〜 漆黒の守護者 〜 第二話
†GATE−2 洗礼
研修を終えた時点で初期最高のA級クラスのライセンスを取るには、余程の成績を残さなければ得られない。
試験運用時から協力してきた者達は簡易研修と過去の功績でランクが決定されたが、A級クラスは戦闘経験豊富な者でも余程の実力者でないと与えられないランクだ。
セインは試験運用当初から依頼をこなしA級クラスを得た。しかし、次のクラスを上げるのは容易な事ではない。
「シオンのアビリティはなんだ。ライセンス見せてくれ」
セインがシオンに声を掛けた。
ライセンスは王国の紋章が表に記された懐中時計、蓋の裏面には個人の情報、過去の依頼履歴と成績、アビリティー、クラス、所属ギルド等の情報が魔方陣に付与され記され残される。
SG級ならプラチナ製、S級は純金製、A級は純銀製、B級は青銅製、C級は単なる懐中時計と区別されている。
今はアイナが首に掛けているシオンのタグプレートにあたる物が懐中時計。
シオンが得ているA級クラスは純銀製の懐中時計には魔方陣、ゴーレムと剣を模したレリーフが記され人形使いと剣士である事を示している。
「ゴーレム剣士か。珍しいな」
――ゴーレムは魔法で創り出し操る魔法人形。
「そうなの?」
「ゴーレム創れる梃て事は、魔法も扱うのか? 魔法剣士と言っても問題ないけどな」
――魔法剣士は剣を用い剣に魔法を乗せ戦う。
幸いな事にリーシャの生命力と融合したお陰? で道具を必要としない四元素も使えるが、研修で四系統も理論も覚えた。
皆が、やいのやいのと囃し立てる中、何時から居たのか二十才前半の金髪の青年がシオンに冷めた口調で言った。
「ただの新人さ。場数踏んでない役立たずだ。精々、浮かれて死ぬな」
「止めろよ。レイグ! シオンは同じギルドの仲間になるんだぞ。てかぁ。レイグ? 何時帰って来たんだ」
「今し方だ」
「シオンの場数は並みじゃないよ。たぶんね」
リーシャがポツリと呟いた。
「妖精? 精霊の使いと言われる妖精なんか連れてんのか? 生意気だよ。お前」
「私は妖精じゃないもん」
リーシャが小さな頬を膨らませた。
ギルド内でシオンはリーシャを隠してない。
ローゼアールヴァルに所属する者には強い獣等を手懐け扱う者もいる。
皆、元傭兵だのが集まり何らかの訳ありの者も多く互いを詮索する者を殆どする者は居ないからだ。
「レイグは最年少で騎士の称号を賜った程の実力者だけどな! 少しは仲間を認めたらどうだ」
セインが嗜めた。
――勲爵位は一代限りの爵位で騎士の称号は功績、実力の証明。
「認める? 何も実績もない奴を?」
レイグは同じギルドの先輩。
シオンは、これから顔を合わす事になるので聞き流していた。
何だかんだいちゃもんを付けるレイグを取りあえず放って置いて初仕事を選んでいた。
「どれに、すっるかな」
ボードを見ながら呟いた。
何処のギルドでもそうだが依頼の多いのはB、Cランク。Aランクはまだ少なく張り出されても直ぐに誰かが請ける。
現在、立ち上がった守護者ギルド全体でもS級以上のガーディアンが少ない為、マスターの判断でA級の者で隊を組み依頼にあてるか、まだまだ正規の軍にも頼っていた。
「どうせやるなら報酬の良いのにしようよ」
リーシャが楽しそうに言った。
張り出された依頼を請けるのは基本的に早い者勝ちだ。
「お! Aランクあった」
シオンが言うとカウンターの方から声が聞こえた。
「あっ! それ俺が次ぎ狙ってたんだ」
青い髪の二十才位の青年が声を張り上げた。
「アイスマンそれ俺も目を着けてたんだぁ」
セインも口を挟んだ。
「おい! 俺が先に取ったんだ」
シオンが抗議の声を上げた。
「バカ、Aランクの依頼なんてそうないんだぞ。俺も混ぜろ」
セインが言った。
「三人で隊を組もう」
アイスマンが絡んだ。
Aランクの依頼額はBランクとは比べものにならない程、報酬もエクスペリエンスも高い。
「仕方ねぇーな。そんじゃ三人で受けぇ……」
シオンが言い掛けると横から手が伸び依頼書を抜き取られた。
「お前らA級クラスに成り立てとド新人がAランクの依頼なんて十年早い」
レイグは依頼書をぴらぴらとさせマスターの元に向うとした。
「レイグ、依頼横取りするきか!」
セインが怒りを露に言った。
「確かにレイグはローゼアールヴァルのエースだけど嫌がらせにしては品がない」
アイスマンが冷めた声で言う。
(新人いびりかなんかかよ。頭に来るな)
シオンの中に静かに怒りが生まれてくる。
「お前らAランクの依頼舐め過ぎてるんだよ。これもひよっこのお前らに対する先輩としての優しさだ」
レイグは三人に振り向きもせず言った。
「だったら最初からそう言えよ。陰湿な嫌がらせしやがってぇ」
シオンが怒りが噴火し強く言い放った。
レイグがシオンに向き直り眼を合わせた。
「なるほど良い目をしている。初期クラスA級だけの事はある」
「何が言いてんだ」
「その眼、喧嘩売っている? のか」
レイグが薄い笑みを浮かべた。
「そう取るなら構わいやしませんよ……あんたが望むなら売ってやる」
「威勢がいいな。力を見てやる裏の修練場に来い」
レイグは奥にある裏に降りる階段に向い歩き出した。
「止めとけレイグは強い。下手したら怪我じゃ済まないぞ」
セインが慌てて止めに入る。
「同じギルドの者同士だし騎士の称号は伊達じゃない」
