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〜 漆黒の守護者 〜 第五話

 †GATE−5 待ち人


 晴れ渡る青い空の下、街道を疾駆する馬に跨る黒いローブに身を纏った少年の姿があった。


 ガーディアンがローブで姿を隠す事は少なくない。世に名声を馳せ有名になり厄介な事も増える。

 身近な人物を人質に取られ重要な依頼に支障をきたしたり、親しい人物に害が及ぶ事を避ける為だ。



 シオンは依頼の主の屋敷に向っていた。

 暫らく駆けた所で大きな屋敷が目に飛び込んだ。


「あの屋敷だ。でぇけぇ」

 屋敷の大きさに目を丸くした。

 

 周りの街並みが小さい分、その大きさは王都の宮殿より際立って大きく見える。


「依頼主も屋敷? きっと由緒ある大貴族だね」

 シオンの肩でリーシャが言った。


「マスター間違って依頼書渡したんじゃねぇの?」


 こんな屋敷の人物をシオンは知らない。

 シオンを知っている人物でなければ新人ガーディアンに、こんな屋敷の依頼主の要人護衛を任せる筈がない。

 戸惑いながらシオンは馬を駆けさせた。




 屋敷では涙ぐむ少女が玄関口に立っていた。


「長らく世話してやったですぅ。元気にしてや……がれ……ですぅ」

 涙ぐみながらクラウス公爵に挨拶をした。


「世話になった。元気に暮らすんだよ」

 公爵は我が娘を送り出す思い出で涙を隠し微笑んだ。


「元気でね。母様に会ったら元気にしてるから心配しない様に伝えて」


「ラ、ランスも元……ぎで……いずのでずよ」


「ほら泣かないで、僕まで、涙がででぐるぅ」

 堪えていた涙を零した。


「そろそろ、迎えが来る頃だ」

 公爵が時計に目をやって呟いた。


「迎えですか?」

 ランスが不思議そうに尋ねる。


「若い娘を三日間程の長旅に一人で出せるもんかね」

 公爵は微笑みを浮かべるとそう言って笑った。


「護衛を依頼した。私が発起したギルドだよ? 私が使わなくてどうするね」


「ありがとうございます」

 二人は公爵に深々と頭を下げた。


 公爵の目に馬に跨る黒いローブの人影が映った。

「来た様だ」

 人見知りのアイナはランスの後ろに隠れて様子を窺う。


 黒いローブの左の肩口に鮮やかな赤い薔薇と上下から持ち上げる二体の妖精の刺繍が施してある。

 それはローゼアールヴァルのギルドシンボル。


 その人物が馬から降りると依頼主に挨拶をする。

「この度の依頼を請け賜りますローゼアールヴァルの守護者です」


 アイナとランスの声に聞き覚えがある。まさかと思が、アイナは確信があった。

 ずっと逢いたくて仕方なかった人物の声。


 ――間違いない。


 ローブの人物が頭に被って顔を隠していた外套を取ると日の光にほのかに淡いブルーが浮かぶ銀髪の髪が姿を現した。


 シオンは依頼主の屋敷の大きさで、ただならぬ人物と思い、片膝をつき深く頭を垂れ一礼をしている。

 その為、シオンはアイナとランスに気付いてなかった。

 人目に付く時はリーシャは大抵ズタ袋の中に身を隠している。


 ガーディアンは身を隠す代わりに自分のパーソナルシンボルをローブの背中に刺繍を施しそれが代名詞となる。

 シオンの背中には角を持つ変わった形のゴーレムが光沢のある黒い刺繍糸で縫い付けられている。


 隠れていたアイナが飛び出しシオンに抱きついた。

「シオン! 逢いたかったですぅ」

 突然の出来事にシオンは驚いた。


「な、なんだ? アイナなのか?」

 シオンがアイナの声に気づいた。


「シオン久しぶりだね」

 ランスが歓喜に満ちた声が溢れた。


「ランス久しぶりだな」

 シオンの声も喜びで満ちている。


「依頼の主はクラウス公爵ですね」

 

