〜 漆黒の守護者 〜 第三話
†GATE−3 決着
ギルドのエースとルーキー今を背負う者と未来を背負う者の戦いは強者揃いのローゼアールヴァルのガーディアン達も息を呑んで見守った。
決闘を止め様と修練場に駆けつけたセインとアイスマンは自分の目を疑った。
二人が駆けつけた時、レイグは大剣でシオンに切り掛かっていた。
その速さは電光石火。
同時に、キィィ――ンと甲高い音が分厚い壁の中に響き渡った。
「新入り? その剣、さぞかし高名な錬金鍛冶が鍛えたのだろう。剣で大剣をまともに受ければ普通、折れるぞ。その剣を鍛えた者に感謝しろ」
「……折れねぇさ。俺の親友が新しく送ってくれた剣だ折らせねぇよ」
シオンは薄く笑った。
――折れた剣の代わりにくれたランスの形見の剣。
間を取り直しシオンとレイグは剣戟を残し切り結び互いに魔法も繰り出し始める。
野次馬の誰かが結界を張った。
「はぁはぁはぁ……、もう終わりか? 息上がってんぞ」
シオンがレイグを煽った。
「これからだろ? 楽しい時間は違うか新入り」
レイグもそれに応えた。
(化け物かこいつ本気で強い。ヤバイ)
「レイグ? あんた化け物か」
シオンは思った事を吐露した。
「レイグだシオン! 魔力、剣術、体裁き、検圧を瞬時に流す技術、こんな真似簡単に出来るもんじゃない、その歳で一体何処で学んだ?」
レイグも本心を返した。
「知らねぇよ。そんなの……俺には以前の記憶がねぇ」
シオンは言葉を続ける。
「身体が勝手に動くんだ。何だかよく解らねぇけどさ」
「「次は切る」」
「止めた方がいいんじゃないか?」
二人を取り巻いている野次馬の誰かが、場も空気を感じ、ぽつりと言った。
二人の戦いに見入っていたセインとアイスマンが我に帰り叫んだ。
「皆! 二人を止めろ!」
その声で野次馬達も我に帰る。
――危険過ぎる決闘。
レイグが動いた。
「二人共、止めろ――!」
セインが叫ぶがレイグは止まらない。
「風の理、大気の流れ偏在、満ちる者よ。刃と化し現と成せ」
レイグの大剣の周りに風の刃が纏わりつく。
「ウィンドブレイド」
シオンが剣を受け止める風の刃が刀身をすり抜ける。
レイグの口元が僅かに吊り上って笑みを浮かべていた。
(しまった)
シオンがそう思った瞬間。
袈裟切り状に、風の刃が身体に食い込んだ。
その風が、通り抜けた。数瞬後、自分の上げる血しぶきがシオンの目に映った。
レイグの風の四系統の魔法。
シオンに口元を読ませず詠唱し剣に乗せていた。
(急所は外した、死ぬ事はない。これで終わりだ)
レイグは思った。
「ま……だ……おわ……って……ない」
言い終わると風が刃となりレイグを襲った。
レイグはシオンの言葉に魔力を僅かに感じ取り魔法を放つ。
「「ウィンドブレイド」」
同時に繰り出された魔法は続け様に使った分レイグの魔法が押し負けた。
レイグの横を僅かに頬を撫で風が抜けた後、血が頬を伝った。
シオンは途切れる言葉の間に魔法の呪文を挟んだのだ。
シオンの目には、まだ鋭い眼光が宿っていた。
「取っておきまで出す事になるとはな……シオン! お前とは全てを賭けて闘っても良いと思わせられる」
「隠し玉? まだそんなのが、あんのかよ」
シオンにも隠し玉はある。
――精霊魔法。身体に宿るリーシャの力。
シオンは、アイナやランスと違い精霊と契約を交わしておらず、万全の状態でも精霊魔法は、未だ自分の意思で上手く使いこなせない。
――精神、身体に掛る負担。
(大き過ぎる)
研修で学んだ中に精霊魔法は人間で扱える者は極稀である事を知ってアイナとランス「すげぇ」と思った位だ。ナタアーリアが人前で使うなと言うのも頷けた。
「俺は魔法剣士だが…正確には“魔剣士”と名乗るべき、かな?」
レイグが剣を構えた。
その時、モルドールの声が響き渡った。
「そこまでよ!」
その声を聞いた後、シオンは膝から崩れ落ち地面に伏した。
戦いを見ていた者達が、駆け寄り素早く治癒の魔法の詠唱に入る。
「レイグ、あれまで解放しようなんて、シオンくんを殺すつもり?」
モルドールはレイグに問うた。
「つい熱くなって。こんな気持ちになったのは、貴方とやり合った時以来ですよ」
レイグの満足した口調だった。
「それでぇ? どうだったのシオンくん」
モルドールは何処か楽しげに言った。
「解ってらしたんでしょ? マスター」
「レイグの感想を聞いてるの。あ・た・しは」
「強いです。戦闘能力はね。魔力と魔法に関しては不安定で自分自身が魔法を行使する事に躊躇している様に思えますが、Aランクの依頼もこなすでしょう。しかし……」
レイグがその先を言おうとするがモルドールが遮った。
「分かってるわ。シオンくんは、まだ少年だもの本当の意味でもっと強くなって貰わないとね♡ 守護者として、そして人としてね」
モルドールは嬉しそうに笑みを浮かべた。
シオンは自分の部屋で目を覚ました。
「大丈夫? シオン」
ティアナの声だった。
どれ位気を失っていたのだろうかベッドの上に寝かされていた。
「びっくりしちゃったわよ。寮に帰る前にシオンの顔見てこうと思って寄ったら怪我して寝てるてモルちゃんに聞いて……初依頼で怪我したの?」
心配そうな顔をして顔を覗き込んでいる。
「いや、違うけど……」
