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〜 漆黒の守護者 〜 第十五話

 †GATE−15 死闘


 崩壊音は消え、静寂が戻った。戦場と化した森と瓦礫の岩山の上に雲が足早に流れている。

 

 その一角に静寂の空を掻き乱す炎の竜巻が、シオンを呑み込もうとしていた。


 シオンが魔法を解き放った、一瞬の隙を見計らい放たれシオンは、それに対応する魔法を放てない。


 他の傭兵達の中には崩壊に巻き込まれず戦える者もいた。 

 シオンは、その時一人の傭兵接近戦をおこなっている最中で逃げる体勢が整わない。

 振り返ると凄まじい炎の竜巻が襲い掛かったきていた。それに反応しすぐさま回避を試みるが体勢も不十分な状態では交し切れる大きさではなかった。


 この魔法を相殺するには、陳腐な詠唱破棄の魔法を行使しても掻き消せる威力のものではない。

 それでもアイナがいる以上、諦める訳には行かない。

 次の魔法を放てるまでの短い時間が、永遠にも思える程に長く感じる。

「くそ! かわし切れねぇ」

 シオンが感じた瞬間。

 柔らかい何かにぶつかった。

 その魔法に一早く気付いた竜がシオンの後ろから魔法を放ちシオンと自分の間に空気の壁を作ったのだ。


 竜のブレスなら、炎の竜巻を相殺する事が出来るかも知れないが、精霊魔法で操らせた炎にブレスの炎をぶつけても炎の精霊が支配する魔法の炎に呑み込まれブレスの炎まで制御される危険も孕んでいる。


 仮に使い手が契約している精霊達の制御を上回るブレスの炎を吐いたとしても回転を加えられた炎の壁に弾かれるかも知れない。


 魔法を放つにも相殺できる程の魔法詠唱の時間も無かった。


「リーシャ!まだか!」

 シオンがリーシャを急かせた。


「もうちょっと……だよぉ」

 リーシャが答えた。


「出来た! 来るよ!」


 リーシャの描いた大きな魔法陣から人の頭の様な物が現れ続いて肩、胸、腰と地面から現れてきた。

 胸の辺りのハッチはシオンが砦の外で降りた時の状態で開いたままになっていた。


 シオンは操縦席まで膝まずいて屈むAMRSの腕を駆け上り操縦席のシートに収まりハッチを閉じた。


「APU起動、モーメント制御を重力下に変更、加速器及び圧縮器正常、各種パラメータ正常値、融合炉爆縮率七十八パーセント正常に圧力上昇中、ロックオンゲージマニュアルで機動、融合炉臨界! Hound、行ける」


 直後、AMRSを炎の竜巻が飲み込んだ。


「……ゴーレム? 見た事のない形ちだな」

 耳の尖った男が放った魔法の炎の中に風変りなゴーレムの姿が目に映し出された。

「何だ。あれは」


 その言葉を無視したリーシャが口を開いた。

「エルフね?」


「混じり物のハーフエルフ」


「わたしはリーシャ。ゴーレムを操ってるのはシオン」

 リーシャが名乗るとハーフエルフも名乗った。


「名は傭兵ギルド、ウインドー・ナイツのギリアム」

「きみの魔力は半端じゃない。でもシオンはもっと半端じないよ。きっと」

 リーシャが続ける。

「でも、ハーフエルフの強者にしては、おしゃべりさんだね。前は隙を突いたのに今は隙だらけ」

「何だと」

 ギリアムが精霊の振動に気付く。


「大地を司る地の精霊よ 古の盟約により 炎と化し地より来たりて 我が力となし仇名すものを焼き払え」

 AMRSのハッチを開け飛び出したシオンが魔法を放った。


「しまった! 自らの魔法で精霊の震動が余韻に紛れていたとはいえ、貴様の精霊の振動に気付かないとは不覚を取った」


 リーシャが話し掛けていたのは、シオンが魔法を完成させるまでの時間稼ぎ、遺跡で見つけた整備不足のARMSは扉をぶち抜いた後、戦闘に耐えうる程の動きをできなくなっていた。