「如何にも依頼を出したのは私だが、護衛をして貰いたいのは彼女だよ」

 公爵がアイナの方に視線を移した。


「どういう事ですか?」

 シオンが尋ねた。


 通常通り依頼を出せば人見知りの激しいアイナの護衛を請ける守護者は、本来なら領地内にあるギルドの人物が請ける事になる可能性が高い。


 シオンを指名したのはクラウス公爵の配慮だった。

 ナタアーリアから預かっているアイナを本人が一番信頼してい人物に任せる事にしたのだ。

 クラウス自ら評議会に直接依頼を出し評議会も公爵の指名依頼を良しと判断した様だ。


「彼女を王都の友人の下まで護衛して貰いたい」

 公爵が改まった。


 どういう事なんだと思うシオンだったが、依頼を速やかに遂行する以外の事を依頼主に聞く訳には居はいかない。


 シオンの立場を理解し公爵が事情を説明してくれた。

「彼女はオースティンでモルドール氏の手伝いをする事になったのだよ」


「何時の間……そんな事になったんです?」

 シオンが不思議そうな面持ちで尋ねた。


「モルドール氏とは古い友人でね。オースティンに寄っ時に信用のおける良い使用人を一人紹介してくれと頼まれていたのだよ」


 本当はアイナの住む場所と仕事を公爵がモルドールに探して貰う様に通知したが、モルドールがギルド従業員として雇い入れる運びとなった。

 今、宿舎は一杯だからと言ってギルドの三階に空き部屋があるから、そこに住めばいいと公爵に言ったのだ。


 アイナをギルド一階の酒場で給仕に使うにしても、こいつに出来るのか人見知りだしと思うが、仕方ない依頼だしとシオンは思い直した。


「ランスは来ないのか?」

 シオンがランスの耳元で小声で尋ねた。


「僕は残る事にした。姉を頼んだよ」


「任せとけ」

 シオンは微笑みで応えた。


 ログでの事もあり、どんな事からも姉を守ってくれる。

 シオンが任せろと言えば疑わない。


「今より、お請けした依頼を遂行します」

 シオンが改まり言うと馬に跨った。


「頼んだよ」

 二人の頼みにシオンは頷いた。


「ランス! また逢いに来る。元気でな」


「僕も逢いに行くよ。シオンも元気でね」


 アイナは、これまで世話になっていた公爵と軽く抱擁を交わした後、別れを惜しむ様にランスを抱きしめた。


 シオンが手を差し延べると手を取ったアイナを馬上まで引き上げ自分の前に座らせ手綱を取り、ゆっくりとオースティンに向う街道に馬を進ませた。


 アイナは長年仕えていた、ランスが残る屋敷が見えなくなるまで見ていた。


「しゅっぱぁつ――ですぅ」

 アイナが元気な声で何かを振り払う様に高らかに声を上げた。


「相変わらず元気だなー、お前は」

 シオンがそう言い笑った。


「おばか……シオン」

 アイナは小さな声で呟いた。


「なんか言ったか?」

 