シオンが言い難そうにしていたので原因までは聞かない事にした。
「酷い怪我したの?」
「分からないけど、直ぐにギルドの人が治癒の魔法掛けてくれた見たいだから」
シオンが肩に掛けて巻かれ包帯には血が滲んでいる。
「危険な依頼もあるだろうけど……気を付けてよね。何れ私をお嫁に貰うんだからね」
ティアナが顔を赤らめた。
「おい! なに勝手に決めてんだ」
「いいの。私が決めたの」
少し剥れてティアナが言った。
「なんだよそれ……勝手な奴」
シオンが研修を受ける事になったのもティアナのわがままから始まったのだ。
「シオン少し眠ったら」
顔を赤らめたままティアナが言った。
「さっきまで寝てた」
「じゃあ、目を瞑りなさい」
「なに企んでんだ?」
シオンが不信を抱き尋ね。
「別に何も企んでないわよ! 失礼ね……いいから目を閉じなさい」
ティアナが苛立った様子で言った。
「なんだよ。訳わかんねぇ」
シオンは文句を付けたが目を閉じた。
「いいって言うまで目を開いちゃダメよ!」
ティアナはそう言うとシオンの唇に自分の唇を重ねた。
シオンの唇に柔らかいものが触れると直ぐに離れた。
「なにしてんだ。いきなり」
「お、おまじない。怪我が早く治ります様にって」
ぷぃと横を向き言うとティアナの目にモルドールの姿が映った。
周りには何時の間にかレイグ、セイン、アイスマンと後、数名のギルドのメンバーも居る。
「あら、お邪魔したかしら?」
モルドールが言った。
「へ、部屋に入る時はノックしなさいよ」
ティアナは顔を赤く染め怒鳴る。
「ドアくらい閉めてなさいよ」
モルドールは淡々と返した。
「シオンく―ん。 包帯代えるわねぇ」
モルドールがシオンに巻かれた包帯を取り傷口に当てられた綿を取ると目を疑った。
傷口は、もう殆ど消え掛けている。
切り口は綺麗だった治癒の魔法の使い手も素早く手当てした。
それでも治りの早さが尋常じゃない。
レイグの魔法に放った距離からして決して浅いものでもなかった。
「なんて回復力してんだ」
セインが目を丸くして声を上げた。
傷の具合を知らなかったティアナがモルドールに尋ねた。
「シオンの怪我酷かったの?」
「急所は外れてたけどレイグの魔法を受けてるのよ? 酷くはなくともこんなに早く治る傷じゃなかったわ」
モルドールは未だに信じられないという顔をした。
「きゃぁ――! 私のおまじない本当に効いちゃった!」
ティアナは感激し喜んでいる。
(はしゃぐティアナを見て幸せな頭してるな)
このお嬢さんとその場の全員が思った。
アイナは溜め息ばかり付いていた。
「はぁ――」
シオンが居るオースティンの方角を、ぼんやり見ていた。
シオンと離れて半月が過ぎた早ければシオンはライセンスを取っている頃だ。
「シオン逢いたいですぅ」
シオンに対する自分の気持ちに気付いてから余計に逢いたいと思いが募るばかりだった。
もし逢ってもシオンの気持ちは分からないし聞くのは怖いが側には居たい。
「またこんな所に居るの部屋に戻ろう? 外は冷えるよ」
ランスが言った。
「ランスぅ――、シオンは、まだですぅかぁ」
アイナが寂しそうに声を震わせた。
「シオンがライセンス取れたら連絡して貰える様に公爵様にお願いしといたから」
シオンと離れてから元気の無い姉を見兼ねランスが頼んだのだ。
クラウス公爵もそのつもりで居た。忙しく留守にする事も多い公爵は屋敷に連絡が入る様に手はずをしてくれた。
それから二週間程が過ぎた朝に公爵が二人を呼んだ。待ちに待ったアイナ達にとっての吉報だった。
「シオン君が、先日正式にガーディアンになったそうだ」
「本当ですか? やったぁ」
ランスが喜びの声を上げた。
「最短、首席での合格だったそうだよ」
公爵もシオンがこんなに早くライセンスを取るとはそれも首席でとは思っていなかった。
アイナの顔が花を咲かせていた。
公爵もアイナの元気がない事を知って気に病んでいた。
「シオンは何時くるですかぁ」
アイナが目を輝かせ問うた。
「それは分からんよ。ガーディアンになれば依頼も請けるだろうし彼も忙しくなる」
アイナの顔が俄に曇り出した。
それを見たランスが以前自分の中に決意していた事を口にした。
「公爵様……長らくお世話になった上、急で申し分けございませんがお暇を頂きたいと思います」
「ランス! なにを言ってるですぅ」
アイナはランスの言葉に驚き戸惑った。
「まあ、待ちたまえ。ここを出てどうするといいのかね?」
「オースティンに行こうと思ってます」
ランスが決意の籠った目をして答えた。
二人の母の住むログにも近い。何より元気のないアイナを見るのは辛かった。
「お前達は良く働いてくれる。寂しくもなるが仕方ない。好きにしなさい」
二人は複雑な思いだったが嬉しかった。
「ありがとうございます」
二人が深々と頭を下げた。
「ただし来月の終わりまではいて貰うぞ」
その夜アイナは遠く離れたオースティンの方角を遅くまで見ていた。
To Be Continued
最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
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