り込み午前を回る前に街外れの草原に着いてしまった。


「ギルドに帰るか。評議会への報告は入ってると思うけど監視の魔法生物が全部帰るのは早くて明日の朝だろうし」


 ギルドは街外れにある。


 まずギルドマスターのモルドールの方に先に報告を入れる事にした。ギルドの一階は酒場になっているので、まだモルドールは酒場に居るだろう。


「マスター! クラウス公爵様より承った依頼完了しました」

 シオンがモルドールに報告すた。


「まあ! 随分早いじゃないのシオンくん」


 人見知りのアイナはシオンにしがみ付き後ろに隠れている。


「その娘さんがクラウス公爵の依頼の人物? まぁ! 可愛い娘さんねぇ」

 モルドールは何時もの様の身体をくねらせアイナを見て言った。


 くねくねと身体を動かすモルドールを見てアイナが毒霧を言い放った。

「な、なんですかぁ、このクネクネは」


「おまっ! 馬鹿! お前の新しい雇い主で住む所を世話してくれる。このギルドのマスターだぞ」

 シオンが慌てた様子でアイナに告げた。


「そうよ。宜しくねぇ。 それとシオンくん? それだけじゃないでしょ! 薔薇妖精の酒場ローゼアールヴァルの夜の妖精。ママのモルドールよ。最後まで紹介なさい」

 モルドールが歪な笑みを浮かべて言った。


「貴女、お名前は?」

「アイナです」

 シオンが人見知りのアイナの代わりに答えた。

「マスター、クラウス公爵から聞いてますが、アイナ部屋は何処です?」


「……アイナちゃんのお部屋? ……大変! 忘れてたわ……ごめんなさいね。昨日から一人ギルドに住む事になった新人さんがいるのよ。その子に部屋を使う様に言っちゃったわ」

 モルドールが割れた顎に手を当て擦りながら困った様子をして二人に目をやった。


「マジですか? マスター」


「そうねぇ――、公爵との約束もあるし……そうだ! 当分シオンくんの部屋に一緒に住みなさいな」


「ちょ! ちょっとマスター、アイナは女ですよ! こんなのでも」


「シオン! こんなのとはなんですぅ! こんなのとは!」


「見ればわかるわ。それがどうしたの?」

 モルドールは何をそんなに驚いてるのという様だ。

「俺は男ですよ?」

 シオンが言い、言葉を続ける。

「アイナは色々困る事もあるだろうし……」

 シオンが困った顔をした。

「そうなの? まぁいいじゃない男も女も関係ないでしょ?」


 (そりゃ! あんたは中間中性みたいなもんだから)


 アイナは困る事ってなんだろうと呑気に思うのだった。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回の更新もお楽しみに!

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