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〜 漆黒の守護者 〜 第四話

 †GATE−4 奪う命、繋ぐ命


 爽快に晴れの広がる下、広大な大地は新たな恵みの準備をしている。その空の下にシオンの姿があった。


「リーシャ? 俺……ガーディアンだよな?」

 爽快に晴れ渡る空を見上げシオンが呟いた


「そうだよ? ガーディアンだぉ。しかもA級」

 リーシャが答えた。


「さぼんなー手抜くなー! これも依頼だ、どんな依頼も全力で。ローゼアールヴァルのポリシーだ」

 レイグが額の汗を拭った。


 二人の出で立ちは、麦藁帽子に首に手拭を巻いている。

 守護者ギルドローゼアールヴァル所属のエースとスーパールーキーは剣の代わりに鍬を握っていた。


「なんで、俺まで……」

 レイグが切なそうにぼやいた。


「元はレイグのせいだろ? 違うか先輩ー」

 シオンが皮肉一杯の言葉を投げた。


「どちらにしろお前の運命は変わらないんだよ! うちのギルドはA級でも新人はCランクの依頼から始まるんだよ」

「言ってましたなぁー、そんな事をあのクネクネマスターめ! 略してクネスターと呼ぶ」


 二人の決闘後、モルドールがシオンに言った。

「良い事? 盗賊団や人間に害を成す魔物等の討伐が守護者ギルドの主な仕事だけど、ただ戦うばかりじゃ何も変わらないのよん。何かを誰かを護る為、とはいえ戦いは破壊しか生まないわ。けど戦いの本質を知って戦うと知らずに戦うのとでは自ずと本質が変わって来るものよ。シオンくんはとても強いけど、まだとても弱いわ。まずは自分自身の心の在処を学びなさい。とても難しい事だけどね」

 モルドールが依頼書に目を通すしシオンを見た。


「当分のシオンくんの依頼は私の指示でこなして貰うわね」


「それとレイグ! 貴方ね。今回少しはしゃぎ過ぎよ。罰として一週間酒場の手洗い場掃除と暫らくシオンくんの依頼サポート兼、お守りね」

 全身をくねらせモルドールが言っていた。


 「で! 今回の依頼はこの広大な土地の野良仕事の手伝いなんだよ。シオンくん」

 レイグが途方に暮れた顔で言った。


「研修に野良仕事なんてなかったぞ、先輩」

 シオンがうな垂れた。


「馬鹿者。依頼の野良仕事なめんな! 身体と精神を鍛えるのにいいんだよ! ナチュラル筋肉がもりもりだ」


「なめてませんよ! 俺の完敗ですよ」


「わたし……もりもり、岩盛り筋肉シオン……嫌かもぉ」

 肩口のリーシャが口を尖らせ呟いた。


「冗談抜きで気は抜くな。いつ魔物に襲われるか分からないからな」

 レイグは顔を引き締めた言葉を続けた溜め息交じりに……。

「この依頼の前は鉱山で鉱石の採掘とマダム・ヤーンさんのペット、二十日鼠シャーロット・エリー・ホルスタインちゃんの捜索ね」


「せんぱーい。ローゼアールヴァルのポリシーは?」

 シオンが気の抜けた声で聞く。


「いつも元気に笑顔で真心込めてどんな依頼も全力で」


「変わってません? ギルドのポリシー」


「いいんだよ。マスターいつも違う事言ってるから」


 ローゼアールヴァルのガーディアン達はCクラス依頼を受ける際にメインの依頼場所の道中にある依頼を掛け持ちでこなす。


 規定で各ランクに掛け持ち数の制限が設けられCなら三件、Bなら二件、A以上は基本的に掛け持ちできない。無論緊急を要する時、トラブルの発生は除くが監視中の魔法生物で評議会に報告する義務がある。