 ギリアムの足元に亀裂が走り炎が立ち昇るが、ギリアムも大きな魔法を放ったばかりだ。


 それをかわしつつギリアムが口上を述べた。

「逆巻け水流 渦の花を咲かせ 水竜と化せ」

 ギリアムが手に持っていた長槍を天に掲げた。

 長槍から水の竜が迸ると立ち昇る炎を打ち消していく。


「水竜の槍」

 リーシャが呟いた。


「なにあれ?」

 シオンがリーシャに尋ねた。

「稀に武器や防具に精霊等が宿るんだよ。アービィの小人象の武器版みたいなも」


 間を取り体勢を立て直したギリアムが口を開いた。

「シオンとか言ったな。貴様の魔力普通の人間が持てるものではない。貴様も混じり者か?」


 剣を構えシオンが、アイナの倒れている方向をチラッと見た。

「知るかよ。俺は「シオン」あいつに貰った、この世で唯一俺を示すものだ」

 シオンがギリアムに切り掛かる。

 ギリアムが槍の柄で受け止めた。


「風の理 大気 流れ 偏在 天に起こり降りて刃と化し現となる」

「ウインドウブレイド」

シオンが剣に乗せた風の魔法が槍の柄をすり抜けギリアムを襲う。


「風よ 盾となれ」

 ギリアムが咄嗟に魔法を唱え、空気の盾を張りシオンとの距離を取りながら魔法の詠唱に入る。


「大気に潜む水の精霊よ 汝、盟約を果たせ 氷の矢となれ」

 詠唱が終わると空気中の水蒸気が固まり氷の矢と化し数十本の氷の矢がシオンに襲い掛かった。


「地の精霊よ 汝、古の盟約を果たせ 礫と化し我に仇名すものを討て」

 シオンの魔法で砦の瓦礫が石礫となり氷の矢を迎撃し砕く。


 互方の攻撃と防御が繰り返される。


 魔槍を持ちエルフの血を引き、その魔力も強大で戦闘に慣れたギリアムと失われた記憶と体内に眠る

“幾多の戦闘”の片鱗を見せるシオンだったが、不慣れな魔法戦にシオンが徐々に押され始める。

 シオンの身体が徐々に削られ傷ついていく。


「シオン! 大丈夫?」

 リーシャが不安げに戦況を見詰めていた。


「なんとかな、あいつ……アイナは俺が助ける」

 シオンの口元が僅かに笑みを浮かべ吊り上げた。


「最高よぉ。シオン!」


「とはいえ、次の魔法で決めねぇと、接近戦はあの槍が厄介だ」


 通常懐に入れば間合いの長い槍は不利。

 相手も相当の使い手で戦いを良く知っていて、なかなかシオンの間合いにさせてくれない。

 シオンは何度か素早さを生かし懐に入るものの、魔槍の水竜がシオンを押し戻す。

 

 そうしてる間にシオンの動きも衰えてくる。


「舐めてるのか? 竜達の力を借りたらどうだ」


「いらねぇ……あいつは俺が守りたいんだ。俺の手で!」


「下らん意地を張っていると死ぬぞ」


「下らない意地かも知れねぇ。俺は多くを護りたいとか言ねぇ。でもな、せめて身近な仲間や大切な人を護りてぇ! 惚れた女一人、自分で護れねぇ様で何が護れるてんだ」


 シオンの目には力が漲っている。


「あんたはどうして戦ってる? ウインドー・ナイツとかのギルドらしいが人質を使う様な奴らのか?」


「好むと好まざるを問わず。ギルドが請けマスターから渡された依頼だからだ。人質を使うやり方は私も好まない、依頼主の意向だ仕方あるまい。貴様もガーディアンなら解るだろ」