「なんでもないですぅ」


「早かったろ! ライセンス得るの?」

 シオンが自慢げに言った。


「遅いですぅ。なぁーに、もたもたしてやがったですぅかぁ」

 馬に横乗りでいるアイナは、ぷぃと前を向いて頬を膨らませた。


「口悪いなー、最短んだ。最低六ヶ月は研修受けなきゃなんねぇの」


「おばか! 二ヶ月も遅いですぅ」

 アイナがそう言うとシオンの胸に軽く寄り掛り言葉を続ける。

「もっと早く逢いにきやがれぇーですぅ……、シオンは言いましたぁ。ライセンス取ったら逢いに来るって」

 アイナの目に涙が浮かんだ。


「そんな事言われても依頼もあったし忙しかったんだ」


「ずぅ――と待ってたのに来なかったですぅ」


「ちゃんとこうして来ただろ?」


「おばか! シオンは依頼で着てるのですぅ。きっと、依頼じゃなきゃ来てないですぅ」


 確かにそうだが……。


「お前一度でも手紙で寄こしたか?」


 今回の依頼主がクラウスと知らず屋敷の場所も依頼書で見て来た。

「うぅ――、そ、それは……その忘れてたですぅ」

 アイナは罰が悪そうに言った。

 アイナはシオンに逢いたいと思う気持ちの余り手紙を出す事すら思い付かなかった。


「でもでもですよ。シオンは逢いたくなかったですかぁ?」

 アイナが話を摩り替えた。

「俺も逢いたかったさ」


「シオンに逢いたくて逢いたくて毎日泣いてたですぅ」

 アイナは自分で何を言ってるのかも分からない。


「どうして泣くんだ? 毎晩アービィにでもいじめられたのか?」


「ち、違いますぅ。寂しくて寂しくて仕方なかったですぅ」


「ランスも居るし侍女仲間もいるだろ?」

 

 アイナがシオンの胸に飛び込み背中に腕を回して言った。

「おばかぁ! アイナがシオンの事大好きなのが分からんですかぁ! あっ!」


 シオンの気持ちが知りたい。


 ゴーレムとの戦いの後、シオンと求めたでもなく求められたでもなく恋人の様なキスをした。

 シオンも自分の事を悪くは思ってないと思う……それを確かめる事が怖かった。


 何とか先にシオンから「好きだ」と言わせたかったのだが、つい鈍感なシオンの態度に苛々して先に言ってしまった。




「馬降りるぞ。少し休む」


 まだ屋敷を出てから然程、時間は経ってない。


 ここはシオンが昨夜泊った宿のある旅籠だ。

 シオンは、そこで借りていた貸し馬を馬屋に返した。


 アイナには、なぜシオンが馬を返したのか理解出来ない。


 オースティンまでは普通に馬車で三日程掛る。


「いくぞ。こっちだ」

 アイナの手を引き昨夜の宿に向った。


「何処へ?」


「宿だ」


「へぇ? ちょっとシオン? まだお昼で……こ、ここういう事は、ねぇ?」

 アイナは完全に混乱していた。

 

 つい「シオンが大好き」と言ってしまったが、いきなりと言うのはどうかと思う。


 それも昼間からてのは、ちょっとである。


「好き」と言われてなくともせめて、もっとシチュエーションを大切にしたい。


「シオン? あのねぇですぅ? 昼間から宿とはその、なんですぅ?」


「いいから着いて来い。直ぐ済むから」


 ――ああ! アイナの純潔は今、奪われるですぅ。母様ごめんなさいですぅ……と思ってると……。


「昨夜、ここに泊って余分な荷物を預けてある」


「はぁ? 今なんと言ったですぅ」

 アイナは真っ赤な顔のまま聞き直した。


「荷物あるから取りに行くんだ。それと昼食べたら夜まで歩くぞ」


「そ、そうですかぁ」

 ほっとすると共にあんな事やこんな事を考えてしまった自分が恥かしくなる。

 アイナはシオンの顔をまともに見る事が出来ない。




 シオンは内心ドキドキしていた。

 アイナが抱きつき「シオンが大好き」ときたもんだ。


 研修を頑張ったのも、強くなってアイナを護ってやりたいと思う気持ちが強かったからだ。


 A級といえ新人のシオンは雑務と依頼で忙しく、その上シオンの依頼はモルドールが管理している。


 アイナの事は頭の隅に行っていたが、元々アイナの事は気になっていたシオンだ。


 しかし、今は依頼の最中でその護衛の対象である。


 依頼中に私情を挟める訳がない。今直ぐにでも抱きしめたい衝動を押えるのに必死だった。




 アイナは、馬鉄が大地を蹴る音で聞こえてなかったのかと思った。

 

 もし聞こえていて宿に入る事になっていたら……、やっぱり昼間からは、ちょっとと思う、アイナだった。

 

 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回の更新もお楽しみに!

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