 「皆さん――! お昼にしませんか――」

 依頼主の娘が、シオンとレイグに声を掛けた。


 歓談を交え昼食をシオン達は摂った。

「しかし、広いねー、向うの人達は何してんの?」

 シオンが少し離れた場所を指指差した。


「麦の収穫をしてるんですよ」


 広大な大地に黄金が敷き詰められた様にも見え、綺麗で美しい風景だ。

 シオンはコカトリスと戦った時の草原を思い出し次いでアイナの事を思い出した。

 咲き誇る美しい花達の息吹が失われた時、アイナが言った言葉「この子達の息吹はどこにいったですぅ」


「俺達が食べるパンの原材料の麦も今、食べている家畜の干し肉も全て命なんだよなぁ?」

 シオンは黄金色に輝く風景を見ながら呟いた。ポツリと呟いた。


「そうだな。俺達も自分達が生きる為に他の命を奪ってる事に違いはないな」


「俺達は、それらから見たら俺達が倒してる、人を襲う魔物等と変わらないのかな」

 シオンはやるせない気持ちを言葉にした。


「それは、少し違うかも知れませんん」


「どういう意味?」


「確かに私達も命を奪ってるのかも知れません。でも全てを奪う訳ではありません」

 娘は言葉を続けた。

「私達は自然の恵みを根こそぎ奪っている訳でありません。この恵みの種子を残し次に繋げています」

 そう言って娘は微笑んだ。

「勿論! この恵みに感謝の気持ちを忘れてません」


「そうだな。欲するままに奪う事は、ただの略奪に過ぎんからな」

 レイグが相槌を打った。


 次に繋げる思いか……今は、まだ良く分からないけどそういう考え方もありだ。シオンはそう思った。


「さて! 腹も膨れたし始めるか」

 少し気分が晴れた様に思えたシオンが声を上げた。


「そうだな。終わらせてギルドに帰ったら飲むか」

 レイグも腰を上げた。




 今回の依頼を全てこなし翌日の夕方、二人は報酬を受け取る為、評議会に来ていた。

「先輩? あれだけの労働でこれだけですかぁ?」

 シオンが不満そうに言った。

「先輩が何時も高い宿に泊まるから経費も赤字じゃないですか!」


 報酬は監視報告の魔法生物が無事に戻り依頼の完了を確認後、支払われる。

 その三割が国の運営で依頼を各ギルドに振り分けている評議会に、一割から三割がギルドに残りがガーディアンの報酬となる。


 依頼遂行に必要な経費は、あらかじめ依頼内容に見合う金額が定められているが、後払いになっていて依頼を途中で破棄したりすると支払われない。切り詰めれば黒字になるし贅沢すれば赤字になるのだ。


「うっさい。なんでお前は馬使ってんだ? 俺のグリフォンなら昨日の夜に帰れたんだ」

 レイグが半逆切れ状態でシオンに噛みついた。


「野宿でいいじゃないすっか」

 シオンが文句を付ける。


「長い時間馬に乗ってたんだ。腰と尻が痛くて仕方なかったんだよ」


「初めからグリフォンに乗せて行ってくれればいいじゃないすぅか」


「お前に合わせて馬にしたんだ。何れ一人立ちするんだから地形と地理も実際に見て置いた方がいい。それにグリフォンは二人も乗せて長い時間は飛べない。タフな竜なら別だけどな」

 

「それより、ギルドに帰るぞ」

 二人がローゼアールヴァルに戻るとモルドールが出迎えた。

「二人ともぉー、お・つ・か・れ様―」

「ただいま。マスター」


 二人はモルドールに依頼の報告を終えると下の酒場に向おうとした。

「シオンくんに次の依頼よ」

 シオンに依頼書を渡した。


「今度は何処の鉱山で穴掘りですか?」

 お守り役を請け持つレイグが嫌味交じりに尋ねた。


「今回の依頼はシオンくん個人に指名なのよ」

 モルドールが腰をくねらせた。


「ちょ! 待ってください。シオン一人では、まだ無理です。指名依頼なんて早過ぎます」


 指名依頼の殆どは王国からの依頼か平議会からの勅命のSランク以上の依頼だ。Cランクなら個人的にも指名できるが、それ以上はギルド間に平等割り振られる(依頼の発生場所にも関係する。迅速に対応できる事を配慮する)のと癒着等の不正を防ぐ目的の為に平議会の審査が入るので少ない。