 二人は間合いを詰め互いの得物を交えては、また離れる。

 ギリアムもかなりの魔力をここまでの戦いで消費している。そう強力な魔法は放てない。

「大気に潜む水の精霊よ 汝、古の盟約を果たせ 氷の矢となし我の力となれ」


 シオンが間合いを取る際、ギリアムは魔法を放った。

 前より数は少ないが数本の氷の矢は先程と違い槍程の大きさがある。

 咄嗟にシオンも魔法を放った。


「地の精霊よ 汝、古の盟約を果たせ 礫と化し我に仇名すものを討て」

 石礫が迎撃する……砕けない。


「甘いな」

 ギリアムがシオンに槍を突きたてた

「終わりだ」

 シオンは氷の槍をかわしたが矛先はかわし切れず脇腹に刃が食い込むのを感じた。


 シオンの口から吐血が流れ落ちる。


「見事だ。あの体勢で急所を外し咄嗟に剣を捨て両手で柄を掴み勢いも殺したか」

 

 シオンの身体は地面に崩れ落ちた。

 「シオン!」

 リーシャがシオンに近付こうとした時、数人の傭兵が近づいてきた。


「止めを刺せ」

 タイターン・ノーズのギルドマスター、マルガスが気を失い倒れているアイナを抱え起こした。


 アイナの目がゆっくりと開かれていく。まだぼんやりする視界に血だらけで地面に伏しているシオンの姿が飛び込んだ。

「シオン――!」

 アイナが叫んだ。

 オッドアイの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。

 アイナが掴まれた身体を荒がせ、逃れシオンの下に駆け様とするが逃れる事が出来ない。

「離せ!離しやがれですぅ!」

 

 二匹の竜が臨戦態勢に入ると傭兵がアイナに剣を突き立てる。


 これでは強力な眷属の竜も手出しが出来ない。


「混じりもの早く止めを刺せ」

 マルガスが言うとギリアムが答えた。


「依頼に殺しは入ってない。私はお前達の言う様に、そこの眷属の竜とその娘を捕まえた。依頼は終えている」


「追加だ」

 マルガスがほくそ笑む。


「断る。放って置いてもその内、息絶える」


「言う通りにしていればいいんだ。混じりもの」

 傭兵の一人が言った。


「これだけの使い手とやり合ってやったんだ。この件はサービスにしといてやる」


「アイナ……を、はな……せ……」

 シオンが言葉を搾り出した。


 ギリアムがマルガスの下に向うとマルガスが顎をしゃくり上げ部下の傭兵に合図を送る。

 傭兵がギリアムを捕えて言った。

「お前もあれだけ魔法を使って消耗し切ってる。その槍も」


「ここからは俺達のやり方でやるだけさ。いや、これまでもと言う方が正しいか」

 マルガスがほくそ笑み言葉を続けた。

「お前を指名したのはローゼアールヴァルとの交渉なんかじゃないのさ。叩き潰す為にエルフの血を引くお前の力が必要だった。これまでと言うなら消耗したお前を殺すまでだ」


「次はウインドー・ナイツを敵に回すだけだ」


「お前のマスターには戦死と報告しといてやる」


「分かった」

 ギリアムが傭兵を振り解きマルガスに向い歩み寄った。

「向う方向が違うだろ? それ以上近付くな」

 マルガスが暴れるアイナの上着の中に剣を潜り込ませ一気に切り裂いた。


「いやぁ――」

 天を裂く様なアイナの悲鳴が響いた。


「娘の綺麗な肌に傷が付くぞ」

「人質等、私には関係のない事だが、あの少年は違う」


 シオンが静かに立ち上がるとシオンの内に怒りと魔力が再び、うねり狂い出す。


 その目には怒りが満ちている。

 

 あの少年は何処からあれだけの魔力を引き出しているのか? 自分との戦いで消耗著しかった筈だ。

 一度、消耗した魔力を短時間で取り戻す事等、ハイエルフでも出来ない芸当だ。

 

 (あの少年は一体何者? それにこの魔力の大きさは、なんだ)

 

 ギリアムは困惑した。

 

 怒りは天をも焦がす程の凄まじく、それに呼応してかのように空には雷雲が広がり出した。


 To Be Continued

最後まで読んで下さいまして誠にありがとうございました。<(_ _)>


次回の更新もお楽しみに!

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