アイスマンも止めに入った。
シオンは無言で二人の静止を振り解きレイグの後に着いて行く。
周りに居た者はギルドのエースと大物ルーキーの一戦を楽しみにしながら二人の後を追って行った。
「マスターに報告する」
セインが言い。
「その方がいい」
アイスマンは頷いた。
クラウスの領地――。
時間を暫し遡る。
アイナとランスがシオンと離れて三ヶ月が過ぎた頃。
「はぁー」
深い溜め息を付く。
王都オースティンから北に馬車で三日程の場所にあるクラウス公爵の領地にある屋敷。
「あっ! また溜め息吐いた」
ティアナがどうしてもシオンを自分の従者にするのだと言い張りシオンはオースティンに残る事となった。クラウス公爵は素性の分からないシオンを雇う事も出来ず、考えた末にオースティンでガーディアンの研修を受けさせる事にした。
コカトリスを一人で倒した少年だ。自分が発起した守護者ギルドに強者が増えるのは悪くない。
ティアナは納得しなかったが、同じ街に居られる事になるのでそれで折れた。
公爵はオースティン城下街にある試験運用に協力をしてくれているローゼアールヴァルにシオンを預けたのだった。
そんな経緯でアイナ達と離れシオンは、オースティンに残りガーディアンライセンスを得る事になった。
急な話でアイナは戸惑い混乱したが、自分達の雇い主の決定に何も言ずにいるが、それは仕方がない事。
シオンとは半月程一緒に居ただけなのに離れてからアイナは心に、ぽっかり穴が開いた感じていた。
「シオン元気にしてるかな?」
しょんぼりしている姉にランスが声を掛けた。
「………」
シオンの事を考えるといつも寂しくなってしまう。
「いつか、また会えるよ」
「……ですぅ?」
「シオンはもうアイナ達の事忘れてるですかぁ?」
アイナの目が遠くを見つめた。
「そんな事ないよ。シオン言ってたじゃない? ガーディアンになって会いに来るって研修頑張ってるかなぁ」
「そうですねぇ。シオンは、シオンはきっと、もう守護者になってますぅ」
アイナは励ましてくれているランスに笑みを見せた。
「まだ無理だよ。最短で六ヶ月は掛かるって公爵様が言ってた」
「逢いたいですぅ」
アイナの目から堪えていた涙が零れ頬に流れた。
「信じよう。僕等がシオンを信じなきゃね」
「そう、そうですけど……逢いたいですぅ」
アイナはもう気付いている。シオンといると胸が高鳴り心が安らぐ理由に気付いていた。
――離れて初めて気付いた本当の気持ち。
「逢いたい……。シオンに逢いたいですぅ」
アイナは床にしゃがみ込んだ。
「はぁー、僕にまで溜め息、移ちゃたよ」
やれやれと息を吐くと言った。
姉の願いを叶えたい。仕方ないなランスは思い心の中で何かの覚悟を決めた。
その頃、シオンは飛び級で研修カリキュラムをこなしていた。
ギルドマスターが居る部屋の扉が勢いよく開かれた。
「マスター」
慌てた様子でセインがモルドールを呼んだ。
「どうしたの? 二人して慌てちゃって」
モルドールが漂々とした口調で尋ねる。
「シオンがレイグに喧嘩を売ったんですよ」
「喧嘩? 男の子は元気ねぇーほっほっほっ」
左手の甲を頬に当て笑って言った。
あんたも男だ! と二人は思ったがそれより今はシオンだ。
「なに、呑気な事言ってるんですか」
アイスマンが言った。
「大丈夫よ。レイグもシオンくんを“殺し”はしないわよ」
「しかし、レイグはA級でも飛び抜けて強いですよ」
「そうねぇ? レイグの実力はもうS級ね。それと……、まあいいわ。放って置きなさい」
モルドールは何か言い掛けたが、特に気にした風もなく言った。
マスターからレイグがS級クラスと聞き二人の顔は蒼白になる。
「止めるぞ!」
セインが言うと二人は裏の修練場に向った。同じクラスでも実力の差はあるが、S級の実力は別次元だ。
「用意は出来たか」
レイグが言った。
「敵は構えるの待ってくれないぜ」
「良い心構えだが……これは稽古だ、殺し合いじゃない」
「なら、そうさせて貰う」
シオンは剣を抜いた。
「遠慮はいらない全力で来い」
「いくぜ」
シオンがレイグに向かい切り込んだ。
(早い。流石にA級を与えられるだけの事はある。だが)
レイグは切っ先を見切りシオンの剣が空を切る。
そのまま回転を生かし裏剣を放つが、レイグは後ろに飛んで避けた。
紙一重の動きでシオンの攻撃を難なくかわす。
シオンが間合いを取り、口を開く。
(魔法が来るか?)
レイグが魔法が来ると読むが、シオンの口からは詠唱ではなく違う言葉が飛び出した。
「避けてるだけじゃ倒せねぇぜ」
「いいだろう。俺も遠慮はしない。だが安心しろ手加減はしてやる」
レイグが言うとシオンに切り掛かった。
シオンもそれを紙一重でかわす。
(こいつ……できる)
「そんじゃ、こっちも行きますか」
シオンが短く呟いた。
「俺も久しぶりに楽しいよ」
レイグが不適な笑みを浮かべ、切り掛かり言葉を続けた。
「シオン魔法剣士だったってな? 俺もだ」
レイグの動きが変わった。
「補助する移動の魔法を付与したのか?」
一瞬、遅れて気付いたシオンにかわす暇はなかった。
To Be Continued
最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>
次回の更新もお楽しみに!