「それで依頼内容はなんです?」

 レイグがモルドールに尋ねた。


「ある人物の護衛よ」

 モルドールが漂々と答えた。


「Bランクの依頼じゃないですか」


「要人護衛ですか? シオンはA級で問題ないですが……場合によってはAランクにもなりますよ」




 その頃、遠くのオースティンの方角を見ている少女がいた。


 アイナは首からぶら下がるペンダントの様な物を握り締めていた。


 それはシオンのタグプレートだ。シオンが別れ際に泣きじゃくるアイナに手渡した物だった。


「待ちどうしい?」

 ランスがアイナの肩を叩いた。


 オースティンに行く事になってから毎日の様にアイナはこうしている。


「明日には、ここを出るんだから用意は整ってるの?」

 ランスが尋ねた。


「そんなの一月前に終わってますぅ」


「はぁはぁっ! アイナらしいね」


「ランスは、本当に行かないのですかぁ?」

 アイナが寂しそうに呟いた。


 ランスは迷った末、お世話になっている公爵の下に残る事にしたのだ。


「うん、僕は残るよ。公爵様への御恩を返したいんだ」


 アイナの目に涙が溢れた。二人はどんな時も一緒にいた。


「泣かないで離れても僕等は双子だよ。それはどんなに時間が過ぎても変わる事はないよ」


「ですけどですけどぅー、アイナはやっぱりランスと離れるのは嫌ですぅ」


「僕も寂しくなるけど、いつかは離れ時は来るんだ。でも逢えなくなる訳じゃないよ」


「ランスが心配ですぅ。アイナが面倒みてやらないとランスが何をしでかすか分からんですぅ」

 逆じゃないのかとランスは思ったが、シオンがアイナの側に居てくれるだろう。


「僕は大丈夫だしそれに僕は心配してないよ。シオンがアイナの傍に居てくれるギルドに住む事になってるから安心だよ」

 ランスは笑た。

 

 ギルドの空き部屋か宿舎に住める様にとクラウス公爵がモルドールに頼んでくれたのだ。

 ギルドにはガーディアンが常に居るだろう。


「オースティンまで送れないからそれだけが心配だけど、いざとなったら魔法使いなよ」

 ランスが耳元で囁いた。


「分かったですぅ。ランスが困った時、アイナも必ず助けに来るですぅ」

「さぁ! 明日からの長旅に備えてもう眠りなよ」

 ランスの言葉にアイナは小さく頷いた。




「今日の依頼は無事終了と!」


「シオンも大変だね。Bランク一つ請けてからって、あのクネクネ容赦ないね。Cランク依頼も一つちゃっかり、追加してあるね」

 リーシャが笑った。


「そんだけじゃないぞ! 依頼早くこなしたら期日に間に合う様な依頼を支所で請けろだと」

 シオンが愚痴をこぼした。


「でも、シオンさぼらないけどね」


「当たり前だ! さぼれったら直ぐにばれるだろ? 監視報告の魔法生物がいるんだから」


「大変だね♡ シオンも……明日はいよいよ本命の依頼だが、どんな人物を護衛するの?」


「さあーな? 依頼書には依頼行使日と屋敷の場所しか載ってない依頼主の事情もあるさ」

 

 今夜シオンは依頼の屋敷に近い小さな旅籠町で休む事にした。


 翌日の朝、空は気持ちよく晴れ渡っていた。



 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回の更新もお楽しみに!

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